価格低迷でもイーサリアムに対する期待ふくらむ【コラム】

映画『レヴェナント: 蘇えりし者』を観たことがあるだろうか?私の記憶では、前回の暗号資産(仮想通貨)の弱気相場は、この映画を少し彷彿とさせるものだった。

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督による、2015年のアカデミー賞最優秀作品賞の候補作にもなったこの作品は、熊に襲われた後に息子を殺した男を追跡するための旅に出る、19世紀西部開拓時代の実在のハンター、ヒュー・グラスの過酷な半生をめぐる物語だ。観るのも辛いような残酷なシーンが満載である。

トレーダーたちも2018年〜2019年にかけて、似たような死の行進を耐え忍んだ。チャートがそれを物語っている。チャートを眺めれば、多くの底値や安値が並んでいるが、オンチェーンアクティビティを見ると、さらに一段と荒涼とした景色が広がっている。

イーサリアムのアクティブアドレスは、2019年2月には16万5000にまで減少。自律分散型組織(DAO)は、Moloch DAOとMakerDAOがそのコンセプトを蘇らせるまで、存在しなかったも同然だ。

今では取引高が数十億ドルに及ぶ、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)の巨大マーケットプレースであるOpenSeaは、2018年全体でも、トークンの売上はわずかに47万5000ドル。分散型金融(DeFi)の時価総額も、100万ドルに満たなかった。

今回の弱気相場は、控えめに言っても少し様相が異なる。そもそも弱気相場なのかどうかについても、議論が別れるくらいだ。伝統的金融の世界では、弱気相場は20%の下落を指標としている。暗号資産の世界では、お気に入りの長期的投資が90%下落するまでは、弱気相場は始まっていないと言われる。押し目買いを狙っているなら、そこからさらに90%の値下がりが必要だと、ベテランたちは言うだろう。

そのような基準からすれば、2022年の弱気相場(英語ではbear market:クマ相場)はこれまでのところ、恐ろしいクマというよりは、クマのプーさんのような様相だ。

イーサリアムは、活発に賑わい続けており、安定した開発・利用・普及が進むエリアがそこここに存在している。値動きは停滞しているにも関わらず、今までになく力強いと言ってもいいかもしれない。

究極的には、これはテクノロジーが成熟したことのサインだ。2018年には、エコシステムが資産だった。イーサリアムが持つ唯一の価値は、いつの日かこんなものになれるという投機的な約束と、イーサ(ETH)がその約束をどれほど反映するかに過ぎなかった。

イーサリアム上で開発されているものの多くは、イーサの価格とは無関係であり、少なくともある事例においては、逆の相関関係を持っているほどだ。寒々しい冬のツンドラを旅して行くこととはほど遠く、今回の弱気相場には、イーサリアム支持者がワクワクすることがたっぷり用意されている。

その詳細を、紹介していこう。

果敢なDeFi

1月下旬以降、DeFiエコシステム全体に預け入れられている総資産(TVL)の合計は、イーサ価格の約25%の値動き(3250ドル〜2400ドル)と、アバランチのAVX(98ドル〜65ドル)や、ファントムのFTM(2.4ドル〜1.05ドル)など、イーサリアム・バーチャル・マシーン(EVM)対応のチェーンでのさらなるボラティリティも関わらず、2100億ドルから1900億ドルの比較的狭い範囲内に留まっていた。

このような安定した預け入れのペースは、2021年12月に私が提案した仮説を、おおむね裏づけるものだ。つまり、投機やレバレッジのツールとして主に使われるという評判を持っているにも関わらず、DeFiは市場の混乱時にも、そしておそらく長期的な弱気相場においても、その力強さを維持するというものだ。それはユーザーに提供される収入のチャンスがたっぷりあるからだ。

その頃私は、スタンリー・キューブリック監督のエレベーターから血が溢れ出す有名なシーンのような値動きに直面しながらも、DeFiがそこまでレジリエントな理由を見極めようとしていた。わずか数時間でビットコイン(BTC)が5万7000ドルから4万2000ドルへと暴落し、イーサは4600ドルから3500ドルへと急落。それでも、預け入れ資産は健全な水準を保っていたのだ。

専門家たちは、イールドファーマーたちが、オフチェーンチャンスに応じた豊富なリターンを得ることができる限り、預け入れは留まり続けるだろうと語った。実際、イールドの多くは、ボラティリティが突き動かしているのだ。例えば、ユニスワップのポジションは、高い取引高を喜ぶ。ある意味では、DeFiは、過酷な値動きから積極的に恩恵を受けることができるのだ。

