マネックス福島氏が分析する「数字で見るブロックチェーン・ビジネス」JBA西村氏がゲスト【イベントレポート】

マネックス福島氏が分析する「数字で見るブロックチェーン・ビジネス」JBA西村氏がゲスト【イベントレポート】

日本国内のブロックチェーン関連の業界動向、実証実験データ、規制などあらゆるデータが網羅的に分析された『Blockchain Data Book 2020』。2020年6月にこの入魂のデータブックの制作を発表したのはマネックスクリプトバンク。その執筆者である福島健太氏を迎え、ブロックチェーンの最新動向を分析するオンラインイベント「数字で見るブロックチェーン・ビジネス」が8月7日、開催された。

ゲストには、日本ブロックチェーン協会(JBA)の広報委員長であり、マネーパートナーズグループ社長室長である西村依希子氏を招いた。主催はブロックチェーンのビジネスコミュニティ「btokyo members」。CoinDesk Japanがメディアパートナーを務めたこのイベントをレポートする。

なお本イベントの動画は会員登録の上で同サイトで無料視聴が可能だ。

ブロックチェーンの歴史を振り返る――暗号資産とFXの対比

ブロックチェーンは、暗号資産(仮想通貨)を支える技術として登場したが、今や暗号資産を超えて広がっている。福島氏は、ブロックチェーンの歴史を振り返るため、まずは暗号資産とFXの対比データを紹介した。

FXは1998年、改正外為法の施行で個人に外国為替取引ができるようになって始まった。当初は業規制が存在しなかったが、投資家保護のために登録制になり、今では金融商品取引法の登録を受けた業者しかサービスを提供できない。

FXの取引残高の年次推移をみると、ピークは2015年で5,000兆円を超えている。その後、取引残高は、レバレッジが規制されるとともにやや減少傾向にあるものの、2019年でも3,000兆円を超える規模がある。

暗号資産(仮想通貨)もFXと同じような歴史をたどってきている。規制がないところから始まり、流出事件などを経て規制が整備されているからだ。

暗号資産取引高について、2018年9月から2020年2月までの月次推移でみると、多い月で10兆円程度だ。年間の取引残高をみると100兆円ほど。知名度こそ高いが、FXと比べるとまだまだ取引量は少ないことが分かるだろう。

西村氏はFXについて、「ブランディングに失敗し、信頼できないイメージを植え付けてしまった面がある」と指摘する。規制がない状況でFXを始め、手痛い損失をこうむった人が一定数いたからだ。その上で、西村氏は、ブロックチェーンがFXと同じ道をたどることなく、色んな業界にビジネスとして浸透することを望んでいる旨を述べた。

ブロックチェーンの市場規模は?IotやAI、XRとの比較

ブロックチェーンの市場規模は、IoTやAI、XRといったほかの最新技術と比較してどの程度なのだろうか。福島氏は、大手シンクタンク等が公表する市場規模のデータを、比較のため1つの座標軸にプロットした。

並べてみると、IoTの市場規模は2019年に7兆円を超えており、頭一つ抜けていることが分かる。AIの市場規模は2017年に2,000億円を超え、XRの市場規模は2019年で約2,000億円もしくは約4,000億円とされている。

1,000億円に満たないブロックチェーンの市場規模は、他の最新技術と比較すると、まだまだ成長途上といえるだろう。しかし、2017年から2019年にかけて市場規模は右肩上がりで拡大していることから、今後ますます成長が期待できる分野だと考えられる。

ブロックチェーンに世界中が熱狂した2018年

福島氏は続いて、ブロックチェーン関連サービスの企業設数を示した。データをみると、2008年から増加傾向が続き、2014年から2018年にかけて急増。ピークの2018年には、1年間の企業設立数が100社を超えている。こうした流れを受けて福島氏は、企業設立数の推移は、ちょうどブロックチェーンの盛り上がりと同じ動きをしているとみる。

西村氏も「2016年から2018年にかけては世界中がブロックチェーンに熱狂していた」と語った。その頃は、これからのビジネス展開について絵を描き、夢を語るフェーズだった。そこから規制が整備され、夢を語るだけでなく内容を精査して実現に導くフェーズへと移行したというのだ。

