VISAが15万ドルのNFTを購入した理由

あなたが私のような人間だとしたら、暗号資産界隈が静かな一週間を待ち望んで久しいだろう。眠れたらどれほど良いだろうか?しかし、その願いはまたしても叶わなかった。

決済世界大手のVISAは今週、「クリプトパンクス(CryptoPunks)」のNFTを15万ドル(約1650万円)で購入したと発表。「歴史的な芸術コレクション」に、ブロックチェーンアートトークンを加えるためだという。発表に関するブログ記事においてVISAは、「NFTがデジタルコマースの新たな一章となる」と宣言した。

非主流派からメインストリームに近いものへの移行を象徴する、特定の出来事や変曲点が存在する。暗号資産とブロックチェーンではここ数カ月、少なくともそれらの2つが見られた。まず、国民国家がビットコイン(BTC)を真剣に捉えるようになり、そして米上院は、ウォレットプログラマーはブローカーであるかどうかについて議論を戦わせた。

VISAのお墨付き

VISAによるクリプトパンクスの購入は、ノンファンジブル・トークン(NFT)の必然的なメインストリーム化にとって、同様の指標となると私は考えている。

すでに米人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』で取り上げられ、トム・ブレイディからジェイ・Zに至る有名人を惹きつけてきた。

しかし、主要金融機関からのお墨付きとも言える今回の動きは、次なるレベルへの移行を象徴している。皮肉なことに、(当記事を含めた)宣伝効果を考慮すれば、15万ドルはVISAにとっては安い買い物だったはずだ。

今回の発表は2000万ドル規模の熱狂的クリプトパンクストレーディングを誘発し、その盛り上がりは収まる兆しを見せていない。

VISAの今回の動きは、避けられない疑問に私たちを立ち返らせる。非常にコストがかかり、スピードの遅いデータベースに保管された25×25ピクセルの画像に、なぜ15万ドルも支払うのか?、というものだ。

本当に合理的、あるいは実利的な説明を模索しては、おそらく理解できないだろう。しかし、非常にもっともな理由があるようだ。考え詰めると完璧に狂っているとしか思えないような、様々な高額な買い物を私たちにさせるのと同じ奇妙な力、完全に非合理的な動物的脳に深く根ざした理由だ。

固有性の魅力

「指の上を飾る岩がある」と、NFTに特化したブロックチェーンWAXの共同創業者、ウィリアム・クイグリー(William Quigley)氏は指摘した。「何もするとは思えないし、実際に何もしない。それでもそれに1万〜2万ドル支払うのだ」

オンラインでの暮らしにますます移行していくことは、宝石のような実世界でのステータスシンボルが、同様に独占的なデジタルのモノという新しい競合に直面することを意味すると、クイグリー氏は考えている。

ジェイ・Zも、NFLプレイヤーのオデル・ベッカム・ジュニアも最近、数万ドルのクリプトパンクスを購入し、それをツイッターのアバターにした。これがおそらく、現在もっとも一般的なNFTの用途だろう。無用であるということが、核心なのだ。

これを理解するには、テクノロジーについての基本的な知識が不可欠だ。NFTとはつまり、固有であるということを意味する。NFTはビットコイン(BTC)やイーサ(ETH)のようにブロックチェーン上に存在するが、1つのビットコインは基本的に、他の数百万のビットコインと同じである。つまり、(この点に関しては議論もあるが)ビットコインは「ファンジブル(交換可能)」なのだ。

NFTはビットコインと同じように変更不可能だが、たった1つしか存在しない。1万体のクリプトパンクスが存在するが、それぞれが固有であり、その固有性が、その価値に大きな差異を生む。

例えばVISAは、約3800体ある女性のパンクスの1つを購入した。クリプトパンクスがとりわけ魅力的なのは、それらが2017年に発行されたからである。つまり、最初期に生み出されたNFTなのだ。

NFTは様々な形態を持つ。特定のインプットに基づいて変化するようにプログラムされた、インタラクティブなモノにもなり得る。しかし、今最も一般的なのは、画像NFTだ。

その多くは基本的に、どこかに保存されているJPEG画像とリンクされており、資産の信頼にとっては大いなる問題だ。クリプトパンクスは先週、すべてのデータをイーサリアムブロックチェーンに移動したと発表した。

この動きが、VISAの最終決断を後押しすることとなったようだ。イーサリアムへの移動で、クリプトパンクスはより堅固なものとなったからだ。

とりわけクリプトパンクスのような8ビットシリーズのNFTがますます、急速にオンチェーンストレージへと移行することが見込まれる。投資家であれば、その点を特徴として注目した方が良いかもしれない。

これらすべては、驚くほどシンプルな結論を導く。NFTは固有のデジタルなモノである。ビットコインさえも主張できないほどに、独占的なのだ。実世界のステータスシンボルの大半も、NFTと同じくらい固有になる力を持ってはいない。

誰かがNFTアバターを購入する場合、「これが私だと主張しているのだ」と、NFTに特化した投資ファンド、ファンダメンタル・ラボ(Fundamental Labs)のヘンリー・ラブ(Henry Love)氏は語る。「名前入りのカスタムロレックスのようなものだ。唯一無二のものなのだ」

より個人的に感じられる投資

もう1つ重要なのは、VISAが見出しを飾り、ロレックスやダイヤの指輪と比較されているが、NFT熱は非常に幅広く、草の根的なもののようだという点だ。

有数のNFTトレーディングプラットフォーム、オープンシー(OpenSea)での取引高は爆発的に増加。8月の月間取引高は先日、10億ドルを超えた。しかしそれすらも、概略的な見方にすぎない。

ツイッターやテレグラム上でも、収集や作成が熱狂的に行われている。NFT発売のスケジュールが、数年前のイージーブーストやシュプリームの新作発売と同じくらい熱心に注目されている。

その多くは、内部関係者による投機が支えているものだが、100ドル相当のカルダノ(ADA)やソラナ(SOL)を買うかどうか検討することに比べると、ずっとリアルで特別な感じがするものがNFTにはある。

究極的には、単にお金ではなく、アイデンティティや好みに関するものであるため、NFT購入は、ずっと幅広いユーザーベースを引き込むことのできる個人的な要素を持っている。

手数料という壁

しかし、特にクリプトパンクスのようなイーサリアムベースのNFTに関しては、大きなハードルがある。イーサリアムでの取引手数料が、安価な資産の売買を非現実的なものにしているのだ。

私もちょうど、皆に遅れを取るまいと60ドルのアバターNFTを買おうとしていたのだが、取引手数料が50ドルだった。これは心理的には、かなり大きなハードルだ。

だからこそ、より安価なブランドのコレクション品に特化しているWAXや、フロー(Flow)などの低手数料で独立型のチェーンが現在、大きな力を持っており、中核的な価値提案から成長する真のチャンスを秘めているのだ。

さらには、イーサリアムがより手数料の低い、プルーフ・オブ・ステークシステムへの移行を完了させた時には、信頼性という点で大いに勝るイーサリアム上でのNFT市場が、特に低価格品をめぐって、信じられないほど熱狂的に盛り上がる可能性もある。

デイビッド・Z・モリス(David Z. Morris)はCoinDeskのコラムニスト。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Why Did Visa Buy a $150K NFT? Why Does Anyone?