ビットコインに乗り出す世界の銀行──2021年、動きはさらに活発化

ビットコインが史上最高値を更新した2020年、伝統的な大手銀行が暗号資産(仮想通貨)に関連するサービスに乗り出している。

銀行はこれまでデジタル資産の動きを注視してきただろうが、その姿勢を公にしてこなかった。2020年下半期、米決済大手ペイパルや、ヘッジファンドのポール・チューダー・ジョーンズ氏とスタンリー・ドラッケンミラー氏が暗号資産市場に参入した。多くの銀行もその動きに加わった。

最新技術の導入に積極的なスイスやシンガポールを皮切りに、銀行業界では暗号資産への参入が相次いだ。これまでに伝えられた銀行の動きを振り返る。

シンガポールのDBS、スペインのBBVA

シンガポールのDBS銀行は、同社の暗号資産取引・カストディ(保管)プラットフォーム(国営証券取引所SGXが10%出資)がまもなくサービスを開始すると発表した。

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スイスのデジタル取引所SDXはSBIホールディングスと提携し、シンガポールにデジタル資産取引所を開設すると発表。サービス開始は2022年初頭になる。

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10月の注目すべき出来事は、ロシアのエネルギー大手の子会社であるガスプロムバンク(Gazprombank)がスイスで暗号資産カストディサービスを開始したことだ。

ガスプロムバンクは、金融ソフトウエアプロバイダーのAvaloqとスイスの暗号資産企業メタコ(METACO)が機関機関向けに開発したカストディ技術を採用した。

スペイン第2位の銀行BBVAも同じメタコの技術を利用して、暗号資産の取引とカストディサービスをスイスからスタートさせることが明らかになった。関係者は、2021年1月のサービス開始もあり得ると述べたが、BBVAはコメントを控えた。

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スタンダードチャータード銀行の狙い

ロンドンのスタンダードチャータード銀行(Standard Chartered)は、暗号資産カストディの提供に向け、アメリカに拠点を置く資産運用会社ノーザン・トラスト(Northern Trust)との提携を発表した。

また同行は、LMAXやErisXなど、5~6つの暗号資産取引所と協力して、デジタル資産取引プラットフォームの構築に取り組んでいる。

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「機関投資家向けのインフラを持つことで、機関投資家向け取引の要素を実現していく。機関投資家向けサービスに興味を持っている取引所はすべて、潜在的な顧客となる」と、同行ベンチャー部門の責任者アレックス・マンソン(Alex Manson)氏は語った。

同行が具体的にどこと話を進めているかについて、マンソン氏は「社名や取引所名を具体的に述べることは難しい。多くのプレーヤーや取引所と協議を進めている。最終的に、安全性とコンプライアンス、規制要件が適切に満たされていれば、すべての取引所が加わり、エコシステムとバリューチェーンの一部になるだろう」と述べた。

銀行の暗号資産サービスは数年先

ただし、LMAXのデビッド・マーサー(David Mercer)CEOは、ニュースは銀行の参入を積極的に伝えているが、実際に銀行が暗号資産関連サービスを開始するのはまだ先であり、数年はかかると指摘する。

「ほとんどの場合、銀行は既存のカストディ・サービスを拡張している。銀行がやっていることは、保有する技術力の活用だ」とマーサー氏は述べる。

「暗号資産に参入することは、暗号資産を取り扱い、それを保有することを意味する。暗号資産関係者は、こうした技術サービスを取り上げ、『巨大銀行が暗号資産サービスを始めようとしている』と言っているが、そうではない。銀行はサービスを拡張し、そのビジネスの将来性を考えているに過ぎない」

米銀最大手JPモルガンの動き

従来の暗号資産企業にとって、銀行の同業界への参入から得られるベネフィットは大きい。

これまで、暗号資産業界とのビジネスに対して積極的な銀行は少なかった。シルバーゲート銀行(Silvergate Bank)、シグネチャー銀行(Signature Bank)、メトロポリタン・コマーシャル銀行(Metropolitan Commercial Bank)などが数少ない銀行だ。

暗号資産企業が扱う資金の出所を追跡できないことや、暗号資産ビジネスに参入するためには、顧客確認/アンチマネーロンダリング(KYC/AML)要件の遵守にさらにコストを費やす必要があることから、銀行はを様子見の姿勢を維持してきた。

また、暗号資産に積極的な銀行の規模は、アメリカ最大手のJPモルガンが保有する3兆ドル近い資産に比べれば、きわめて小さい。

今年5月、JPモルガンが暗号資産取引所のコインベース(Coinbase)とジェミニ(Gemini)と取引を行っていたことが明らかになった。両社が複数の規制当局の認可を受けていることがその理由にもなっている。

規制当局が関与すると、アメリカの大手行は業界へのサービス提供を安心して行うことができる。デジタル証券のトークンソフト(TokenSoft)は、2017年からJPモルガンと取引をしているが、その理由の一部は規制が整備されていることにあるとトークンソフトのメイソン・ボルダ(Mason Borda)CEOは述べる。

銀行が稼げる暗号資産ビジネスとは何か

「私は通りをわたって支店に入り、自社の事業を正確かつ効果的に説明し、さらに銀行員に個人的にビットコイン投資を勧めることができた」ボルダ氏によると、対応した銀行員は投資のアドバイスを「丁重に断った」が、トークンソフトは口座を開くことができたという。

カストディ(資産管理・保管)と当座預金は、依然として利幅の小さい金融サービスだ。また、暗号資産業界は、銀行がリスクに見合ったリターンを得る方法を見極める必要のある新しいニッチな業界に過ぎない。

銀行は現在のビットコインの強気相場を牽引しているわけではない。だが、暗号資産業界への参入が続いていることは、銀行は暗号資産を正当な資産クラスとして支持している証だと、多くの人は捉えている。

翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:シカゴ連銀(Shutterstock)
原文:The Big Banks Positioned to Ride Bitcoin’s Bull Ride