「ファンマーケティング2.0」デジタル+金融が変える顧客エンゲージメント──元P&G音部氏、ファンズ藤田氏、ブーストリー佐々木氏が語る

「ファンマーケティング2.0」デジタル+金融が変える顧客エンゲージメント──元P&G音部氏、ファンズ藤田氏、ブーストリー佐々木氏が語る

情報、商品、サービス、すべてがあふれかえる時代。企業はどのように、消費者との関係性を構築すればいいのか──。変化し続けるマーケティングの世界で、今「ファイナンス×マーケティング」が注目を集めている。

2020年10月26日、ブロックチェーンのビジネスコミュニティ「btokyo members」によるオンラインイベント「ファンマーケティング2.0——顧客エンゲージメントを変える『デジタル金融』の新手法」が開催された。

btokyo members
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スピーカーは、個人投資家と企業をつなぐ新しい資金調達・ファンマーケティングのサービスを提供する藤田雄一郎氏(ファンズ代表取締役)、野村グループでブロックチェーンを活用したセキュリティトークン事業に従事する佐々木俊典氏(BOOSTRY CEO)、P&Gで長年マーケティングに従事した後、ユニリーバ、日産自動車や資生堂のブランドマネジメント・マーケティング組織構築を担った音部大輔氏(クー・マーケティング・カンパニー代表取締役)が、ファイナスとマーケティングの新たな地平について議論した。

ブロックチェーンのビジネスコミュニティ「btokyo members」が主催、CoinDesk Japanがメディアパートナーを務めたこのイベントをレポートする。

なお本イベントの動画は会員登録の上で同サイトで無料視聴が可能だ。

“貸付”に対する投資を通して得られる、企業と消費者の新たなベネフィット

藤田氏が率いるファンズは、「貸付に対する投資」というサービスを提供している。貸付ファンドに投資することで、個人投資家は上場企業に間接的に資金を貸し付けることができる。一定期間が過ぎれば、利息に該当する運用益を受け取れるという仕組みだ。

2011年頃から、クラウドファンディングやソーシャルレンディング市場が注目を集めてきたが、ファンズの特徴は投資対象である企業だ。従来は、クラウドファンディングやソーシャルレンディングを通じて資金調達するのは、銀行からの資金調達が困難な企業が多かった。

しかし、ファンズが取り扱う貸付ファンドの投資先は上場企業だ。その分利回りは下がるもの、個人投資家としてはより安全に企業に貸し付けができるようになった。

そのサービスは、個人投資家と企業をつなぐことにとどまらない。今、同社が力を入れているのは、ファイナンスを通じたコミュニティづくりだという。

情報過多・商品過多・サービス過多の時代、企業のメッセージを消費者に届けるのは困難を極める。広告やキャンペーンに飽き飽きした消費者は、なかなか注目してくれず、一時的に注目を集めることができても、客離れも起きやすい。

企業の想いやこだわりを伝えるには、消費者が関心を持つだけの理由がいる。藤田氏は、投資を通じて、消費者が企業に関心を持つ“理由づくり”ができると考えた。

同社では、投資期間中に、投資対象の企業と交流できる機会を設けている。たとえば、開発中の新商品の試食会や、代表取締役と話せる交流会などだ。こういった情報交換・交流を通して、投資家であり消費者である生活者は、企業や商品・サービスのことを「自分ごと」としてとらえるようになる。企業のメッセージが生活者・消費者に届きやすい状況を、投資を通じて生み出すことができるのだ。

同社の調査では、投資家の9割が「投資対象の企業を応援したくなる」と回答したという。

藤田氏「貸付を通じた出会いの場を提供している」

同社サービスには、また別の特徴として「貸付優待」がある。投資期間中は、店舗での飲食代が10%オフになるなど、企業にとっても投資家にとってもメリットのあるさまざまな貸付優待が用意されている。

藤田氏は事業について、「貸付を通じた出会いの場を提供している」と語る。企業側は、資金調達と同時に、ファンとコミュニケーションをとれる。投資家は、資産を増やすと同時に、“応援する喜び”を得られる。それぞれの比率は、企業や投資家によって変わるが、2つのベネフィットを提供することを念頭に置いて事業を展開しているという。

同社のサービスは、BtoC企業はもちろんのこと、BtoB企業にもメリットがある。BtoB企業は認知度向上に苦戦することが多いが、資金調達を通じて認知度を高め、個人投資家に向けて自社をアピールできる。アンケート結果をみると、貸付ファンドを通して投資したことで、企業の株式購入に踏み切った個人投資家も2割いるという。

