バイナンス・スマート・チェーンの低迷が意味すること

バイナンス・スマート・チェーン(BSC)がいくつかのブロックチェーン指標でイーサリアムに勝っていたのはそんなに昔のことではない。しかし、かつてイーサリアムに代わるものとしてもてはやされたBSCも、レイヤー1ブロックチェーン競争が激化する中、成長が鈍化している。

預り資産の成長停滞

一方、BSC上での不正行為「ラグプル(rug pull」の増加は、BSCのセキュリティに関して疑問を提起し、アナリストによれば、一部のBSCユーザーは自らの資産の安全性を懸念して、同プラットフォームを去った。

より安価で高速な取引を通じて新しい資本を惹きつけることは、どんなスマートコントラクトブロックチェーンにとっても大切な最初のステップであるが、長期的にユーザーを引き留めるには、セキュリティと分散化が不可欠であることを、BSCの直面する厳しい状況が物語っている。

暗号資産取引所のバイナンスが支えるレイヤー1ブロックチェーンであるBSCは、預かり資産(TVL)ではいまだに第2位のブロックチェーンではある。しかし現在のTVLは、5月初旬に記録した過去最高のTVLからはほど遠い。TVLとは、ブロックチェーン上のDeFi(分散型金融)プロトコルに預け入れられた暗号資産の価値の合計を指す。

一方、ソラナ(Solana)、テラ(Terra)、アバランチ(Avalanche)をはじめとする他のレイヤー1ブロックチェーンはここ1週間で、過去最高のTVLを記録した。

バイナンスの創業者兼CEO、チャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)氏は、BSCがイーサリアムに勝っているとソーシャルメディア上で宣伝してはばからないが、BSCの広報担当者は、BSCは他のブロックチェーンと「競ってはいない」と語った。

「TVLの成長と引き戻しには、いくつかの要因が関係している。その中でも重要で主なものは市場の状況であり、現状は、BSCのTVLが過去最高を記録した時とは大いに異なっている」と、BSCのサミー・カリム(Samy Karim)氏は語った。

「TVL単独では、DSCのDeFiエコシステムの健全性やパフォーマンスを示唆するものではない」と、カリム氏は主張した。

データサイト、メッサーリ(Messari)のレイヤー1ブロックチェーンの第2四半期レポートは、BSCが5月の市場暴落にとりわけ大きな打撃を受けたと指摘した。

その理由は、BSCに預けられた資産の大半は、流動性マイニング報酬を得ようとするマネー志向の資本であり、BSC上の資産の過半数は、ユースケースをほとんど持たないからであると、メッサーリは説明した。

DeFi Llamaのデータによれば、BSC上でTVLトップのプロトコルは、分散型取引所パンケーキスワップ(PancakeSwap)と貸付プロトコルのヴィーナス(Venus)である。どちらも、TVLは5月初旬に劇的に減少して以来、頭打ちとなっている。

ヴィーナスは5月の下旬、2億ドル相当以上の清算に直面した。その原因は、ネイティブトークンの価格操作の可能性がある。一方、パンケーキスワップは、別のBSC基盤のDeFiプロトコル、パンケーキバニー(PancakeBunny)上での約4500万ドル規模のフラッシュローン攻撃に巻き込まれた。

セキュリティ上の懸念

「BSCはバイナンス・ラグ・チェーンに再ブランディングした方が良かった」と、メッサーリのライアン・ワトキンス(Ryan Watkins)氏は語り、BSC基盤のプロトコルに対するハッキングの増大が、ユーザーを怖がらせていると指摘した。(「ラグ」とは、出口詐欺を筆頭とする不正行為のこと)

ヴィーナスのチームは、セキュリティ改善のためにいくつかのアップグレードに取り組んでいると、ヴィーナスのスタッフの1人は話す。

「すべての主要な変更が完了したら、また通常通りの成長率へと戻り、それは見込みよりもずっとはやいものとなるだろう」と、同スタッフは続けた。

BSC基盤の人気DeFiプロトコル、アルパカ・ファイナンス(Alpaca Finance)のルパート・ダグラス(Rupert Douglas)氏は、BSCに対する攻撃の増加は「ブロックチェーンのサイズとほぼ比例している」と語り、攻撃や失敗に苦しんでいるブロックチェーンはBSCだけではないと指摘した。

「ネットワークが成長するに伴って、ハッカーが注目する標的がより多く現れてくるものだ」とダグラス氏は語り、次のように続けた。

「高TVLのプロジェクトが多いほど、弱点を求めてコードを探るハッカーの数も多くなる。新興の各ネットワークは、そのような状態にまで至っていない。その大半が、高TVLを持つプロジェクトを1〜3つほどしか抱えていないからだ」

分散化を犠牲に

暗号資産取引を手がけるカンバーランド(Cumberland)のネイト・ジョージ(Nate George)氏は、レイヤー1ブロックチェーンを開発する上で、スケーラビリティ、セキュリティ、分散化という3つの基本の1つが、他の2つを最適化するために犠牲になる必要があると語った。これは、ブロックチェーンのトリレンマと呼ばれるものだ。BSCの場合には、分散化が犠牲となった。

Proof-Of-Staked-Authority(PoSA)と呼ばれるBSCのセキュリティアルゴリズムは、21のノードオペレーターによって管理されているが、それらは主にバイナンスにコントロールされている。

BSCの台頭は、イーサリアムネットワークがあまりに混雑し、そのガス代が急騰するのと時期を同じくしていた。ガスとはイーサリアム上で特定の演算を実行するのに必要な演算能力のことで、ユーザーは取引を実施するために、イーサリアム(ETH)でガス代と呼ばれる手数料を支払う必要がある。

バイナンスのジャオCEOは昨年、同社はBSCの設計過程において、イーサリアムに対抗するために分散化の要素を犠牲にしなければならなかったと語った。

「より高い分散化とスピードの間にはトレードオフの関係があるため、コミュニティーが運営する21のノードがあればおそらく十分だろうと決断した」と、ジャオ氏は述べる。

前出のヴィーナスのスタッフは、ヴィーナスがBSCを選んだ理由には、高スピードと低手数料が含まれると語った。それによって、発展途上国にいる人たちも含めたユーザーがヴィーナスの貸付・借入サービスに簡単にアクセスできるようになるからだ。

BSCのカリム氏は、BSCがその「勢い」を継続させるためには、BSCのチームと、BSC上のプロトコルが「先進的なセキュリティレイヤーを導入し、ユーザー認識を高める」必要があるとコメントした。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:チャンポン・ジャオCEO(CoinDesk archives)
|原文:What Binance Smart Chain’s Lagging Performance Means for Layer 1 Blockchains