三菱UFJ、円連動ステーブルコインを発行へ──デジタル証券、NFT、暗号資産決済に対応

三菱UFJ信託銀行が、ステーブルコインの発行・管理ができる基盤「Progmat Coin」の開発を進める。Progmat Coin基盤を利用した、日本円に連動する独自のステーブルコインの発行も同時に行う。

関係者への取材によると、Progmat Coinは、ブロックチェーン上で取引されるデジタル証券(不動産・企業が保有する資産・社債などを裏付けるセキュリティトークン)や、世界的に人気が高まるNFT、暗号資産(仮想通貨)を即時決済できる基盤となる。

国内の仲介業者やスーパーアプリなどが共同で運用でき、他のブロックチェーンとの相互運用性を持つオープンなプラットフォームを構築する。また、各国の中央銀行が研究開発を進めている中央銀行デジタル通貨(CBDC)や、民間企業が発行するデジタル通貨とも、簡単に交換できるようにする。

暗号資産ではないステーブルコイン

Progmat Coinは、法的には暗号資産(仮想通貨)ではなく、受益証券発行信託を使った「電子的支払手段」と呼ばれる種類に入る。ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産や、法定通貨に連動する暗号資産とは異なり、課税対象にならず、仮に提供者が倒産しても確実に換金できることが大きな特徴だ。

Progmat Coinの発行・導入には、日本の資金決済法の一部が改正される必要がある。その審議は今期国会で行われることが見込まれており、改正法が5月に成立すれば、2023年5月頃には施行される可能性が高い。

受益証券発行信託とは:有価証券を発行する信託のことで、委託者から出された信託財産を受託者が管理して、信託財産からの収益や財産を受領する権利を受益証券として発行するもの。

例えば、海外の企業が株式を日本市場で上場させる場合、自国で発行する株式を信託銀行に信託して、それによって発行される受益証券発行信託の受益証券を日本の証券取引所に上場すれば、日本市場において資金を調達することができる。

三菱UFJ信託はこれまでに、セキュリティトークンの発行・取引をブロックチェーン上で行うことのできる基盤「Progmat(プログマ)」を開発し、国内の他の金融機関や仲介業者が利用できる体制の整備を進めてきた。

セキュリティトークン、NFT、ビットコイン……

セキュリティトークンは、不動産や企業の株式・債券、航空機や電車車両などの動産を裏付け資産とするデジタル証券で、ケネディクスや三井物産などの大手事業者がProgmatを利用し、野村証券やSBI証券などが販売する形で発行実績を重ねている。

三菱UFJ信託はまず、Progmat Coinを市場拡大が期待されるセキュリティトークンの決済に利用できるよう準備を進めていくが、Progmat上のセキュリティトークンだけに留まらない。Progmat Coinは、異なる種類のブロックチェーンで取引されている暗号資産や、NFTに対応できるよう設計されており、将来的には、あらゆる金融機関や仲介業者が参加でき、あらゆるデジタル資産がステーブルコインで取引決済できるプラットフォームを目指す。

Progmat Coinに類似するステーブルコインの開発を巡っては、米銀最大手のJPモルガン・チェースが、米ドルに連動する「JPM Coin」を開発している。JPモルガンを利用する大手グローバル企業が、グループ企業同士の海外送金などで、JPM Coinを利用する動きが始まっている。

JPモルガンはこれまで、ブロックチェーンを銀行サービスに活用する研究開発を積極的に進めてきた。独自のブロックチェーン「Quorum」と、JPM Coinを開発し、子会社のOnyxを通じて、グローバルでの利用拡大を図っている。(JPモルガンはその後、Quorumブロックチェーンを米コンセンシス社に売却し、2社は資本提携を結んでいる)

|取材・テキスト:佐藤茂
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