デジタル通貨は当面、米ドルに取って代わらない:IMFチーフエコノミスト

デジタル通貨は世界貿易における米ドルの重要な役割に挑むことはない、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストは語った。

ドルは卓越した準備通貨

1月7日(現地時間)のフィナンシャルタイムズ(Financial Times)の論説で、2019年1月からIMFのチーフエコノミストを務めるギタ・ゴピナス(Gita Gopinath)氏は、仮想通貨は「興味深い可能性」を示しているが、卓越した準備通貨であるドルに取って代わるにはインフラや世界での受け入れが十分ではないと記した。

「決済テクノロジーの進歩は、グローバルな準備通貨となるための基本的な問題を解決しているわけではない。米ドルの地位は各種機関、法の支配、そしてアメリカが提供しているとされる信頼性の高い投資家保護によって支えられている」

デジタル通貨が世界の準備通貨である米ドルに直接的に挑戦する可能性は、複数の金融界の大物が提唱してきた。退任を控えたイングランド銀行のマーク・カーニー(Mark Carney)総裁は以前、準備通貨のバスケットに裏付けられた中央銀行デジタル通貨(CBDC)、いわゆる「合成基軸通貨(synthetic hegemonic currency:SHC)」はグローバル化が進展するなか、各国の経済にメリットをもたらす可能性があると示唆した

しかしゴピナス氏によると、SHCはグローバルな取引のバランスを改善する可能性はあるものの、まず世界的に受け入れられる必要がある。世界のGDPに占める割合を徐々に増している多くの新興国市場は、米ドルに切り替えており、SHCの受け入れは当面起きそうにないと同氏は述べた。

IMFによると、米ドルは2019年第3四半期、世界の外貨準備高の60%以上を占め、過去1年間で1000億ドル(約11兆円)以上増加した。2位はユーロだが、わずか20%を占めるに過ぎない。

世界の外貨準備高における通貨の割合(出典:IFM)

取り組みが進む中央銀行デジタル通貨

2019年、各国の中央銀行はデジタル通貨の発行について公に発言し始めた。中国人民銀行(PBOC)は2019年夏、リブラ(Libra)のような民間による取り組みに代わるものとして、また海外での人民元のポジション向上のために、長く開発を続けてきたデジタル人民元の発行は「まもなく」であると明らかにした

米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は2019年11月、FRBはデジタルドルがアメリカ経済にメリットをもたらすかどうかを調査していると語った。欧州中央銀行のクリスティーヌ・ラガルド総裁も最近、欧州中央銀行はCBDCについて、デジタルユーロの目的を明確にする必要はあるものの「先手を打つ」べきと述べた

IMFは以前からデジタル通貨の研究を提唱してきた。2016年、ラガルド氏がIMF専務理事だった際、同氏は中央銀行は金融包括(ファイナンシャル・インクルージョン)を促進し、決済におけるプライバシーを改善するためにCBDCの発行を「真剣に」検討すべきと語った

だがIMFはまた、時期尚早な導入に対しては反対している。2018年9月、マーシャル諸島共和国に対して、米ドルと連動したデジタル通貨の発行は再検討するよう述べた。IMFの報告書は、同国が厳格なマネーロンダリング対策を導入しない限り、アメリカの銀行との間のコルレス銀行(中継銀行)としての重要な関係を失い、ドルへのアクセスを失うことで、グローバルな金融システムから事実上切り離される可能性があると記した。

翻訳:下和田 里咲
編集:増田隆幸
写真:Gita Gopinath image via Wikipedia/WEF
原文:Digital Currencies Won’t Replace US Dollar Anytime Soon: IMF Chief Economist