GameFiへの資金拡大、追いつかない開発現場

ベンチャーキャピタルや個人投資家たちは、新興の暗号資産(仮想通貨)ゲームプロジェクトに資金をつぎ込み続けている。ブロックチェーンを活用してゲームと金融を組み合わせる「GameFi」ムーブメントが、預かり資産(TVL)2000億ドル超えという歴史的成長を遂げたDeFi(分散型金融)と同じような成功を果たすと期待してのことだ。

これまでのところ、結果はまちまちだ。ゲーム業界の優秀な人材の間でも、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)や、ゲーム外でも利用できるインゲーム通貨など、ブロックチェーンベースの内蔵機能を伴ったゲーム「ウェブ3ゲーム」の可能性については、意見が分かれる。

投資会社ドレイク・スター・パートナーズ(Drake Star Partners)によると、投資家たちはここ1年で、暗号資産のゲームスタートアップに36億ドルもの資金を投入。この資金をもとにGameFi企業は、主要ゲーム企業からトップクラスの人材を誘い出しているのだ。

例えば、ブロックチェーンプロトコル「ポリゴン」のNFT/ゲーム部門であるポリゴン・スタジオ(Polygon Studios)は先日、ユーチューブのゲーム部門責任者ライアン・ワイアット(Ryan Wyatt)氏を採用して見出しを飾った。

ポリゴン・スタジオは他にも、ミスティカル・ゲームズ(Mythical Games)、ライオット・ゲームズ(Riot Games)、アマゾンのクラウドゲーム部門から幹部を引き抜いた。

しかし、GameFi業界での資金提供・採用ブームには、批判も寄せられている。とりわけ、インゲームNFTや「プレイトゥアーン(P2E)」モデルをただの利益目当ての戦略としてしか見ていないゲーマーたちからだ。

ゲーム販売会社エレクトロニック・アーツ(EA)のCEO、アンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)氏はNFTを、「この先我が業界を前進させるための」中核と形容したが、ファンや従業員からの反発を受け、態度を変えた。

ゲーム関連メディア「Kotaku」によれば、2月にはウィルソン氏は、「現在のところ、あまり重点は置いていない」と述べたのだ。そのような用心深さは開発者コミュニティにも広がっていることが、調査から分かっている。

「Game Developer Conference(ゲーム開発者カンファレンス)」が1月に実施した2700名以上のゲーム開発者を対象にした調査では、開発者の72%が、勤務先企業はNFTをゲームに追加することに「まったく興味を持っていない」と回答。さらに、調査をもとにしたレポートによれば、開発者の「大多数」は「詐欺、収益化をめぐる懸念、環境負荷の可能性」に反対を表明している。

業界関係者からの反応はまちまちだが、複数の暗号資産ゲーム関連企業の創業者たちは、業界にとって好ましい方向へと流れが傾いてきているかもしれない、と話す。

「DeFiで見られたような人材流出はまだ起こっていないが、ここひと月だけでも、大量の人材がウェブ2からウェブ3へと流れていくのを目にした」と、NFTゲームスタートアップのイミュータブル(Immutable)の創業者、ロビー・ファーガソン(Robbie Ferguson)氏は語り、「ゲーム開発者たちの暗号資産ゲームに対する見方と、ウェブ3側の見方のギャップを埋める役に立つものの1つだと思う」と続けた。

「SBF(暗号資産取引所FTXのCEO):
1)FTXはウェブ3ゲームをサポートすることにとてもワクワクしている。
しかし私たちは、非常に具体的なアプローチも用意している。
素晴らしいゲームをサポートしよう、というものだ」

トップダウンの移行

NFTゲームプラットフォーム「エックス・ポピュラス(Ex Populus)」の共同創業者ソバン・サキーブ(Soban Saqib)氏は、サンフランシスコで開かれたゲーム・デベロッパーズ・カンファレンスでCoinDeskの取材に応え、GameFiの台頭は、ゲーム業界内で検討すべき多くのマクロトレンドの1つに過ぎないと指摘した。

「映画会社を考えてみて欲しい。新しい(知的財産)が生まれてはいない。ゲームでも同じことで、新しい知的財産はない。ゲーム業界は『大統合』の真っ只中にある。人々は買い切ってしまい、スタッフは解雇されている」と、サキーブ氏は語った。

