暗号資産の推進力は既存システムへの不信感か、それとも投機か?

暗号資産の推進力は既存システムへの不信感か、それとも投機か?

ビットコイン(BTC)やイーサ(ETH)、カルダノ(ADA)をはじめとする暗号資産(仮想通貨)が過去最高の水準に回復するほどに値上がりし、時にはシルバーのような金属や、世界の主要金融機関の株式に匹敵するまでになっている。投資家の考えや特徴、変化を検討するには良い時だろう。

暗号資産を生み出した動機の1つは、法定通貨や民間銀行に取って代わる、政府や国際組織、金融機関による価値の切り下げや検閲に耐性を持つ新しい交換の手段を見つけることであった。

ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトは、第三者の仲介なしに取引を可能にしてくれる電子的支払いシステムが必要だと強調した。イーサリアムの生みの親の1人であるヴィタリック・ブテリン氏は、イーサリアムのデザインを支える重要な原則の1つが「非差別と非検閲」であると考えていた。

暗号資産とは、法定通貨や規制された金融への不信感から求められたものなのか?暗号資産に投資しているのは誰なのだろうか?

国際決済銀行(BIS)の報告書でこの疑問に取り組むにあたって、私たちは2014年〜2019年におけるアメリカ国民を対象とした「Survey of Consumer Payment Choice(消費者の支払いにおける選択調査)」のデータを利用した。

私たちの報告書は、アメリカにおいて暗号資産が、法定通貨や規制を受けた金融に代わるものとして求められているという仮説を裏付ける証拠はなかったと結論づけている。

一般国民と比べて、暗号資産投資家は現金や民間銀行サービスなどのメインストリームの支払いオプションの安全性について、一段と高い懸念を持っている訳ではなかった。(下のグラフの左の2つを参照)

暗号資産は、若くて教育を受けた男性投資家が支配的なニッチな市場のままであることが分かった。アメリカの暗号資産投資家の主な社会経済的特徴の1つが、教育レベルの高さである。若いことも、少なくとも1つの暗号資産を保有する可能性の高さと関連していた。

アメリカの暗号資産投資家(赤)と非保有者(グレー)の比較
項目は左から現金の安全性への懸念、教育レベル、年齢
出典: Raphael Auer、David Tercero-Lucas

暗号資産投資家層の変化

BISの報告書の中では、2019年までのデータを分析した。そのパターンは、新型コロナウイルスのパンデミック期間中に変化しただろうか?最近の盛り上がりも、投資家の構成を変化させたかもしれない。

下の折れ線グラフは、最近公開された2020年の「Survey of Consumer Payment Choice」からのデータを利用したものだ。2020年の調査は10月に実施された。

結論としては、パンデミック期間中には暗号資産に対する需要は高まった。そして投資家の層は2019年と比べて、2020年にははるかに幅広いものとなったのだ。

データによると、アメリカ国民の約4%が少なくとも1つの暗号資産を保有。前年にはその割合は1.9%であった。暗号資産の普及が一段と広まっている。暗号資産について知っている人の数も同様に上昇した。(2020年には72%以上)

次に、下の棒グラフは、不信感は相変わらず不在であるが、投資家が平均的国民により近づいていることを示している。現金の安全性の懸念に関して、あまり差異はない。しかし、2019年と比べて、より教育レベルの低い人たちにも暗号資産が普及しているのだ。

暗号資産投資家の平均年齢も高まった。つまり、暗号資産は若く、教育レベルの高い男性投資家によって保有され続けているが、投資家層と一般国民との差異が時間とともに小さくなったということだ。暗号資産業界をめぐる盛り上がりが高まるにつれ、より「標準的」な投資家がこの資産クラスに関心を持ち、惹かれるようになっている。

少なくとも1つの暗号資産を知っている人(赤)と保有している人(青)の割合の推移
出典: Raphael AuerDavid Tercero-Lucas
2019年(薄紫)と2020年(青)の暗号資産投資家層の特徴
左から現金の安全性に対する懸念、教育レベル、年齢
出典:Raphael AuerDavid Tercero-Lucas

結論

暗号資産の値上がりの継続が、現行の規制を受けた金融市場や通貨の仕組みに対する不信感の増大を示唆するのかどうかを理解することが極めて重要だ。私たちは、そうではないと結論づけた。

政策の観点からは、投資家の目的が他の資産クラスの投資家と同じものであれば、規制も同じであるべきだ。暗号資産は法定通貨や規制を受けた金融の代わりとして求められているのではなく、デジタル投機資産なのだ。

より最近のデータは、暗号資産投資家が一般国民により近づいている、つまり、暗号資産がメインストリームに普及していることも示唆している。

暗号資産市場向けの規制・監視の枠組みを明確化することは、暗号資産がより教育レベルの低い投資家の投資対象となり、普及が広まっている文脈においては、業界にとってメリットとなるかもしれない。

しかし、重要な検討事項の1つは、監視のプロセスの中でテクノロジーの可能性を活用しながら、テクノロジーに中立な規制をどのように適用できるか、という点だ。

そのような枠組みのためのオプションの1つが、「組み込まれた監視」である。つまり、市場の台帳を読むことによってコンプライアンスが自動的に監視されることを可能にするような、暗号資産向けの監視枠組みを導入する、ということだ。

このような枠組みのメリットは数多く存在する。例えば、規制当局が、すべての資産のやり取りが、オンチェーンでの保有暗号資産に裏付けられるよう確実にできるかもしれない。そうすることによって、暗号資産投資家は完全に保護される。データデリバリーは自動化されており、規制当局がブロックチェーン上の所有権の推移を監視するからだ。


※見解は筆者ら個人のものであり、国際決済銀行の見解を必ずしも反映するものではありません。この記事は、BISの「ワーキングペーパー951」をもとにしたものです。


|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:What Drives Crypto Users? Distrust of the System or Speculation?

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