投資という入り口で消費者をファンにする

『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)と『マーケティングプロフェッショナルの視点』(日経BP)の著者である音部氏は、「別腹という言葉がありますが、資産形成というのは、ある意味“別耳”だと思っています」と語る。

商品やサービスを「モノ」として訴求しようとしても、忙しい消費者はやすやすと耳を傾けてくれない。しかし「資産形成ができる」となれば話は別だというのだ。消費者としてではなく投資家として、消費者は興味を抱くはずだ。

音部氏は、藤田氏の試みを「“別耳”から入り、商品やブランド、企業の魅力を、消費者に自発的に発見・探求・研究させる仕組みづくり」と表現した。これはまさに、マーケティングの新しい地平といえるだろう。

藤田氏は「モノや価格で差別化するのは困難。作り手の想いやこだわりを伝えることが大事」だとした上で、メッセージを届けるには、消費者を“巻き込むこと”が重要だと語る。投資という形で身銭を投じることは、ある意味、企業やPJに自らも参加することを意味する。そうすることで、消費者は、企業のストーリーや商品へのこだわりといった情報を自ら“取りに行く”。

音部氏は、少人数で開催する試食会がマーケティングの観点から非常に大きな意味を持つと指摘、「消費者に語ってもらうことで、気づけば商品や企業のファンになってもらうことができる」と述べた。藤田氏は実際に試食会を開催した際に、雄弁に批判を述べていた人が、最後には大ファンになってくれたことがあるという経験を明かした。

「消費の糸」ではなく「投資の糸」で企業と消費者をつなげる

野村グループのブーストリーでCEOを務める佐々木氏は、企業と消費者のつながりには、「消費の糸」と「投資の糸」という2本の糸があると説明した。

テレビCMの放映やクーポンの発行といった従来のマーケティングでは、「消費の糸」に対して多くのリソースが割かれていた。しかし、「消費の糸」は切れやすいという特徴があるという。

一方、「投資」しているという事実は、長期に渡って維持される。日常生活を送っていても、店舗に入っても、投資しているという認識は、常に頭の中にあるはず。だからこそ「投資の糸」は「消費の糸」とは違い、切れにくいというのだ。「投資の糸」が、一度切れた「消費の糸」を復活させることすらある。

投資の糸によって切れにくいつながりを生み出そうという取り組みに、ブロックチェーンが活用されている。

野村総研は、2020年3月にブロックチェーンを用いて「デジタルアセット債」というセキュリティトークンを発行した。個人投資家が購入すると、利払い日には、ブロックチェーン上で発行したカフェポイントが付与される。カフェポイントは、個人投資家がカフェを利用する際にQRコード決済で利用できる。

従来の金融の仕組みでは、お金以外のリターンを返すことが難しかった。しかし、今回ブロックチェーンを活用することで、お金以外のリターンを個人投資家に直接届けられるようになった。

この仕組みを利用すれば、BtoC企業は資金調達と商品・サービスの訴求を同時並行で行える。従来の「CMを見る→商品を探す」と行動だけでなく、「投資をする→商品に興味を持つ」という態度変容を生み出せる。

資金調達・ファンとコラボした商品開発・ファンコミュニティづくりを同時に実現

同社は野村ホールディングスと連携して、2020年7月に無添加アスパラスープの「会員権」を発行している。1口5万円もする会員権を保有することで、アスパラスープづくりのプロジェクトに参加できるという体験型の会員権だ。消費者は試食会に参加し、味について議論しながら、一緒に商品開発を進めることになる。

資金調達・ファンとコラボした商品開発・ファンコミュニティづくりの3つを同時に実現しようという画期的な試みだ。

音部氏は「古典的な見方をすれば、本来は企業がお金を“払って”商品開発に協力してもらうのが妥当。それを、お金を“もらって”商品開発に協力してもらっている。ここに真理がある」と指摘、会員権は「アドベンチャーに参加できる権利」に近いと分析した。冒険したいけどどうやって冒険していいかわからない人が、パトロンになって冒険者を応援できる。苦行をともにする中で、パトロンと冒険者の絆は強まっていく。これがコアなファンを生み出すことになるのだ。

佐々木氏は、今後は会員権に資産性を持たせ、転々流通する仕組みを作りたいと構想を明かす。プロジェクトが盛り上がりを見せ、参加希望者が増えたら、会員権の価値が上昇する。そうすれば、会員権の保有者は、転売で利益を得ることも可能になる。プロジェクトにコミットするほど、金銭的なベネフィットも上がるというわけだ。

