DEXは暗号資産市場でなぜ重要か【基礎知識】

2012年、意欲満々の経済学部生として私は、ビットコイン(BTC) に投資をしたいと考えた。大型小売店のウォルマートに行き、送金サービスのマネーグラムを利用して、ZipZapという会社に送金。するとZipZapがBitInstantという会社にお金を送ってくれるという、複雑なプロセスだった。

数週間後、BitInstantが日本のビットコイン取引所マウントゴックスの私のアカウントに、ビットコインを入れてくれた。全部で3週間以上かかったことから、画期的なはずのこのデジタル通貨が、競合となる他の通貨に取って代わることなんてあるのだろうかと、疑問に思わずにはいられなかった。

そんな私の初めてのビットコイン体験からまもなく、コインベース、クアドリガCX、ビットスタンプといった中央集権型取引所が、登場してきた。これらの企業は銀行口座を持っていたので、現代の金融システムにつながっており、暗号資産(仮想通貨)の購入がはるかに容易になった。

これらの中央集権型・暗号資産取引所は、完璧に機能しているように思えたが、そうとは言えない時がやってきた。

マウントゴックスは2014年に攻撃に遭い、85万のビットコインが盗まれた。ビットスタンプも2015年にハッキングの犠牲者となり、BTC-eは2017年に閉鎖。悪名高きクアドリガCXの場合には、預け入れられていた顧客の資産がすべて、2018年に創業者兼CEOによって奪われ、2019年には閉鎖された。

すべての中央集権型取引所が問題を抱えている訳ではない。何年にもわたり事業を成功させ、多くの満足した顧客を抱え、現在も運営中の取引所も数多く存在する。

しかし、中央集権型取引所には、固有のデメリットがある。登記された国の顧客確認(KYC)規制に従う義務があり、オーダーブックの規模には制約がある。さらに、ユーザーが取引所の支払い能力を信頼する必要があるが、ネイティブ暗号資産ユーザーにとってこれは多くの場合、マイナス要素と捉えられる。

スマートコントラクトの開発によって、これらの問題に対する洗練された解決策が生まれた。完全にトラストレスで分散化された、ブロックチェーン上で完結する取引所プラットフォームの分散型取引所(DEX)だ。

DeFiの仕組みを紹介した記事に続くシリーズ第2弾となるこの記事では、DEXが暗号資産エコノミーにおいてなぜそれほど重要なのかをみていこう。

DEXのメリット

DEXは極めて複雑なスマートコントラクトだが、その目指すところはシンプルだ。暗号資産を取引したいと願うすべての人に、流動性を提供することだ。

最も人気のDEXはユニスワップ。イーサリアムブロックチェーン上で運営されている。ユニスワップは、イーサリアムベースのトークンを取引するユーザーのための分散型取引プラットフォームとなっている。

DEXは、中央集権型取引所と比べて大きな強みを持つ。KYCは必要なく、24時間365日、いつでも使える。さらに、イールドファーミングも可能だ。スマートコントラクトのコード(ユニスワップではソリディティというプログラミング言語を使用)は開かれていて透明性があるので、支払い能力に関して中央集権型企業を信頼しなくても、ユーザーは自分でコードを検証することができる。

DEXには弱みもある。取引は変更不可能で、ひとつのブロックチェーンの資産しか取引できない。例えばユニスワップでは、イーサリアム上の資産のみだ。ラグプル(資金の持ち逃げ)や変動損失(プールに資金を入れた時と比べて暗号資産の価格が下がった場合に生じる損失)のリスクもある。

DEXの仕組み

2世紀以上上手く機能してきたシステムであるオーダーブックを利用する(暗号資産および伝統的金融の)中央集権型取引所とは異なり、DEXはユーザーへのサービス提供のために2つのイノベーションを活用する。

流動性プールと自動マーケットメーカーサービスだ。

DEXは、ユーザーがトークンを別のトークンとスワップするのに利用できるペア資産のプールという形で、流動性を提供する。流動性プールは、ユーザーが自らのゴールにもとづいて、あるトークンを手にしたり、手放したりするのに利用するスマートコントラクトだ。

自動マーケットメーカーサービスは、流動性プールにおける取引ペアの価格をコントロールし、市場の需要と供給に応じて価格を上下させる、流動性プールスマートコントラクト内の複雑なスマートコントラクトである。

流動性プールを支配するスマートコントラクトは、各トークンの価格決定のために、「X×Y = k」という方程式を利用する。XとYはトークンで、kは一定。これが、流動性を支配する方程式なのだ。

流動性プールは分散型流動性へのアクセスをトレーダーに提供するだけでなく、流動性プールに資産をステーキングしたい人にも、投資のチャンスを提供する。ユーザーが流動性プールを介して資産をスワップすると、その流動性を提供しているユーザーに、極めて少額の手数料が渡る。

伝統的金融の世界を引き合いに出すならば、流動性プールに資本を提供する人が、マーケットメーカーと似たような手数料を獲得する、ということだ。流動性プール、とりわけより新しいものは、投資家に極めて高い利回りを提供する。このコンセプトはイールドファーミングと呼ばれるもので、コンセプトを理解した人には、収入を得るチャンスがもたらされる。

例えば2021年第4四半期、ユニスワップは2384億ドル相当の取引を処理。第3四半期と比べて61%増加した。2021年、ユニスワップの流動性プールを通じて、6811億ドルが取引された。

まとめ

重要なポイントは、DEXは中央集権型取引所と同じサービスを提供しつつ、それをすべて匿名でトラストレスな形にできるということ。テクノロジーによって、規制を受けた業界の外でこのようなサービスの提供が可能となり、あらゆる人に対して金融サービスへのアクセスを拡大することができる。

イーサリアムが誕生するまでは、トレーダーは資産の交換や取引に中央集権型システムを使うことを余儀なくされていた。スマートコントラクトは、適切に使えば、あらゆる参加者に経済的メリットをもたらす可能性のある、トラストレスで完全に開かれた金融システムへの扉を開いたのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why Decentralized Exchanges Are Important in the Crypto Economy