主要制作会社の買収というトレンドは、野心的ゲーム開発者たちに対し、自由の増える「より良い生活」を提供するチャンスをGameFiに与えているのかもしれない。

「ブリザードやライオット(大手ゲーム会社)で10〜20年働き、キャリアを構築してきた人たちなら、自分で取り組みたいゲームのアイディアを持っていると思わないか?そういった自らの知的財産に取り組めるチャンスを、人々に提供しているんだ」と、サキーブ氏は語る。「超大手ゲーム会社では、成長の余地は限られている」

エックス・ポピュラスは先日、ネットフリックスで配信されているアニメシリーズ『ラブ、デス&ロボット』のディレクターを採用した。他にも、主要制作会社から有名な人材2名の引き抜きが進行中だ。このような引き抜き成功の一因は、スタートアップは主要制作会社よりも柔軟性を提供できるからだと、サキーブ氏は考えている。

新しいトレンドを早めに捉えておこうという、働き手側の動きもあるかもしれない。イミュータブルのファーガソン氏は、人材流出の大半は、「ゲームがどこに向かおうとしているか戦略的に考えている、上級レベルの役職」で起こっていることを指摘した。

イミュータブルでは最近、190人の正規職員を採用。年末までにその数を400まで伸ばそうと考えている。ライオットの元東南アジア担当ジェネラル・マネージャーや、ゲーム開発を手がけるユニティ(Unity)の元事業開発責任者など、高レベルの人材も採用した。そのような上級レベルスタッフの転職は、「業界全体」で起こっているトレンドだと、ファーガソン氏は語った。

ベンチャーキャピタルからの大量の資金も、一役買っている。ファーガソン氏によれば、イミュータブルでは採用が成功した場合、紹介手数料を6倍の2万ドル以上に引き上げた。

「一般論で言うと、ウェブ3ゲームは資金の面で、ウェブ2ゲームを大幅に上回ることになるだろう」と、ファーガソン氏は指摘した。

GameFiはいつ爆発的成長を遂げるのか?

幹部レベルでの人材移動は、一般社員レベルのクリエイティブ人材にまでは波及していないが、ファーガソン氏は、変化がゆっくりと起こるゲーム業界での典型的な流れに過ぎないと考えている。

「開発者たちの躊躇が、普及を遅らせることは間違いないが、ゲーム業界におけるシフトモデルの標準的な要素に過ぎない。モバイルゲームの普及でも、無料でプレイできるゲームの普及でも同じようなことが見られた」とファーガソン氏。

「ゲーマーの多くが、プレイ無料と言うモデルを忌み嫌っていたが、今ではそれが当たり前となっており、プレイヤーにとってもより良いと考えられるようになった。ゲームがプレイヤーにとってより良い金銭的利益をもたらすことに人々が夢中になるプロセスでも、同じようなことが起こると考えている」

「brycent(有名なNFTゲーマー):クズみたいなゲームを残すことをやめ、オープンで透明性のあるプロジェクトとのやり取りに重点をおけば、ウェブ3ゲームはメインストリームになるだろう」

ブロックチェーンゲーム開発会社エンドレス・クラウズ(Endless Clouds)の創業者Loopifyは、大ヒットとなるゲームを世に出すことは、熟達したスキルの組み合わせが必要であり、言うは易く行うは難しだと語った。

「伝統的開発者たちが、暗号資産ネイティブの起業家たちと連携するというハイブリッドな形が、良質なゲームを生み出すと信じている」と、Loopifyは語り、「現在開発されているブロックチェーンゲームは、以前ゲームに取り組んだ経験、あるいは明確なビジョンを持つチームがいないというのが、典型的だ」と続けた。

CoinDeskが取材した3人の創業者たちはみな、暗号資産をベースとした内部エコノミーがきちんと機能した面白いゲーム開発というパズルを解く可能性があるのは、既存のゲーム制作会社ではなく、より少額の予算で「一段とハングリー精神を持った」制作会社の方だと指摘した。

「ゲーム業界は、模倣の世界だ」とサキーブ氏は語る。「本当に優れたNFTゲーム、あるいは独立系のクリエーターをサポートするためにNFTを活用するチームの参入が必要なだけだ」

究極的には、開発者たちを取り込むプロセスにおいては、次なるマクロトレンドを捉えようとする投資家が忍耐を持つことが必要になるかもしれない。GameFiがDeFiの脅威的な成功をなぞることを期待する人にとっては、厳しい現実だ。

「ゲーム開発には時間がかかる。満たす必要のある基準を考えてみて、それを暗号資産業界を悩ませる注意力欠如障害と比べてみると、良い組み合わせではないことが分かるはずだ」と、サキーブ氏は警告した。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Money Continues to Pour Into GameFi, but Will Developers Follow?