米ブロック社のビットコイン調査レポートを読み解く

数カ月前、数人の仕事上の友人が、ビットコイン(BTC)ユーザーの構成、行動、見解についてより詳しく知るために、広範なビットコイン調査を実施したら面白いと考えた。もちろん私たちには他に仕事があったので、そんなことは忘れてしまった。

しかし、優れたアイディアの場合にはよくあることだが、同じことを考えたのは私たちだけではなかったのだ。5月末に、Cash AppとSpiralを運営し、ビットコインに事業の軸足を置くブロック社が、ウェイクフィールド・リサーチ(Wakefield Research)と共同で、『Bitcoin: Knowledge and Perceptions(ビットコイン:知識と認識)』と題されたレポートを発表。このレポートの調査対象は、14カ国の9500人に及んだ。

ビットコイナーの私の頭の中には、自分が聞いた話から組み立てたいくつかの見解がすでにあったが、「ビットコインが世界を救う」ことについての私のそんな理想主義的見解を裏付ける、適切な調査データが手に入ったのだ。

全体として、このレポートは読み込む価値がある良質のものに仕上がっている。さっそく見ていこう。

戦略的方向性がビットコインの成功にかかっている上場企業がまとめた12ページのレポートをこの記事の題材に選んだことの安っぽさは、自分でも自覚している。それでも、以下の2つの主な理由から、このレポートは注目に値するのだ。

1. 今まで語られるだけだったビットコインの「良いところ」のいくつかを裏付ける、プロによる高品質な内容であり、ビットコインを広めようとする時に、大げさな手振りをつけて騒がなくてもよくなる。

2. ビットコインをかなり良く見せてくれる。

このレポートで浮き彫りとなった3つの大切な発見は、次の通りだ。

1. ビットコインはより公平なエコノミーに向けた明るい見通しを提供する。

2. ビットコイン教育が普及の鍵となる。

3. ビットコインは他の暗号資産よりはるかに優れている。

調査そのものを入手することはできないので、質問の仕方に隠されたバイアスがある可能性もある。そう考えると、第三者マーケットリサーチコンサルタント会社の関与も説明がつく。だからと言って、ブロックによるバイアスの疑いが完全に晴れる訳ではないが、私の懐疑心は少し和らぐ。

より公平な世界のためのビットコイン

このレポートには、ビットコインと公平性に関して、3つの主要な着眼点が存在する。1)所得、2)地理、3)ジェンダーだ。

所得水準に関する調査結果は、興味深くはあるが、他の2つのポイントほど顕著ではない。さらに、地理的側面は、所得・財産の側面と結びついている。

言い換えるとこのレポートは、より高所得の人たちは、投資を理由(利益を上げる、投資先を分散するなど)にビットコインを買い、より低収入の人たちは、有用性を理由(簡単な送金方法、物品の購入など)にビットコインを買うと言っているのだ。

所得・財産の側面と結びついた地理的側面は、モノやサービスの購入のためにビットコインを買う意思を示した回答者の割合を、居住国の1人当たりのGDPと比べると明らかになる。前者の割合が低いほど、GDPは高いという明らかな関係が見られ、より貧しい国の人々が、取引手段としてビットコインに大きな価値を見出していることを示唆している。

モノやサービス購入のためにビットコインを買う人の割合(縦軸)と1人当たりのGDP(横軸)
出典:Block

「デジタルキャッシュ」としてのビットコインというのは、当初のユースケースであったが、それはナラティブに過ぎない。今回のレポートでは、インフレへの備えとしてビットコインを買う人の割合と、居住国でのインフレ率を並べた場合には、対数的な関係が見られることも報告されている。

インフレへの備えのためにビットコインを買う人の割合(縦軸)と1人当たりのGDP(横軸)
出典:Block

ひとつ注意しておきたいのは、インフレへの備えとしてビットコインを使う意思を示しても、実際にそうする保証はないという点だ。

排他性を感じさせる点が、マイナスな結果の1つとして示された。今回のレポートには、ビットコインコミュニティは自分のような人間を含まないという考えに同意した回答者の割合を示す地図が含まれている。多くの国で、意見は2つに割れていた。南アフリカは非常に親ビットコイン的だが、インドの人たちの受け止め方は正反対だ。

