DeFiで稼ぐ人たち①── グラミー賞アーティスト、エンジニアの話

ひとりはグラミー賞受賞歴があって、時間をもてあそんでいるミュージシャン。もうひとりはパンデミックで家の中にとじこもるソフトウエアエンジニア。データサイトの編集者と暗号資産(仮想通貨)に投資するファンドマネージャーもいる。

共通点はDeFi(分散型金融)を使った「イールドファーミング」と呼ばれる、ほとんど知られていない副業に取り組んでいること。

彼ら彼女らは「イールドファーマー」と呼ばれ、2020年以前にはそう呼ばれることはなかった。イールドファーミングは、債券のような確定利回りを生み出す。少なくとも短期的に見れば、他の手段では得られないような利回りだ。

簡単に説明すると、暗号資産保有者がビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの暗号資産、あるいはテザー(USDT)やダイ(DAI)のようなドル連動型ステーブルコインをブロックチェーンベースのDeFiプラットフォームに預け入れ、引き換えに報酬として利回りやDeFiプラットフォームが発行するトークンを受け取ることを言う。

イールドファーミングは、銀行の普通口座にお金を預け、わずか0.01%の金利を得るよりも、素早く、より多くのお金を手にすることができるという。

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イールドファーミングのブームは2020年6月、DeFiプロジェクトのコンパウンド(Compound)とAaveがスタートした時に始まった。その後、カイバー(Kyber)、バランサー(Balancer)、ヤーン・ファイナンス(Yearn.Finance)が後に続き、さらにスパゲッティー(Spaghetti)、テンディーズ(Tendies)、スシスワップ(SushiSwap)など、ユニークな名称のプロジェクトが登場した。

こういったサービスを利用して利回りを稼ごうと、多くの暗号資産保有者が殺到し、同業界の成長は驚異的なものになっている。

6月以降、これらのDeFiプロジェクトは8倍に膨れ上がり、データサイトのDeFiパルス(DeFi Pulse)によると、預かり資産は110億ドル(約1兆1500億円)にのぼる。DeFiレート(DeFi Rate)によると、レンディングプロジェクトのファルクラム(Fulcrum)では年換算で53%を超える利回りを得ることができる。新しいプロジェクトに早期に参加できると、利回りはもっと高くなることもある。

ところで、イールドファーマーとはどんな人たちだろうか? なぜ彼らは暗号資産業界の難しい分野に押し寄せてきたのか? どうやって仕組みを学んだのか? フルタイムなのか、それともパートタイムで取り組んでいるのか? どれほど大きなリスクがあるのか?

我々は複数のイールドファーマーに話を聞いた。まずはグラミー賞アーティストとソフトウエアエンジニアの話だ。

グラミー賞アーティストの話

「RAC」ことアンドレ・アレン・アンジョス(André Allen Anjos)は、スポティファイ(Spotify)で200万人を超える月間リスナーを抱える音楽プロデューサー兼レコーディング・アーティスト。2015年にはグラミー賞の最優秀リミックス・レコーディング賞を受賞した。

「2016年後半にイーサリアムに出会った」と彼は語った。

2017年、アンジョスはコンセンシス(ConsenSys)が支援するUjo Musicと連携して、イーサリアムブロックチェーンを使ったアルバムのダウンロード販売を試みた。ファンはブロックチェーン上のスマートコントラクトにイーサリアム(ETH)を送信、アルバムの音楽ファイルは分散型ファイルシステム「IPES(Inter Planetary File System)」を使って提供された。

アンジョス氏が暗号資産に関わるようになった2018年までに、暗号資産の価格は大きく下落した。暗号資産への一般的な関心は衰えたが、アンジョスは違った。

彼はメイカーダオ(MakerDAO)と呼ばれるDeFiプロジェクトを知り、ダイ(DAI)という名のドル連動型ステーブルコインを作成するためにソフトウエアプロトコルに担保を預け入れるというコンセプトに魅了された。

