「分散型マネースタック」で読み解く新しい金融システム

「分散型マネースタック」で読み解く新しい金融システム

先週開催されたカンファレンス「EmTech MIT」において、MITテクノロジー・レビューのチームと、ジャーナリストのシャーロット・ジー(Charlotte Jee)氏との『Demystifying Decentralized Finance(分散型金融の謎を解く)』と題されたセッションを聞きながら、考えたことがある。

DeFi、それ以前にブロックチェーンやデジタル資産といったさらに広範なエコシステムの謎を解く前に、まずは伝統的金融(TradFi)を分かりやすく理解する必要があると思ったのだ。

大抵の人は、支払い、クレジット、資産移動の資本主義システムがどのように機能しているのかを、しっかりと理解していない。それを理解するには、通貨とそれを中心として進化してきた信頼の社会的システムの歴史的ルーツを深く探る必要があるだろう。

そうして初めて、伝統的金融システムについて、そして暗号資産業界がいかにそれをディスラプト(創造的に破壊)しようとしているかについて語るための枠組みを、構築することができる。

この記事では、それを試みてみようと思う。まず、伝統的で中央集権型の法定通貨と銀行を基盤とした金融システムの構成要素を見ていき、その成り立ちと目的を説明する。次に、暗号資産とスマートコントラクトを基盤とした新しい分散型のシステムでは、何がそれらの要素に相当するかを検討する。

ただし、これはこの問題を検討する1つの方法に過ぎない。不一致や矛盾が含まれることは避けられない。

マネースタック

この枠組みは、私が「マネースタック」と呼ぶものから始まる。お金を積み上げることではなくて、ソフトウェアのスタックというアイディアに類似したものだ。

財産/所有権
債務/金融
通貨/交換
台帳/記録管理



スタックの各要素、歴史上の先例、金融システムにおける役割を見ていこう。

台帳

歴史的に、会計という職業は物笑いの種で、退屈の典型とみなされてきた。しかし、謙虚に台帳を管理する会計士こそが、人間社会の基盤なのだ。

私たちが知っている最古の文字が、文明発祥の地である古代メソポタミアの粘土板台帳に刻まれた楔形文字の記録であることは偶然ではない。その粘土板の1つには、史上初めて記録されたと考えられている、名前も含まれている。Kushimという、シュメール人の会計士の名だ。

小さな村だけではなく、より大きなコミュニティー全体の人々がモノやサービスの交換のために契約を取り交わすことのできる、機能する交換のシステムを生み出すため、社会には契約に応じた引き渡しや決済を記録するための、信頼できる記録管理のシステムが必要だった。それが、古代粘土板によって可能となったのだ。

もちろん、そのような取引を記録し、保管するテクノロジーは、粘土板から巨大データファームへと著しく進化した。

しかし、TradFiにおいて、信頼できる記録を作成・管理するための中核的な主要原則は変化していない。中央集権的であり、信頼できる第三者が維持している。それはかつては、Kushimのようなシュメール人の会計士であった。現在では、銀行、インターネットプラットフォームやアプリケーション、政府機関などの組織となっている。

通貨

マネースタックの「お金」の部分は、少なくとも私たちが現在認識する通貨という形態においては、会計のための粘土板とともに誕生した。通貨は人々に交換の手段、モノやサービスの価値を測るための会計単位、将来的に真に価値のあるものに交換できる価値の保管手段を与えた。

私にとっては、お金を社会的テクノロジーとして考えるのが、ベストな理解の仕方だ。私たちが集団で信じるシステムであり、共通で認識される通貨の価値に対する信頼という、共有された基盤を必要とする。

そのような信頼を大きなコミュニティーに拡大させるには、協調が必要であった。それを実現する分散型ガバナンスは存在していなかったため、国家がその役割を担った。政府とお金の関係は、はやいうちに形成されたのだ。

お金のテクノロジーにおける大きな飛躍は、15世紀後半に起こった。メディチ家が、アラブ世界で最初に発展した古代の台帳管理のバージョンである、複式簿記を銀行業務に適用したのだ。

