カナダから見えてくる金融検閲とビットコインの価値【オピニオン】

支払い、決済、価値の保管のための検閲不可能なグローバルシステム、ビットコインの価値が先週、劇的に証明された。

カナダでは、トルドー首相率いる自由党政権が、新型コロナ関連の規制に抗議するデモ取り締まりのために、国民の銀行口座を凍結。欧米諸国は22日、ロシア国外にその資産の多くを保有する複数のロシア人富豪に対する、新たな経済制裁を発表した。

しかし、世界が意図せずに宣伝してくれているのに、ビットコイン(BTC)は値下がりを続けている。ここ7日間での下げ幅は12%以上。いったいなぜだろうか?

まず、金融市場に目下吹きつける向かい風が、暗号資産(仮想通貨)の有用性を実証するようなニュースがもたらす長期的な追い風を打ち消してしまっている。

差し迫るアメリカでの利上げは、投機的資産の勢いを削ぐ可能性がある。アメリカでは確定申告シーズンも迫っており、2021年に暗号資産デイトレードを行っていたトレーダーたちが多額の税金に気づき、その支払いのために必死になって資産を清算している可能性もある。

ビットコインはまだ、昨年11月に6万8000ドルでピークに達した後、平均値へのゆっくりとした回帰の途上である。基本的に、金融市場での重力が、劇的な投機強気相場を引き下ろしているのだ。ビットコインが3万6000ドルに初めて到達したのは、わずか1年ほど前のことである。

インフレ率の高まりも、理論的にはビットコインを支える根拠となるはずだが、現実には、そのような仮説はまだ実証されていない。

現在の様々な要因を総合すると、ビットコイン価格にとってはマイナスの力の方が少し強いかもしれないが、暗号資産の普及と教育のサイクルという、より大きな文脈の中で、現状を捉えるべきだ。

金融の検閲がますます可視化されていることは、予期しないような暗号資産転向者を生んでおり、彼らが即座に全資産をビットコイン投資に回してしまわなかったとしても、長期的にはビットコインには追い風だ。

進む金融検閲の動き

ここ最近の動きの前には、おもにアメリカ発で、トップダウンの金融コントロールが顕著に行われていた。

アメリカ政府は昨年夏、アフガニスタン中央銀行がアメリカ国内に保有していた95億ドルの資産を凍結。アフガニスタンの現在の困窮と、差し迫る大規模な飢餓状態の土台を作る、人道上の罪と言ってもいい動きであった。

さらに米財務省は昨年夏、アメリカの銀行口座の新たな大規模監視を求める働きかけを行い、当局がどれほど金融上の権力を押し広げたいかを暗示していた。

しかし、多くの人にとって、態度を一変させるきっかけとなったのはカナダでの動きであった。暗号資産転向者の象徴的な1人が、Webアプリケーションフレームワーク「Ruby on Rails」の生みの親デビッド・ハイネマイヤー・ハンソン(David Heinemeier Hansson)氏。

ソーシャルメディアで活発に発言を行うハンソン氏は長年にわたって、様々な理由から暗号資産に反対してきた。しかし、21日、「私は間違っていた。暗号資産は必要だ」と題された完全な敗北宣言を発表。そこには、デモ参加者へのカナダ政府の対応に受けた衝撃が綴られていた。

技術者のアニル・ダッシュ(Anil Dash)氏が指摘する通り、暗号資産を受け入れる態度が、その人の本性を露わにする時となっている。性労働者やアフリカの活動家にとっての、検閲不可能なお金の価値に理解を示さなかったのに、北米の白人にとって便利となった途端、理解を示すのだとしたら、そのことはその人の偏向について、何を語っているだろうか?

どちらにしても、カナダ政府の態度は、ビットコインの最も大切な価値提案を強化、拡散するのに役立った。少し不思議なのは、ウクライナ情勢をめぐって発動された、ロシアの富豪たちに対する新しい経済制裁が、暗号資産への資金流入を引き起こさなかったことだ。

ロシアの悪名高き新興財閥の大富豪たちは、プーチン大統領の助けを得て、ロシア国民から巻き上げた資産の大半を、外国の銀行に保有している。

彼らはもしかしたら、市場に影響を与えないくらいに小規模で、押収がより困難なビットコインへと資産を転換しているのかもしれない。(ロシアの経済規模は、テキサスと同じほどに過ぎない)

彼らはビットコインの値下がりトレンドを、銀行資産の凍結よりも大きなリスクと考え、ビットコインを避けているのかもしれない。対照的に、金(ゴールド)の価格は値上がりしている。

ヨーロッパがロシアの石油に依存していることが、自らの資産を守ってくれる方に賭けているのかもしれない。影響力を持つ欧米の富豪たちが、不正に得た富裕層の資産を押収する面倒な前例を作らないよう、自国政府に呼びかけてくれるのを期待しているのかもしれない。

しかし、より大きな教訓が、間違いなく学ばれた。国内の政治的抗争でも、国際的な勢力争いでも、メインストリームのSWIFTベースの銀行システムは、便利な政治的武器となっているのだ。その武器を握っているのは誰なのかは、今や明らかだ。その一線を越えた以上、もう後戻りはできない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Trudeau Proved Bitcoin’s Value, so Why Is It Trading Sideways?