「今回の商品開発のように、“お金では買えない権利”は、消費者にとっては実はとても価値のあるもの」という佐々木氏はまた、「企業側はそれに気づいていないことも多い」と指摘する。非金銭的なリターンを通じて、コアなファンを作れるとしたら、企業側のメリットは計り知れないだろう。

将来の目標・到達点の一つとして、証券トークンや会員権を持っている人が“VIP待遇”を受けられる状態を想定している。ポイント付与は、ベネフィットとしては分かりやすいが、あくまで“ディスカウント”の域を出ない。本当のファンづくりにつながるのは、保有者だけの“VIP待遇”だという。保有者に体験価値をもたらすことが重要なのだ。

ブロックチェーン上で企業と投資家がつながり、情報や体験が行き交う世界

佐々木氏は、従来の社債とセキュリティ(証券)トークンの違いについて、次のように語った。

社債は、発行者である企業と投資家の間に、発行代理人や証券会社といった多くの組織が介在していたため、企業は投資家が誰かを知ることができなかった。しかし、ブロックチェーン技術を活用すれば、発行者である企業と投資家である消費者が同じネットワーク上に存在するため、企業は、誰がどのくらいのトークンを保有しているかを把握できる。

音部氏は、企業が投資家を把握できることは、「リターゲティングしやすい」といった表層的なメリット以上の価値を企業にもたらすと指摘した。投資という行為は、消費者のエンゲージメント(関与度)をブーストさせる効果があるという。

音部氏「金の継ぎ目が縁の継ぎ目だ」

行動経済学では、多くの時間を過ごし多くのエネルギーを投入するほどエンゲージメントが上がり、ロイヤルユーザーになるといわれる。金銭を投じるという行為は、まさにエンゲージメントを上げる行為だ。

音部氏は「“金の切れ目が縁の切れ目”という言葉があるが、今後は“金の継ぎ目が縁の継ぎ目”となるはず。まさに新しいマーケティングの手法」と締めくくった。

佐々木氏は、「企業や店舗、金融機関、生活者がすべて同じネットワーク上に存在し、多様な権利が安全に取引できる世界観を描いていきたい」と語る。消費者が得られるベネフィットは、金銭的なベネフィットに限定されない。情報や体験といったさまざまな価値が、リターンとして企業から受け取れるようになるのだ。

ただ、同じネットワーク上に存在するといっても、投資家同士の個人情報が知れ渡ってしまう心配はない。暗号化と閲覧制限によって、企業だけが投資家情報を閲覧できるようにするといった設計ができる。改ざんできない状態でブロックチェーン上に個人情報を保存しつつ、開示度合いは臨機応変に変えられるというのだ。

音部氏は、少人数での体験型イベントなど限定的なコミュニティでは、お互いの情報を知ることはむしろ投資家にとってメリットになりうると指摘する。投資家が人脈作りを求めている場合、“連絡先交換”と同じような感覚だという。こうしてコミュニティが育成されれば、企業にも大きなメリットがあるだろう。

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(右上から時計回りに)佐々木俊典氏、藤田雄一郎氏、音部大輔氏、神本侑季

4P分析に加わる「5つ目のP」がマーケティングを変える

マーケティングについて音部氏は「市場創造が大事」と語る。

市場創造とは、今あるところを刈り取りにいくのではなく、良い商品・良いサービスの定義を変えることだ。ファンズやブーストリーの事業は、まさに「良い投資」「良いファン」の定義を変える取り組みだという。

マーケティングには、「4P分析」という手法がある。
・Product(プロダクト:商品・サービス)
・Price(プライス:価格)
・Place(プレイス:流通ルート・場所)
・Promotion(プロモーション:広告宣伝・販売促進)
の頭文字だ。

音部氏は、
・Participant(パーティシパント:参加者)
が、新たなPとして加わる時代になったと語った。

成功したブランドは、消費者が“所有感”を持つようになる。一消費者という認識ではなく、自分たちが商品・サービスを変えていきたい、守っていきたいという認識が生まれる。企業が自社のマーケティングを考える時、今後はParticipant(パーティシパント:参加者)をいかに巻き込んでいくかが重要であり、そのチャンネルとして、“投資”は大きな意味を持つはずだ。

文:木崎 涼
編集:濱田 優
画像:btokyo members
※ 用語・表現を話者の意図にあわせて一部改めました。

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