クラウドファンディングの次なるゴールドラッシュ到来か

ここ数週間、主流メディアでも報じられた、最もビッグな暗号資産(仮想通貨)界発の話題はおそらく、「ConstitutionDAO」だろう。アメリカ合衆国憲法の原本をオークションで落札しようと、4000万ドル(約45.5億円)を超えるイーサ(ETH)を集めた暗号資産ファンたちのDAO(自律分散型組織)だ。

このグループが失敗した理由については、多くの分析がなされている。結局は落札に失敗し、組織構造は混沌状態に陥った。返金の仕組みもお粗末で、数千もの寄付者たちを困惑させた。

しかし、彼らが成し遂げたことは、そのお粗末さと同じくらいに驚異的だ。ConstitutionDAOは約1週間ほどで、マーケティングチームも、専任の成長戦略担当者も不在の中、何万ものアドレスから4000万ドルを超える寄付を集めたのだから。

それはひとつには、ミームをベースとしたポピュリズムという、より広範な現象のおかげだ。1月に人気掲示板「レディット(Reddit)」上で、デイトレーダーたちを団結させ、ゲーム小売業者ゲームストップ(GameStop)の株価を吊り上げたのと同じくらいのエネルギーだ。「銀行は悪だ」と、特定の敵を掲げたイデオロギー的志向を伴った、集団で前進することから得られるスリルなのだ。

しかし、多額の寄付が集まったことは、暗号資産自体の猛烈にすばやい性質の象徴でもある。最も認知度の高いクラウドファンディング・プラットフォームの1つ、キックスターター(Kickstarter)は、プロジェクトが目標の資金を集めるまでは、実際に口座からお金を引き落とすことはしない。

そしてキックスターターはアメリカでは、米証券取引委員会(SEC)による、規制を受けたクラウドファンディングのための法的枠組みを通して運営されており、一定の消費者保護が組み込まれている。プロジェクトには、許可されていないことが様々にある。プロジェクトが調達した資金を持ち逃げしたり、計画通りのものを作り上げなかった時には、責任を負うことになる。

暗号資産クラウドファンディングの特徴

少なくとも今のところ、暗号資産界でのクラウドファンディングではそうなってはいない。ConstitutionDAOの場合、まずは資金を集めて、それからやり方を詰めていこうという戦略だった。寄付金に比例して分配されるトークン以外には、何の保証もなく寄付が行われたのだ。

ConstitutionDAOを真似したプロジェクトも、同じような論理で成り立っている。現在ではミュージシャンのグライムスもメンバーとなっている「Spice DAO」(旧称:Dune DAO)は、アレハンドロ・ホドロフスキー監督による、制作中止となった映画『DUNE』の絵コンテのために、1100万ドルを集めた。

しかし、脚本を入札するために必要だった400万ドルを集められなかった、最初の失敗がその前にはあった。新たに複数回に分けて行われた資金調達は、個人的に脚本を落札したメンバーの1人に返金するための試みであった。

主要なインセンティブとなっているのは、失敗に終わったとしても、トークンは手元に残るという点だ。トークンは流通市場において、何らかの価値を持つ可能性がある。

ConstitutionDAOのトークン$PEOPLEの時価総額は、2億7100万ドルとなっており、それは多く集まった寄付のおかげだ。先月には1トークン当たり0.16ドルで取引されていた。$SPICEトークンの方はこれまでのところ、それほど成功してはいないが、それでも確かに取引はされている。

暗号資産市場の激しい性質は、このような衝動的で共同体的な動きにとりわけ適している。「機会を逃すのを恐れて焦って大きく投資する」というロジック、すべてを賭けることから生じる興奮のスリル、そしてイデオロギー的要素が加わっているのだ。

ますます漠然としてきている流行語「ウェブ3.0」をめぐる盛り上がりが、富裕な投資家たちが飛びつきたがるような派手な魅力を放っているという点も、助けになっている。

もちろん、これは新しい現象という訳ではない。サブスタック(Substack)に代わるものとして出発した、暗号資産を基盤とした出版プラットフォーム「ミラー(Mirror)」は、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)と、そしてConstitutionDAO的なトークン分配モデルを通して暗号資産プロジェクトにクラウドファンディングするためのツールへと進化した。

初期ユーザーたちは、アートプロジェクト、エッセイ、音楽共同体など、暗号資産に支えられた取り組みのクラウドファンディングのためにミラーを利用してきた。

これらのプロジェクトには、金銭的な借りはないという暗黙的な感じがある。信頼にかかっているのだ。キックスターターでの寄付が善意の表現であるとしたら、暗号資産クラウドファンディングに投資することは、初期段階の企業へのサポートのような感じだ。

最近のクラウドファンディングのゴールドラッシュは、そのようなギャンブラー的精神につけ込んでいるのだ。確かにすべてを失うかもしれないが、それこそがポイントではないか?

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:DAOs and the Next Crowdfunding Gold Rush