カーボンオフセットは暗号資産には邪魔な存在か【オピニオン】

カーボンオフセットは暗号資産には邪魔な存在か【オピニオン】

セーシェル共和国に拠点を置くデリバティブ取引所ビットメックス(BitMEX)は、10万ドル相当のカーボンクレジットを購入することで、環境フットプリントの低減を図ろうとしている。このクレジットは、7110トンの二酸化炭素排出に相当し、ビットメックスでは、ビットコインベースの自社事業に見合った量だと考えている。

私の知る限り、ビットメックスのエネルギー使用を批判している人などいないことを考えれば、素晴らしい取り組みだ。ビットメックスが手がけるビットコイン取引や企業サーバーからの炭素排出を相殺するこの動きによって、同社は初の「カーボンニュートラルな」暗号資産取引所の1つになると、同社は主張している。(競合のデリバティブ取引所FTXも、同様の取り組みを行なっている)

しかし、問題点もある。カーボンクレジットは宣伝されているようには機能せず、詐欺的であったり、効果が弱いことが多い。ビットメックスの「正味ゼロ」の誓約は称賛に値するが、沈没しかかった船の上でデッキチェアを入れ替えるような、お馴染みの企業戦略に従ったものだ。

今月、130カ国以上の首脳や数千人もの参加者がスコットランドのグラスゴーに集まり、気候変動の問題に取り組むための会議に臨んでいる。

2020年2月時点で、フォーチュン500社のうち約4分の1が、2030年までにカーボンニュートラルになることを誓った。そして、「グリーン」を目指すトレンドで大きな役割を果たしているのが、カーボンオフセットである。

幅広い資産や行動の総称であるオフセットとは、ある分野での環境負荷を低減することで、別の部分での環境負荷の埋め合わせをするものである。汚染の少なかった他の企業からクレジットを購入することで、「カーボンニュートラル」になるという、グリーンに聞こえる誓約を果たすことができるのだ。

言い換えれば、オフセットによって、通常の経済活動を着実に続けることが可能になる。たとえ何があろうと、Xという量の炭素が排出されるが、環境を大きく汚染する企業は、他の企業が汚染を減らすことによってましになれるという理解の上で成り立っている仕組みである。

環境NGOのForest Trendsが推進するイニシアチブ「Ecosystem Marketplace」の新しい調査によると、自発的カーボンオフセット市場は、初めて10億ドルを越えようとしており、これまでの市場価値は67億ドルに達している。罪悪感が分配されているのだ。

「オフセットとはつまり、1トン削減するごとに、別のところで1トン排出するということ」と、メルボルン大学でカーボンアカウンティングを研究するケイト・ドゥーリー(Kate Dooley)氏は指摘し、次のように続けた。「現在、継続的に二酸化炭素を排出できる余地はない。排出量は数十年以内にゼロになる必要があり、大気中の濃度を緩和するために、さらなる削減が必要となる」

オフセットとは、金融化の最悪の形態だ。環境のための積極的行動を、恣意的な経済活動にしてしまっているのだ。カーボンクレジットは、例えば森林再生や太陽光発電などの分野で、持続可能な取り組みを確かに支えているが、それは宣伝されているほどのものではない可能性がある。

環境NGOのグリーンピースは、二酸化炭素吸収源の存続期間は短いことを指摘している。森が燃えたり、切り開かれたり、自然に消滅してしまったら、閉じ込めていた炭素は再び放出されるのだ。

唯一の解決策は、消費と環境に放出される炭素の量を減らすことだと、本当に筋金入りの気候変動活動家たちは認めている。

ビットメックスのリサーチャーたちも、おそらくこれに同意するというのがおかしな点だ。彼らはレポートの中で、カーボンオフセットの妥当性が限られていることを指摘している。暗号資産業界はその問題を直視し、「中身のない約束や、曖昧なESGの誓約」を避けるべきだと、は語っているのだ。

暗号資産の解決策

暗号資産業界は、そのエネルギー消費によって標的とされている。ビットコイン(BTC)は、ネットワークの安全を確保するために、大量のエネルギーを消費するしか選択肢がない。

ビットコインは共有のコモディティである電力を、「プルーフ・オブ・ワーク」を通じて、希少なデジタル資産、国家ではなく支援者たちが支える通貨へと転換するのだ。これこそ文字通りエネルギーの浪費と言うこともできるだろうが、それを止めることはできない。それこそが、分散化の要であるからだ。

ビットコインのエネルギー消費をどのように測るかについても、議論が巻き起こっている。ビットコインネットワークは誰でもチェックできるが、何がその電力源となっているかを保証できる人は誰もいない。

マイナーは、安価な電力源(再生可能エネルギーはしばしば助成金を受けていたり、もともとより安価である)を見つけたり、「取り残された」エネルギー(ガスフレア由来のものなど)を活用する動機があるため、ビットコインは他の通貨に比べてよりグリーンであると言うこともできるだろう。

ビットメックスはビットコインのカーボンフットプリント測定において、ある種異端なアプローチを採用し、取引高にキロワット数を当てることにした。(多くの業界活動家たちは、取引やエネルギー消費に関して、ベースレイヤー通貨ネットワークであるビットコインと、支払いレールであるビザを比べることはできないと主張している。取引数で言えばビザの方が、エネルギー負荷ははるかに少ない)

ビットメックスは、BTC取引手数料に使われた1ドルごとに、最大0.001トンの炭素が排出されていると推計した。「炭素排出のコストを1トンにつき50ドルとすると、取引手数料として支払われる1ドルにつき、(ビットメックスは)その炭素排出のオフセットのために5%の5セントを支払う必要がある」と、ビットメックスは説明した。そのようなお金は、別のところに使った方が賢明だ。

ビットメックスは、そのモデルが「不完全」で「議論を呼ぶもの」であることを認めている。私としては、ほとんど解決策になっていないと言いたい。しかし、まだ希望もある。

ビットコインや、暗号資産全般は、再生可能エネルギーへの投資を奨励できるのだ。すでにセグウィット(SegWit)や取引のバッチ処理、ライトニング・ネットワークなど、ビットコインのフットプリントを減らすネットワークスケーリング・ソリューションが開発されている。

カーボンクレジットを追跡、取引するための暗号資産ベースのシステムも存在しており、ブロックチェーンによって、このような市場の透明性と流動性を高めることができると考えられている。これらは注目に値する取り組みであるが、真の解決策ではない。

暗号資産企業が本当に違いをもたらしたければ、その莫大な利益を、本当のインフラ構築に回すべきだ。例えば、スケーリングレイヤーを広めたり、太陽光発電所や風力発電所を建設したり、二酸化炭素貯留の研究に資金を提供したりといったことができる。さらなる金融化ではなく、真に持続可能な取り組みだ。

暗号資産業界は、気候危機の解決策に静かに取り組むことができる。暗号資産業界は、これから起こる最悪の事態の責任を追ってはいない。しかし、実験や、ゼロから構築していくことを恐れていない業界でもある。ビットコインがあまり遠くない未来にカーボンニュートラルになるというのも、あり得る話だ。(そのためには、社会からの圧力が有効だ)

しかし、そうなるためには、カーボンクレジットは邪魔ものに過ぎないということを、まずは認めなければならない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Carbon Offsets Are a Distraction for Crypto

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