「それがDeFiへの私にとっての入口だった。当時はまだDeFiという呼び名はなかった」

ミュージシャンの仕事はスケジュールが不規則。アンジョスにはイールドファーミングを掘り下げる時間がたっぷりあった。

「私はミュージシャン。それがフルタイムの仕事だ。毎日はとても自由で、何でも好きなことができる」

好きなことにはソーシャルメディアや新しいDeFiプロジェクトについて研究する時間も含まれる。

「ツイッターを見れば、みんながヤムについて騒いでいる」と8月に人気が爆発し、その後すぐにソフトウエアのバグが見つかり消滅したDeFiプロジェクトに触れ、アンジョスは語った。

アンジョスと数分話をすると、すぐにマニアックなところに話は進んでいく。彼はステーブルコイン分散型取引所のカーブ(Curve)に魅了されている。

「ステーブルトークンのプールで、より効率的なボンディングカーブ上にある」

アンジョスのようなイールドファーマーは、暗号資産を流動性として提供する見返りに、取引所から取引手数料を得ることができる。その後、他の暗号資産ユーザーはアンジョスが提供した暗号資産を借りて取引に使ったり、別のイールドファーミングさえ行うことができる。

「カーブはかなりの額の手数料を生み出していて、それがプールに行き、さらに関心を惹きつけている」とアンジョスは述べた。最近では、アンジョスはカーブを真似たスワーブ(Swerve)に夢中だ。従来の銀行口座の金利はゼロになったが、スワーブは250%の利回りを提供していると彼はツイートする。

アンジョスは、音楽でDeFiを使う方法を考え続けている。スタートアップ企業のゾラ(Zora)の支援を受けて、イーサリアムブロックチェーンを通じて、最新アルバム「$TAPE」のトークン化されたカセットを100個限定で販売した。

「音楽で何かをするチャンスはたくさんあると考えている。音楽業界は仲介者が溢れている。完璧なユースケースになるだろう」

ソフトウエアエンジニアの話

早起きしてMacBook Proを立ち上げると、「devops199fan」という名のイールドファーマーは、ツイッターをチェックする。DeFiで稼ぐための新しい方法を探すためだ。

チャンスを探すことは、ツイッターに多くの時間を費やすことを意味する。Devops199fanは、DeFiプロジェクトのコンパウンドの創業者ロバート・レシュナー(Robert Leshner)から、約3万人のフォロワーを抱えるリサーチャーの「Hasu」のような匿名アカウントまで、約140人をフォローしている。

ツイッターを見た後は、ウェブサイトの「Yieldfarming.info」をチェックする。サイトは数多くのリソースを表示するターミナルのようなUI(ユーザーインターフェイス)になっている。

「どんな時でも、利用できる数多くのさまざまなチャンスが存在している」と、devops199fanはビデオ通話でCoinDeskの取材に答えた。本名を明かさないことを条件にインタビューに応じた。

「そして時間が経つにつれて、ますます多くのチャンスが作られている」

イールドファーミングはまだ副業だ。devops199fanの本業はソフトウエアエンジニア。イールドファーミングによる利益が、収入のかなりの部分を占めるようになっているが、仕事をやめるつもりはない。

新型コロナウイルス感染拡大とロックダウンによって、devops199fanは在宅勤務となり、イールドファーミングのための時間はたっぷりある。ただ、それは趣味の領域だという。

devops199fanの一番のお気に入りは、ヤーン・ファイナンス(Yearn.Finance)。さまざまなDeFiプロジェクトを組み合わせて、利回りを稼ぐことができる。「DeFiで生まれたサービスの中で、最もクールなもののひとつだ」とdevops199fanは語った。

後編(25日公開)では、編集者とファンドマネージャーに話を聞いた

DeFiで稼ぐ人たち②── ウェブ編集者、ファンドマネージャーの話

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Shutterstock
原文:Meet the Yield Farmers Plowing Cryptocurrency’s Riskiest Trend