それによって、基盤となる実際の通貨の移動に依存することがなくなったために、お金の支払いや交換の機能が大幅に拡大した。銀行と通貨の発行者の間にも、深い共生的な関係が結ばれることになり、お金の中央集権型システムに2つのサイドが生まれた。

債務

銀行は、クレジットの発展を支えた。通貨システムにとって重要な存在となるに連れ、銀行は社会の預金を集めるようになり、余分な資産を持つ人たちから、使われていない流動性の巨大プールを集め、資産の不足する人たちへの貸付に利用した。

ここから、クレジットを生み出す複雑なマシーンが発展した。経済活動を促進し、価値を預金という形で銀行システムへと戻す、連動した組織からなるシステムだ。

私たちの経済で流通するお金の大半の基盤となっているのは、わずかな準備金のフィードバック・ループである。そのシステムには現在、非銀行系の投資家、貸付業者、グローバルなクレジットを支えるその他の組織など、様々な存在が含まれている。

抑制が効かない状態となると、このマシーンは当然、危機を生み出すこととなった。投資バブルが大きくなってはじけ、中央銀行と、システムから利益を得る中央集権型組織にルールを課す複雑な金融規制の枠組みが誕生した。

財産

より複雑な経済の進化には、人類がモノや土地、その他の形ある財産、そしてサービスや金銭的要求をする契約上の権利の所有権を定義するための、より複雑な法的枠組みも必要となった。

財産権は、証券や証書という形で正式化され、地権事務局などの証明当局が、財産の所有権を証明した。その延長として生まれた重要な存在が、株券だ。投資家が持つ、有限責任会社の部分的所有権と、将来的な利益分配を証明するものである。

このような形で権利を定義することで、オランダ東インド会社やイギリス東インド会社など初期の有限責任会社は、巨大な資本を動員する力を得た。

最近では、紙の証書ではなく電子的記録が使われ、それは一般的に、投資家に代わって、カストディアル銀行が管理している。

分散型マネースタック

TradFiのマネースタックの中心的問題は、その要素がすべて、システムの参加者が中央集権的存在を信頼することを必要とする点にある。台帳を管理し、通貨を発行し、短期的預金を長期的ローンに変換し、財産の権利を証明するために、誰か、あるいは何らかの組織が信頼され、任される必要がある。

そのような信頼が必須ということは、中央集権型の存在が、システムユーザーの利害に反して、自らの利害に即して行動する能力を持つことを意味する。

そのため社会は、法律、規制、会計や監査の手続きからなる複雑な仕組みを発展させ、それらのサービスを人々が信頼して使えるようにしてきた。しかしそれらは取引に摩擦を加え、究極的には、社会に莫大なコストの負担を強いる。

ここで、暗号資産、ブロックチェーン、デジタル資産、そしてスマートコントラクトによる、分散型で仲介業者を排除してくれるという力が効いてくるのだ。

これらのテクノロジーは一緒になって、分散型バージョンのマネースタックを生み出そうとしている。その仕組みは次の通りだ。

台帳=ビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーン

通貨=通貨としてのビットコイン(BTC)、イーサ(ETH)、その他の支払い手段としての暗号資産

債務 = DeFi

財産 = ノンファンジブル・トークン(NFT)

このシステムが完全に統合され、グローバル資本主義のデフォルトモデルとなるまでに拡大するには、まだまだ遠い道のりだ。

そのためのステップの1つは、システムのどの部分に、新しい、あるいは伝統的な中央集権的存在の関与がまだ必要なのか、どの部分は非許可型トークン、ブロックチェーン、スマートコントラクトで対処できるのかを見極めることだ。政府や規制が果たすべき役割を決めることも、進行中の困難な課題である。

しかし、この新しいシステムが様々な方法を使って、どのように古いシステムと同じような結果を出せるかについて、共通の理解を確立できれば、この発展のプロセスの厳しさは軽減される。分散型マネースタックは、その努力を助けようとする私なりの試みだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Primakov / Shutterstock.com
|原文:Introducing the Decentralized Money Stack

おすすめ記事: