フォビ、取り締まりに備え海外移転を急いでいた:関係者

中国当局による最新の取り締まり強化の何カ月も前、暗号資産(仮想通貨)取引所を運営するフォビ・グローバル(Huobi Global)は、その事業の大部分を中国からシンガポールに移転していた。事情に詳しい複数の関係者がCoinDeskに語った。

フォビは2017年9月、中国が暗号資産取引所に対する取り締まりを始めた頃から、海外での事業を築き上げようとしてきた。翌月には、シンガポールで独立の法的実体を立ち上げていたのだ。

しかし、上級管理職や一部のスタッフは、今年の5月まで中国で働き続けていた。

5月以降、ビジネス開発やマーケティングなど事業の大部分が海外への移転を開始する一方、より物議を醸しにくい技術チームは中国に残ったと、スタッフらは語った。

そうすることで、中国にあるフォビの法人は、海外に本拠地を持ち、海外で事業を展開する暗号資産取引所に技術を提供するように見せることができ、新たなる取り締まりから身を守れる可能性があったと、スタッフの1人は語った。

中国人民銀行は24日、最新の規制を発表したが、下記の通り、これは中国に残ったテックスタッフさえも脅かすもののようだ。

「関連する海外の暗号資産取引所の国内スタッフや、暗号資産関連の事業に関与していると知っている、あるいは知っているべきにも関わらず、マーケティング・宣伝、決済、技術サポートなどのサービスを提供している法人、非法人組織、個人も、法律にしたがって捜査される」

フォビの4人の元スタッフと、1人の現役スタッフは、機密保持契約を理由に匿名での取材を希望した。元スタッフは、現役スタッフとやり取りすることで、最新情報を得ていると説明した。

スタッフらは皆、取引高で世界最大級の暗号資産取引所であるフォビが、中国当局が同社に対して措置を講じた場合に備えて、ここ数カ月リスク回避の取り組みを行なってきたと語った。スタッフの移動が一時的なものか、永続的なものかを見極めるのは困難であったとも述べた。

(中国人民銀行による最新の取り締まり発表前の)9月22日に、元スタッフらの発言について尋ねると、フォビの共同創業者デュ・ジュン(Du Jun)氏は、同社は「国際的な拡大の途上に」あるため、「それに伴って海外での採用が増加している」と説明した。

そして拡大によって、「フォビがユーザーに対して事業の継続を確保する力が高まる事になる」と、デュ氏は話した。

中国人民銀行の24日の発表を受けて、フォビの担当者は「スタッフを解雇する計画はない」とした上で、同社は「国際的に拡散したオフィス構造を実現」しようとしており、「スタッフの多くは中国大陸にはいない」と述べた。

「記事にしてくれてありがとう@WSJ @ChineseWSJ
長年にわたってフォビは、国際発展戦略を確立してきた。現時点で、グループの事業の70%以上が世界中の国々から生まれるもので、その数は増え続けている」

グレイゾーン

政府が中国の消費者に対する暗号資産と人民元の取引サービス提供を禁止した2017年に、暗号資産取引所は中国から締め出されるはずだった。

2017年に禁止令が発出された後、フォビ、オーケーエックス(OKEx)、その他の取引所は、書類上は中国から出て行ったことになっていた。しかし、フォビは高級管理職が留まった北京で事業を続け、中国の顧客に取引サービスを提供していたと、スタッフは語った。

「(フォビの)ユーザーの大半は中国にいるというのが、暗黙の了解だった」と、1人のスタッフは語った。

フォビは9月25日、新たな規制への対応として、年内までに中国人顧客へのサービス提供停止の計画を発表した。中国人顧客にサービスを提供し続けていたことを暗に認めた形だ。登録ページの国/地域オプションからも、中国大陸が削除された。