ビットコインコミュニティが自分のような人間も含むと感じる人の国別割合
出典:Block

このような結果になった理由には、2つの可能性がある。1つ目は、暗号資産に対するインドの厳しい姿勢が、ビットコインに対する心情を悪化させた。2つ目の可能性は、ソーシャルメディアに現れるようなビットコインコミュニティの有害なビットコイン至上主義的文化が、インドの人たちの対ビットコイン感情を悪化させた。否定的な感情を持つには、ソーシャルメディアで一度でも嫌な体験をするだけで十分なのだ。

このセクションの最後で、レポートは興味深い以下のような主張をしている。

「ビットコイン保有と、自己申告での知識レベルにおけるジェンダー間の差は、アメリカで一段と顕著だが、世界の他の国々では、それほど男性支配的ではない」

上記の引用文と共に掲載されているグラフは、少し複雑かもしれないが、主要なポイントは次の通りだ。

ヨーロッパ、中東、アフリカ(EMEA)とアジア太平洋地域(APAC)の女性たちは、男性よりも高い割合で専門的知識を持っていると主張。それは結構だが、このレポートに書かれた「ジェンダー間の差はない」といった表現を使う前に、もっとこのトピックに関する調査結果を見たいものだ。

(ちなみに、ブロックの表現は次の通りだ。「ビットコインを保有し、自らを専門家と考える人たちの中に、ジェンダーによる差はなかった」)

自己申告での知識レベルとジェンダー、地域の関係(線の左側が女性、右側が男性)
(グレー:暗号資産については何も知らない
水色:存在していること以外ほとんど知らない
緑:基本的な知識は持っている
肌色:知識は持っているが専門家ではない
赤:友人や家族の中では自分が専門家だ)
出典:Block

知識が楽観主義を促進

次なるセクションでは、ブロックは完璧な表現をしている。「教育が鍵」なのだ。より多くの人にビットコインを購入、利用してもらうことで、ビットコインのネットワーク効果を高めるという点では、ビットコインについて知っていればいるほど、1年以内に買う可能性が高まるという調査結果が出た。

1年以内にビットコインを買う可能性と知識レベル
(緑:購入の可能性が非常に高い
水色:購入の可能性がある程度ある
肌色:購入の可能性はあまりない
赤:購入の可能性はまったくない
縦軸は左端:知識はゼロか限定的、真ん中:基礎知識、右端:かなりの知識あるいは専門家水準)
出典:Block

私が開発者たちに聞いた話でも、普及の最大の障害として彼らが指摘するのは、教育の欠如だ。

ビットコインがナンバーワン

レポートの最後のページで、ブロックは無難な主張を展開する。ビットコインは最もよく知られた暗号資産だというのだ。しかし、ビットコインと2番手につけるイーサリアム(ETH)の差は、私が思ったよりずっと大きかった。

回答者の88%がビットコインについて聞いたことがあると回答したのに対し、イーサについて聞いたことがあったのは、わずか43%だったのだ。

各種暗号資産について聞いたことのある回答者の割合
(左からビットコイン、イーサリアム、ドージコイン、バイナンスコイン、リップル、テザー、XRP、カルダノ、これまでどれも聞いたことがない、その他)
出典:Block

ブロックがこの質問を含めたのは、ビットコインだけに重点を置いている自社の方針が正しいと、投資家たちに感じてもらうためだ、というのが私の直感だ。しかし、持続性にはメリットがあるということを強調するため、とも感じる。ビットコインがよりよく知られている理由の1つは、より長く成功しているからなのだから。

全体としてこのレポートはレベルが高く、広範に読まれるべきだろう。ビットコインについて聞かれる大切な疑問の概要を良く網羅しつつ、その疑問への回答に具体的な数字を提供している。

しかし、さらに深く掘り下げる必要がある。今回のレポートにインスピレーションを受けた調査やレポートを読む(もしかしたら自分で書く)ことを楽しみにしている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Might, in Fact, Be the Great ‘Equalizer’