2022年は政府発行デジタル通貨の年になるべきだ【オピニオン】

西欧の政府は、暗号資産(仮想通貨)に関して決断できず麻痺状態に陥っている。一般の投資家たちが、無法地帯のような暗号資産業界のせいで苦しみ続ける中、暗号資産市場をめぐる意義ある規制は、 夢物語のままに留まっている。

指導するために選ばれた指導者たちは、今こそ指導する時だ。暗号資産市場の時価総額は数十億ドル規模ではなく、昨年の強気相場で3兆ドルへと高騰した。一度解き放たれた暗号資産はもう、再び閉じ込めることはできない。人々は明らかに、デジタル時代に適したデジタルファイナンスを欲しているのだ。

だからこそ今は、政府が発行するデジタル通貨が君臨するべき時なのだ。終わりのない通貨増刷の時代は終わりを告げなければならない。政府は遂に、国民が信頼して利用できる通貨を届けるべきなのだ。

暗号資産のビジョンには私も共感できる。単純な計算をするだけで、法定通貨には欠陥があることは明らかだ。向こうみずで奔放な形で人工的に通貨を生み出しては、通貨の価値が下がることは避けられない。通貨が金の価値とは無関係になるに伴って、多くの人が法定通貨は、紙幣の紙の価値しかないように感じるのも理解できる。

ビットコイン(BTC)の生みの親サトシ・ナカモトのホワイトペーパーは、金融の現状への広範な幻滅からの、当然の帰結だった。結局のところ、通貨は経済の基盤である。国庫を操る少数の人間の気まぐれに影響されるべきではない。

しかし、空白を埋めてくれる堅固な代替オプションなしに、過去の金融システムときっぱり決別することはできない。ビットコイン支持者なら、金(ゴールド)のような希少性によって、ビットコインは本質的にデフレ的な価値の保管手段となると主張するだろう。

規制の不在がもたらすダメージ

しかしビットコイン、そしてその他の数多くの暗号資産は、破壊の爪痕を残しながら進んでいる。ドットコム時代的なゴールドラッシュの中、多くの一般市民が、一夜にして貯金がゼロになる経験をしている。規制の不在は、悪名高きワンコイン(OneCoin)のルジャ・イグナトバ(Ruja Ignatova)氏などの詐欺師に、悪事のための扉を開けている。

約1000人がすべてのビットコインの40%を保有している現状では、一般的な個人投資家は、少数のクジラ(大口保有者)による「パンプ・アンド・ダンプ(吊り上げと売り叩き)」戦略の餌食となるオキアミに過ぎない。

イーロン・マスク氏がツイートひとつで市場全体を動かせてしまうようでは、現状の暗号資産市場は、西欧の政府がどのように手なずけたらいいのかまったく分からない、危険な野獣である。

日和見主義者たちは、暗号資産界における衝撃的なまでのガバナンスの欠如につけ込んでいる。アメリカの規制枠組みにおいては、長年にわたって暗号資産を理解し、規制しようと取り組んでいるが、その成果はまったく上がっていない。暗号資産法案は議会で阻まれたままで、多くの業界リーダーたちは予想通り、これまでで最も突出した法案「STABLE法」を、大失敗と呼んでいる。

私の故郷イギリスも、さほど変わりはない。イングランド銀行が開発する「ブリットコイン(Britcoin)」のローンチ予定は2025年と、暗号資産界の感覚で言えばはるか先だ。

政府は取引所に関して断片的な規制を発し、一方の規制当局である金融行為規制機構(FCA)は、暗号資産市場のボラティリティに関して、矛盾して混乱を招くような「警告」を発し続けている。イギリスにおいては、暗号資産はこれまでのところ、おおむね規制を受けない金融商品となっているのだ。

西欧政府は、はっきりしない態度を取るのをやめる必要がある。道筋を選び、それに忠実である必要があるのだ。暗号資産イノベーターたちが終わりのない公聴会で政府関係者を困惑させ続ける中、市民は激しい暗号資産のボラティリティの犠牲となり続けている。

第3の道

このような意思決定の空白状態は、あらゆる場所で同じになっている訳ではない。中国は予想通り、トップダウンの力を行使し、ビットコインを取り締まり、独自のデジタル人民元を発行した。

その対極にいるのはエルサルバドルで、法定通貨としてビットコインを採用した。これら2つの相反する立場は、その強さとは無関係に、決断力のある指導陣を共通点としている。これこそが、アメリカやイギリスに欠けているものだ。

中国やエルサルバドルと同じ道を辿ろうと提案しているのではない。イングランド銀行やFRB(米連邦準備制度理事会)は、革命的暗号資産のメリットと、中央銀行の強さ、信頼、安全性を組み合わせるべきだ。

だからこそ彼らは、供給量の固定された、ブロックチェーンベースの独自デジタル通貨を発行するべきなのだ。そのようなデジタル通貨は、適切に推進されれば、通貨増刷という無責任な慣行を、過去の遺物としてくれるだろう。

政府や中央銀行は、独自暗号資産を作るのに最も適任だろうかと、疑問が出るかもしれない。しかしここで忘れてならないのは、彼らは一からやらなくとも良い、という点だ。暗号資産は8000以上存在し、その大半がオープンソースである。政府の開発者にとっては、包括的なレシピ本のようになってくれるだろう。

もちろん、政府発行のデジタル通貨は、根っからの暗号資産支持者の心を掴むことは決してないだろう。しかし、単に国境を超えて即座に送金をしたいだけの人にとっては、政府発行のデジタル通貨は待望の存在となるだろう。

ためらいや先延ばしは、もう通用しない。政府は今こそ、人々がビットコインやその他の暗号資産に内在するボラティリティや金融リスク抜きで、デジタルファイナンスのメリットを享受したがっているという事実を認める時だ。

政府は現実を直視し、21世紀に足を踏み入れる必要がある。つまり、時代遅れの法定通貨と、危険な暗号資産の中間となる、第3の道を国民に提供する必要があるのだ。だからこそ2022年は、政府発行デジタル通貨の年になるべきだ。

ジェームズ・カーン(James Caan)は、プライベートエクイティ企業ハミルトン・ブラッドショー(Hamilton Bradshaw)の創業者で、イギリスでも有数の成功した起業家である。2007年から2010年にかけて、米人気投資番組『シャーク・タンク』のイギリス版『Dragons Den』に投資家として出演した。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why 2022 Should Be the Year of the Govcoin