それとは対照的に、バイナンスは2017年には中国人ユーザーをブロックし、取引所事業を停止していたと、中国メディアは報じた。

規制当局は、フォビを始めとする一部取引所が、グレイゾーンで事業を続けることを許していたのだ。

規制当局は、そのような事業について学び、監視することに興味があったが、「忍耐の限界を超えた」ようだと、あるスタッフは指摘した。

フォビは特に、中国の中央銀行である中国人民銀行と、2017年の禁止令の頃から緊密な関係を持っていたようだと報じられている。

しかし、フォビは今年5月、規制がさらに厳しくなるという警告を受け取ったと、スタッフの1人は述べた。

形勢の転換

5月には、中国国務院も規制当局に対して、金融や環境にまつわる懸念を理由に、暗号資産取引とマイニングを全面的に禁止するよう求めた。そこから数カ月にわたって取り締まりは強まり、24日に発表された包括的な政策が集大成となった。

中国の検閲機関は6月、ソーシャルメディアやインターネットでの検索結果で「フォビ」やその他の暗号資産取引所をブロックし始めた。同じ月にフォビは、中国ユーザー向けのレバレッジトレーディングを停止したと発表した。

FTXとバイナンスも、世界的にマージン取引を縮小した。

しかし7月には、中国のグレートファイアウォールを回避するために一般的に使われるVPNを使わずに、フォビの中国人ユーザーがレバレッジトレーディングを利用できていたと、2人のユーザーは語った。

6月にはまた、BTCチャイナが取引事業を停止すると発表。オーケーエックス関連の取引所、オーケーコイン(OKCoin)も北京の法人を閉鎖した。

移転が進行中の7月、フォビは北京に拠点を置く法人を解散し、もう使用していないと説明した。公開の情報開示システムを利用して、中国人のジャーナリスト、コリン・ウー(Colin Wu)氏は、フォビがシンガポール移転を目指しているとツイートした。

「中国の国家企業情報開示システムによれば、中国最大の取引所フォビが7月22日、最も重要な中国法人の解散を申請。オーケーエックスも6月に中国法人を解体している。海外、特にシンガポールへの移転を望んでいるのだろう」

中国人民銀行は7月31日、下半期にも暗号資産取引に対して強行姿勢を継続すると語った。そしてその約ひと月後には、非合法の暗号資産取引の「是正」を完了したと発表した。

文化の衝突

フォビが5月にスタッフの海外移転を開始した頃、世界進出の野望からははるかに遠いかのように思われた。

中国人以外の顧客をより多く引き込み、海外オフィスを整備することで国際的な収益を誇る会社になろうとしたが、2017年の取り締まり以降の取り組みの結果はまちまちだ。その拡大戦略を直接知る2人の人物が、機能不全なプロセスについて語ってくれた。

フォビは新しい市場で多くの現地人材を採用したが、意思決定の権限は北京の本社にいる幹部の手に固く握られたままであり、彼らはしばしば、現地の事情を理解していなかったと、スタッフは指摘する。

フォビの幹部の多くは英語を話せなかったと元スタッフは語ったが、これによって、中国外のオフィスとの意思の疎通が困難となった。

フォビの広報担当者は、これらの主張に対して直接反応することはなかったが、同社はここ数年間で「国際的拡大戦略」において「大きな前進」を果たしていると語り、フォビの「事業範囲は5つの大陸にまたがる140カ国に及び」世界中で1000人以上のスタッフを抱えていると、広報担当者は説明した。

中国国外において、共通の言語の不在は、組織の団結に弊害をもたらしたと、スタッフの1人は指摘する。そして、日本と韓国のフォビが成功した理由の1つは、CEOが中国語を話し、北京の経営陣との意思疎通がより上手くいっていたからだと語った。

現地での個人的な関係の重要性から、フォビが中国から完全に移転する可能性は低いと、スタッフの1人はみている。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、フォビの経営幹部は中国国外への渡航を禁止されている。そのため、幹部の直属の部下もその関係を保つために、中国に留まる必要があると、スタッフの1人は指摘した。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Primakov / Shutterstock.com
|原文:Ahead of Crackdown, Huobi Scrambled to Move Staff Out of China, Insiders Say