新しい技術が登場すると、最初は人々が熱狂して参加者が徐々に増え始め、ある時点で急増する。その後の広く普及していくにつれ、参加者の流入が落ち着く時期が訪れる。

企業設立数が減ったことは、ある意味ブロックチェーン・ビジネスが正しい方向へと向かい始めた指標ともいえるかもしれない。

ICOからVCへ――資金調達にみるブロックチェーン動向

ブロックチェーン・ビジネスの動向について福島氏は、「資金調達件数」からもみてとれると述べた。

先ほど述べた「企業設立数」は、2018年がピークで2019年に半減した。しかし、スタートアップの「調達件数」は2018年の約25件から2019年約35件へと増加し、企業設立数とは逆に動きをみせている。2020年6月時点でもすでに15件のデータがあり、福島氏は、年間でみれば2019年を超える可能性は十分にあると予測する。

振り返れば2017年には、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)が高い注目を集めた。まさに過熱、ブームだったといっても過言ではないだろう。ICOとは、あるプロジェクトを実現したい個人・法人がその目的達成の資金にあてるために新規に仮想通貨(コイン)を発行。プロジェクトの目的や方針に賛同する投資家が、コインを購入して支えるもの。個人からの新しい資金調達手法といえる。ただ実態のないプロジェクト、内容のないホワイトペーパーなど、詐欺・スキャムも多く各国が規制を強め、一気に熱は冷めてしまった。

これに対して、現在ブロックチェーンに関心を寄せているのはVC(ベンチャーキャピタル)だと考えられる。目新しさからコインそのものに対する投資が加速したのち、通常の株式投資に戻りつつあるといえるだろう。

同時に、ブロックチェーンの実証実験の数も2018年から2019年にかけて倍増している。このデータからも、ブロックチェーンのプロジェクトが活発に稼働し始めていることが分かろう。

福島氏はまた、ブロックチェーン別の実証実験データも紹介。それによると、ブロックチェーンの種類が判明している中で最も多いのはHyperledger Fabricの27件で、次いでイーサリアムの21件と続いている。福島氏は、ベンダーによって得意不得意があることを指摘し、ベンダーは1社にしぼらず何社か比較検討して傾向を見ることが大切だと話した。

ブロックチェーン・ビジネスを行う企業の動向

続いて、福島氏はブロックチェーン関連サービスを提供する企業のタイプを分類した。

日本国内全430社のうち、ブロックチェーンにフルコミットしているスタートアップが150社で、圧倒的多数を占めている。次いで、大企業の子会社としてブロックチェーンに専念しスピンアウトした企業66件が続く。上場企業も、スタートアップと比較すると数は少ないものの、31社存在している。多くの企業がブロックチェーン関連ビジネスに乗り出しているのだ。

福島氏はまた、事業内容別の社数も示した。それによると最も多いのはコンサルで約60社。次いでトークンが約55社と続く。これは、自社で暗号資産を出すと必然的にトークンが必要になるからだ。福島氏は、多くの企業がさまざまな事業を行っているものの、取引所以外で事業として成り立っているものは少ないとも指摘する。

西村氏は、コンサルサービスを提供する会社の中には、信頼性のある知識に基づかないサービスを提供する会社も含まれているとし、事業者に注意を呼び掛けた。

福島氏は、(サービスではなく)プロダクト数にフォーカスしたデータも提示した。最も多いのはウォレットを提供する会社で、総数は40社を超えている。次いでSaaS(Software as a Service)、エコシステムが35件超と続いた。

SaaSとは、クラウドで提供されるソフトウェアのことだ。エコシステムは、広義ではSaaSに含まれるが、既存インフラ全体に影響を与えるインパクトの大きい領域を特別に区分したものだ。たとえば、電力のB2B取引ができるプラットフォームはエコシステムに分類される。

西村氏は、車両のデータ改ざんにブロックチェーン技術を活用するモビリティ領域にも注目している。ただ、海外と比べて日本での障壁は高いことから、現在はまだモビリティ分野に取り組む企業数は少ないとみている。