トレーダーにとって見通しは暗いままだが、チャンスを求めてDeFiの世界へと踏み出す人たちには、チャンスは豊富に存在する。

NFTのメインストリームでの普及の実態

NFTの世界では、2021年のピーク時に比べると、取引高や底値は非常に元気のないものに見えるが、究極的には、市場の活力の兆候は、生命維持装置につながれているような弱々しいNFTで測るものではない。

OpenSeaのイーサリアムでの取引高は、8カ月ぶりの低水準を記録しようとしている。一方、月間アクティブユーザーは、史上最多の55万人をもうすぐ突破する勢いだ。言うまでもなく、圧倒的トップのマーケットプレースであるOpenSeaは、133億ドルの評価額で資金調達を終了したばかりだ。

底値を占おうとすると、複雑なサインが見えてくる。人気コレクションの取引高は、30日間ベースで60%もダウン。クリプトパンクス(CryptoPunks)の底値も、高値と比べると50%も下がっている。それでも、Azukisのような新入りたちが、トップ10の仲間入りをし、売り切れ続出状態だ。

メイストリームへの普及は、驚くような速さで進んでいる。ナイキは、同社の歴史の中でも数少ない買収を、NFTスタートアップの「RTFKT」に対して行い、NFTは世界最大級の複合メディアカンファレンス、「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)で注目の的となっていると、広く報じられている。

それらすべてに、オンチェーン分析企業のナンセン(Nansen)が最近発表したレポートを加えて考えると、NFTはより幅広い暗号資産相場とは逆の相関関係を持っているのかもしれない。これは、独自の資産クラスとして立ち上がり始めているかもしれないサインだ。

上述の情報から、好きなように選り好みしてもらって構わない。世界中のコタク(Kotaku)のようなメディアが、「NFTは死んでいる」とする記事をどこかの時点で発表しようとするのではないかと、私は見込んでいる。それも合理的な主張だが、個人的には、NFTが全体としてお払い箱にされることはないと感じている。

NFTは、暗号資産の普及を先導しており、最も有名な新規参入者たちは、より歳を重ねた人たちだが、新規参入者たち全般としては、圧倒的に若く実験をいとわない人たちだ。彼らが、どこかに行ってしまうとは思えない。

DAO心理

最後に、自律分散型組織(DAO)は、弱気相場を通じてイノベーションと開発が活発に起こる場所と、幅広く見込まれている。それには、しっかりとした理由がある。

この弱気相場に何年も備えてきたDAOの財源は、この先数カ月、数年にわたって、開発者に最も人気の資金源の1つとして台頭してくる可能性が高い。資金はかなり豊富であり、CoinDeskのトレーシー・ワン(Tracy Wang)記者は、DAOが伝統的ベンチャーキャピタル企業に取って代われるのではないか、と考えているほどだ。

しかし、資金以外にも、DAOがこれまでよりもさらに力強くなって弱気相場を生き延びるだろうと私が考える理由を紹介しよう。

何百とは言わずとも、何十もの大いに資金を持つ組織が、明白なニーズを抱えてもり、彼らはベンチャーキャピタルがソリューションに出資するのを待つ代わりに、自らそのようなニーズに対応するための資金を捻出することができるのだ。

DAOが抱えるとされる91億ドルの資金は、インフラ整備に使われ、来年の今頃には、痛点ははるかに少なくなっているだろう。

かわいらしいクマ

これまでの主張が、あまりに楽観的過ぎるように感じられたとしたら、それも無理はない。値動きは、不調なのだから。

それでも、極度に打ちのめされ、血まみれのトレーダーに聞いたとしても、現在の弱気相場と、前回の弱気相場とでは比べ物にならないだろう。

前回の時には、値動きだけが大切だった。現在では、経験の浅いユーザーでさえも、大半の金融サービスと同じもののスマートコントラクトベース版を提供する幅広いプラットフォームに、資産を預け入れることができる。

そして、DAOガバナンスを通じてそれらのプラットフォームの将来的健全性に対して投票を行い、預けた資産に対する利子のつく可愛い猿の画像のNFT を収集することすらできるのだ。

ちなみにこれは、気軽なユーザーに提供されるチャンスなのだ。開発者に対するオプションや約束は、さらに果てしない。

暗号資産テクノロジーはその約束をおおむね果たしている。最も分かりやすい言葉で言うならば、前回の弱気相場と今回の弱気相場の違いは、今回はできることがあること、そして歴史的な強気相場の後なので、それをするのに費やす資金もあるということだ。

このシンプルな事実が、4年前に信奉者たちが注いだ労力の証であり、今回の旅が、それほど過酷なものにならない理由なのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Anatomy of a Crypto Bear Market