コインチェックで2件目のIEOを計画──國光宏尚氏がクラブトークンで挑む

暗号資産(仮想通貨)取引サービス大手のコインチェックが、国内では2件目となるIEO(イニシャル・イクスチェンジ・オファリング)の引き受けを計画している。デジタルトークンの上場に挑むのは、起業家・ベンチャーキャピタリストで知られる國光宏尚氏がCEOを務めるフィナンシェだ。

IEO:未公開企業が株式を証券取引所に上場させて資金を調達するIPO(新規株式公開)に対して、IEOでは企業やプロジェクトが独自の暗号資産(仮想通貨)の売り出しを行って資金を調達する。

今年7月、国内では初となるIEOがコインチェックで実施された。ハッシュパレット社が開発したNFTプラットフォームのパレットが、暗号資産取引所のコインチェックにトークンの「Palette Token(ティッカーはPLT)」を販売して、約10億円の資金を調達。

フィナンシェは2022年夏をメドに、「フィナンシェトークン」をコインチェックにて販売、上場させる計画だ。國光氏と、コインチェックでIEOやNFTなどの新規事業を統括する天羽健介氏が、coindesk JAPANの取材で明らかにした。

調達額を含むフィナンシェトークン販売の詳細は、同社とコインチェックの審査部などが協議を進めながら策定していく。フィナンシェの企業評価額も現時点では、明らかにされていない。

NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アートやイラスト、写真、アニメ、ゲーム、動画などのコンテンツの固有性を証明することができるもので、NFTを利用した事業は世界的に拡大している

フィナンシェのビジネスモデル

(フィナンシェの國光宏尚CEO/撮影:多田圭佑)

フィナンシェは、次世代型のクラウドファンディング・プラットフォームをコア事業にしている。プロスポーツのクラブチームは、「クラブトークン」をファンやサポーターに発行して、資金を調達することが可能だ。

トークンを保有するファンは、チームが計画するアクティビティへの参加や、特典の取得、チームの運営方法の一部を決めるための投票権を獲得することができる。

これまでに、サッカーJ1の湘南ベルマーレや、アメリカンフットボールの社会人チームであるアサヒビールシルバースターなどの30を超えるスポーツチームが、フィナンシェのトークン発行型クラウドファンディング「フィナンシェ(FiNANCiE)を利用して、クラブトークンを発行してきた。

クラブトークンは、企業が発行する株式や、暗号資産(仮想通貨)とは異なり、デジタル上の応援の証で、ポイントのような数量があると、國光氏は説明する。フィナンシェ上のトークンの価値は、チームの活動などに応じて変動し、売買することも可能だ。

企業から個人へのシフトが世界中で進み、クリエーターエコノミーの急成長が語られるなか、個人のマネタイズ手法に注目が集まっている。YouTubeやインスタグラムなどの広告、投げ銭、サブスクリプション、これまでのクラウドファンディングでは、巨大なプラットフォームと一部のインフルエンサーのみが大きな利益を手にしてきたと、國光氏は話す。

「応援するファンにもメリットが得られるようにできれば、プロスポーツチームや他の社会活動グループとファンによって形成されるトークンエコノミー、クリエーターエコノミーは、さらに拡大していくと考えている」(國光氏)

ヨーロッパでは昨年頃から、プロサッカーチームがクラブトークンに注目。イタリアのインテル・ミラノや、スペインのFCバルセロナなどがトークンを発行してきた。

今回発行される「フィナンシェトークン」は、フィナンシェを利用して各チームが発行したクラブトークンやNFTなどを横串でつなげる役割を担うという。

コインチェックのIEO事業基盤

(コインチェックで新規事業を統括する天羽健介氏/撮影:多田圭佑)

一方、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの暗号資産の取引サービスを手がけるコインチェックは、NFTを売買できるマーケットプレイスの運営を行っている。IEO事業は、コインチェックが今後、拡大を進めるコアビジネスの一つだ。

株式のIPOでは、投資銀行がその引き受け業務を行い、証券取引所が発行企業の上場申請を審査するが、IEOの場合、コインチェックのような暗号資産取引所が、双方の役割を果たす。

「ハッシュパレットのIEOは、金融庁と連携しながら、2年の準備期間を経て進めた。今後は、審査体制を含めてIEO事業の人材を拡充させ、IEO市場を日本でさらに拡大させていきたい」と天羽氏は語る。

「日本生まれの魅力的なプロジェクトが、金融のデジタル化が進む海外市場に依存することなく、国内の取引所を通じて資金を調達できるようにしていきたい。日本発のトークン経済を広げることで、国内経済全体の成長に貢献できると思っている」(天羽氏)

コインチェックは2023年までに、人員を現在の約160名から倍増する計画だ。

日本の地方創生と世界の潮流

フィナンシェは、計画中のIEOで得られる一部の資金を、国内で増え続けるプロスポーツチームを対象にしたトークン型クラウドファンディング事業の拡大に充てる。また、海外のスポーツクラブも新規の顧客リストに加える方針だ。

「サッカー、野球、バスケットボール、アイスホッケー……。日本では、地域密着型のスポーツクラブが年々増え続けており、地方経済の起爆剤の一つになりつつある。金融と社会のデジタル化をあわせ持つトークンエコノミーは、日本の地方創生の課題解決に貢献できるのではないだろうか」と國光氏。

モバイルオンラインゲームのgumiの創業者である國光氏は、暗号資産・ブロックチェーン・メタバース(仮想空間)領域で国内外のスタートアップに積極投資を行うベンチャーキャピタル、gumi Cryptos Capitalも運営し、OpenSeaやYGGにも初期から投資を行っている。

國光氏は、「シリコンバレーを筆頭に海外では、DeFiやNFT、GameFi(ゲームと金融が組み合わせられたサービス)などの新しい技術とサービスが生まれ、すでに巨大な資金が流れ込んでいる。色々な面で日本における挑戦に限界を感じて、日本を離れる若い人たちが増えているのも事実」とした上で、「まずは明確なルールが定まりつつある日本の強みを生かし、日本からでも十分に世界で戦えることを示すことで、日本のブロックチェーン業界を盛り上げていきたいと考えている」と話す。

フィナンシェは今後、スポーツクラブを対象とする事業の他に、一定のファンを抱える映画やアニメなどのエンターテインメント事業者にも、トークン型クラウドファンディングの提案を進めていく。また、同社ではクラブトークンだけでなく、NFTの発行・運用も行っており、NFTの流通の面で「Coincheck NFT(β版)」との連携なども見込まれる。

DeFi:Decentralized Finance(分散型金融)の略語。ブロックチェーン上に搭載されたスマートコントラクトが、金融機能の自動制御を実現し、銀行や証券会社などがこれまで行ってきた業務の一部を必要としない金融サービス。

GameFi:NFTを活用したゲームで、ゲームで遊びながらお金を稼ぐことができるように設計されている。「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」は、ベトナムのスタートアップ、Sky Mavisが開発したGameFiで、短期間で爆発的な人気をおさめた。Sky Mavisの企業評価額は10月に、30億ドル(約3430億円)に達したと報じられている。

|インタビュー・テキスト・編集:佐藤茂
|フォトグラファー:多田圭佑