「金融」と「非金融」──2つの領域で注目される動き

ブロックチェーンは最初に金融領域で広がったが、福島氏は、今後は「金融」と「非金融」の2つの領域に分かれて発展すると予想する。

産業別の日本国内の実証実験数のデータをみると、全184件のうち、金融が占めるのは66件だ。割合にして約36%であり、金融の占める割合はイメージするほど高くないことがわかる。金融に続くのは、情報通信業の30件、電気の23件だ。

今後は不動産や保険に波及、実証実験の領域も拡大へ

電気に関する実証実験が多い背景には、太陽光発電で余った電力を売るというスキームが存在するからだろう。また、不動産や保険などの既存ビジネスの課題をブロックチェーンで解決する分野では、盛んに実証実験が行われている。福島氏は、情報通信や電気に加え、今後は不動産や保険に関するビジネスがますます増加し、幅広い領域で実証実験が行われるようになると予測する。

一方金融では、最もホットな話題はCBDC(中央銀行デジタル通貨)だ。国家がどのようにイニシアティブをとり、CBDCを流通させていくのか、政策動向からも目が離せない。また、福島氏はCBDC関連領域のビジネスは立ち上がりが早いと予想する。

コロナ禍による社会の変化はブロックチェーンの起爆剤となるか?

「ビットコインの起爆剤は激しい価格変動にあった」──。福島氏はこう指摘した。価格変動が激しいビットコインは、良くも悪くも世間に注目され、その過程で多くの議論がなされた。そのことが、コミュニティを作り、マーケットを広げる結果となったのは事実だろう。

一方ブロックチェーンは、今のところ起爆剤に欠けている。ビジネスに大きな変化をもたらす可能性が高いとはいえ、現状のビジネスに大きな不満が生じているかというと、そうではないからだ。インセンティブに乏しい状態では、実証実験も進まない。

今の日本では、ブロックチェーンに詳しい人と全く知識がない人の差が激しく、リテラシーの差が埋まりにくい。こういった現状を踏まえ、福島氏はレポートの執筆に踏み切ったという。ブロックチェーンに詳しくなくても、入り口としてレポートを読むことで、議論の土台を共有できると考えたからだ。

また、福島氏には「コロナによる社会の変化がブロックチェーンの起爆剤になるのではないか」という想いがある。新型コロナウイルスの感染拡大にともない、世界でも日本でも急速にリモートワークが広がり、ペーパーレス化が進んだ。ブロックチェーンとDX(デジタルトランスフォーメーション)がセットで語られるようになったのも、この頃からだ。

リモートワークによって生まれた時間を利用して、色んな立場の人にブロックチェーンの議論をして欲しい。そんな想いが、約720ページに及ぶ福島氏のレポートには込められている。

「Why Blockchain?」の答えは、ニーズありきの課題解決

西村氏は、ブロックチェーンに関するよくある疑問として、「Why Blockchain?」があると指摘する。これは「なぜそれをブロックチェーンでやる必要があるのか(データベースや既存の送金システムではできないのか)」ということで、西村氏は現状について、「その疑問を抱きつつも、可能性を感じた一部の人が実証実験を行っている」と分析した。

しかし、“ブロックチェーンありき“で議論するのは実は正しくない。本来は、業界ごとのニーズに基づいた課題解決の1つの選択肢として、ブロックチェーンが語られるべきなのだ。西村氏も、今後のブロックチェーンは、「自分が作りたいものを作る」から「ニーズがあるものを作る」という流れにシフトする必要があると話す。

そう過程すると、大切なのはブロックチェーンの情報にアンテナを張るだけでなく、まずは自社や自分の業界が潜在的に抱える課題を見つめ直す視点を持つことではないだろうか。

ブロックチェーンが課題解決手段の1つとして浸透した先にくるフェーズは、「ブロックチェーンだからこそ、課題解決にとどまらず、プロダクト同士をつなげてさらに利便性を向上できた」というものだろう。ブロックチェーンに投入するデータの正確性を担保するなど、ブロックチェーン関連ビジネスも同時に発展するはずだ。

自社や業界の課題と向き合い、ブロックチェーンを(あくまで)選択肢の1つとしてと導入について検討する。そう考えられるようになった時、ブロックチェーンが私たちの社会に浸透しているはずだ。

文:木崎 涼
編集:濱田 優
画像:btokyo members

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