ギャップに注意──なぜイーサリアム価格とDeFiの普及はシンクロしていないのか

1991年の著作『キャズム』(原題:Crossing the Chasm)でマネジメントコンサルタントのジェフリー・ムーア(Geoffrey Moore)氏は、新しいテクノロジーのアーリーアダプター(初期採用者)と、テクノロジーを後から取り入れる大勢のユーザーの間のきわめて重要なギャップについて定義した。分散型金融(DeFi)はいま、そのギャップに近付いているのかもしれない。

当記事は、イーサリアム(ETH)を担保として、ドルと連動したステーブルコイン「ダイ(DAI)」を発行して融資を行うDeFiサービスに焦点を当てる。

レンディング(融資)は分散化され、参加者のオープンなネットワーク、そしてコンピュータープログラムで作られたルールとインセンティブによって管理される。借り手は、収入を得るためにステーブルコインを預けたり、現金と交換したり、イーサリアムや他の仮想通貨でのレバレッジをかけた投資に利用する。

DeFiレンディングの成長には目を見張る。だがイーサリアム価格との関係には注意しなければならない。

イーサリアム上に構築されたDeFiレンディングに対する需要はイーサリアム価格と逆相関関係を見せている。つまりイーサリアム価格が下がると、DeFiに担保として預けられるイーサリアムは増える傾向がある。だが最新のデータはその関係は逆でも成立することを示している。

※データはコンコース・オープン(Concourse Open)を通じてディファイ・パルス(DeFi Pulse)から入手した。

2020年年初からのイーサリアム価格(青)とDeFiレンディングに預けられたイーサリアム(黃)の推移

この関係が続けば、既存のイーサリアム保有者の少数に限られていたDeFiレンディングにとって、普及の好循環を意味する可能性がある。すなわち、既存のDeFiレンディングは、キャズムを超えて新しいユーザーをイーサリアムに惹きつけるほどの魅力がない可能性がある。

今回の分析におけるアーリーアダプターはイーサリアムの長期保有者で、イーサリアムの価値は将来的に上昇するという確信に動機づけられている。そうした投資家にとってDeFiレンディングは、上述した通り(イーサリアムを保有したまま)収入を得たり、資金を自由に使う方法を提供する。

こうした利用方法は価格の低下の際に増加する可能性があり、つまりはイーサリアム価格とDeFiレンディングで担保となるイーサリアムの間の逆相関関係を表すことになる。

レバレッジをかけた買いは例外の可能性があり、DeFiレンディングの支持者はこの方向を向いている。

「DeFiが生み出しているのは、ダイを生成して長期的にイーサリアムをレバレッジするために、リスク許容度の高い投資家がイーサリアムを担保にしているという好循環」とメーカーダオ(MakerDAO)のスマートコントラクト責任者マリアノ・コンティ(Mariano Conti)氏はCoinDesk Researchに語った。

DeFiレンディング最大手のメーカーでは現在、最低担保率は150%。つまり、100ドル相当のダイを借りるには、150ドル相当のイーサリアムが担保として必要となる。

ビットメックス(BitMEX)、フォビ(Huobi)、オーケーエックス(OKEx)のようなデリバティブ市場は、イーサリアムを含めた仮想通貨に対して最大100倍のレバレッジを提供している。こうした選択肢を前にして、どれだけのイーサリアム長期保有者がレバレッジ取引の手段としてDeFiレンディングを選ぶだろうか?

仮想通貨投資をまだ始めていない多くの人たちがDeFiレンディングを始めることを思い描くこともまた難しい。一般の人たちは購入したイーサリアムに相当しない額の現金ローンを手にするためにイーサリアムを購入するだろうか?

仮にDeFiレンディング業者が仮想通貨以外の担保を受け入れることができれば、これはささいな進展ではないだろう。

「アイデンティティ・タイプのソリューションに取り組んでいる数多くのスタートアップ企業は担保要件を下げているが、市場に重要な影響を与えるまでには程遠いと思う」とマルチコイン・キャピタル(Multicoin Capital)のマネージングパートナー、カイル・サマニ(Kyle Samani)氏はCoinDesk Researchに語った。

「これがうまく機能するには、困難で絡み合った問題が数多くある」

イーサリアム価格とDeFiレンディングでのイーサリアム預け入れの間の逆相関関係について言えば、もしこの関係が続くとすれば、DeFiレンディングは普及限界に近付いていることを示している可能性がある。

この逆相関関係が壊れたり逆になれば、DeFiレンディングとイーサリアムをより幅広い市場にもたらすユースケースを確かに見つけたことを示しているのかもしれない。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Eth deposits in DeFi lending & price, 2019-2020 (chart)
原文:Mind the Gap: Why ETH Price and DeFi Adoption Aren’t in Sync