今回の暗号資産暴落はこれまでとは違う【オピニオン】

今回の暗号資産暴落はこれまでとは違う【オピニオン】

分散型金融(DeFi)と中央集権型金融(CeFi)のバブルが崩壊し、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)ブームは燃え尽き、アルゴリズム型ステーブルコインは暴落、暗号資産貸付業者が破綻した。暗号資産は弱気相場にある。

暗号資産に懐疑的な人たちは当然ながら、「暗号資産の終わり」を叫んでいる。

しかし、このような修正はこれまでにもあった。

2014年には、取引所マウントゴックスの破綻を受けて、ビットコイン(BTC)価格が暴落。2018年には、何百もの新規コイン公開(ICO)が失敗に終わり、ビットコイン価格は80%も下落した。

どちらの場合でも、市場はゆくゆくは回復し、暗号資産価格もそれまでよりも高くなった。ビットコインは昨年11月以来、ドル建てで70%も値下がりしているが、それでも2017年のピーク時よりも高値だ。HODL(長期保有)をして、市場の回復を待つべきだろうか?

前例のない状況

しかし、今回は確かに様相が違う。

戦争とパンデミックにより、新しいマクロ経済パラダイムが形成されている。30年ぶりにインフレも帰ってきた。それに伴って、はるかに厳しい金融引き締め政策が復活した。金利は上昇を続け、世界中の中央銀行が通貨の流通量を減らそうとしている。

マネーが溢れる時代は終わりを告げようとしているのだ。それはつまり、暗号資産にとっては、一貫した値下がりを意味する。

暗号資産市場は、イージーマネーしか知らずにきた。ビットコインは、2008年の金融危機の余波が残る頃に誕生。多くの人は、中央銀行の超低金利政策と量的緩和が、急性インフレを引き起こすのではと恐れていた頃だ。

それから10年、金利はいまだに金融危機以前の水準と比べてはるかに低く、中央銀行のバランスシートもまだまだ大いに膨れ上がっていた。ビットコイナーたちが予測した急性インフレは発生せず、リターンを求める投資家たちがビットコインをはじめとする暗号資産に飛びつく中、暗号資産価格を含め、資産価格は大幅に値上がりした。

2016年から2018年にかけて、比較的マネーが希少だった時期が短期間あった。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを行い、量的引き締めを実施、米財務省が国債を発行した頃だ。しかし、FRBが金融引き締めを実施する一方で、他国の中央銀行は金融緩和政策を行った。

量的緩和は終わったのではなく、ただ世界の他の場所へと移動していったのだ。そして2019年、ドル不足がレポ市場に混乱をもたらした時に、FRBは資金の注入を再開した。

そして、パンデミックがやって来た。政府が企業を閉鎖させ、働けない人たちに給付金を支給する中、中央銀行は前例のない量的緩和に踏み切った。そのようにして流通したマネーの大半は、暗号資産に流れ込み、価格はかつてない水準まで高騰。高利回りのレンディングや、複雑な合成オプション、2008年の金融危機前に見られたような、有害なデリバティブの急成長を促した。

実体経済が閉鎖される中、暗号資産の世界では熱狂が起こっていた。年金基金、ヘッジファンド、ソフトウェア企業、サッカーチーム、有名人も皆、その波に乗り、多くの一般人も、人生を一変させるような額のお金を手にした。

金融危機の廃墟から生まれたビットコインの登場、そしてとりわけ2020年3月以降、暗号資産業界の豊かな成長は、中央銀行が金融市場に提供していた大量のマネーに直接起因していたと言っていいだろう。

インフレとビットコイン

今、私たちはインフレに直面している。経済学者たちは、今回のインフレが主に、供給不足によって引き起こされているのか、過剰の需要によって引き起こされているのいか、一時的なものか、長期的に続くものなのかを議論している。どちらにしても、インフレを抑制するようプレッシャーを感じている中央銀行は、急速に金融引き締めへと舵を切っている。その影響を1番受けるのは、最も豊かな成長を享受してきた市場だ。

イージーマネーの終焉が、高レバレッジの暗号資産バブルに投資していた人たちにとって壊滅的な理由はわかりやすいだろうが、ビットコインの暴落を引き起こしている理由は、それほど明白ではない。ビットコインのようなデフレ的な暗号資産に、人々が群がると考えたくなるだろう。

結局のところビットコインは、ドルに取って代わるものとして作られたのだし、ゆくゆくはそうなるといまだに信じている人たちもいる。未来の世界通貨を購入して長期保有するのに、世界の主要準備資産通貨としてのドルの凋落をもたらすインフレの始まりほどぴったりな時はないはずだ。

しかし、暗号資産に投資した人たちの多くは現在、ドルが取って代わられることを望んではいない。むしろ、ドルに代わるものを恐れているのだ。彼らが望んでいるのは、ドル建てでリッチになること。

だからこそ、暗号資産価格は一般的にドル建てで示され、大半の暗号資産取引では、ドル連動型のステーブルコインが使われ、ドル連動型ステーブルコインが、暗号資産レンディングで安全な担保として幅広く使われているのだ。

暗号資産エコシステムは、伝統的金融システムと密接に結びついており、ドルは伝統的金融市場同様、暗号資産市場でも支配的だ。暗号資産市場が成長するに伴って、暗号資産業界のドル建てでの価値も高まった。

本物のドル

しかし、そのようなドルは本物ではない。バーチャル空間にしか存在しないのだ。真のドルを生み出せる世界唯一の組織FRBによって、保証されたことは一度もない。FRBは、「バーチャルドル」で人生を変えるほどのお金を手にした人たちが、実際にそれを本物のドルと確実に交換できるよう保証する義務は負わない。

つまり、暗号資産バブルが崩壊すると、「バーチャルドル」は単に消えてなくなるのだ。バーチャルドルを本物のドルと交換できなければ、富は幻想にしか過ぎない。

暗号資産業界に存在する唯一の真のドルは、初めて暗号資産を購入する時に新規参入者が支払うドルだけだ。暗号資産市場に存在する残りのドルの流動性は、ドル連動型ステーブルコインが提供している。

それらのステーブルコインは、2つのグループに分けられる。裏づけとなる本物のドル、あるいはドル建ての安全で流動性を持つ資産があるものと、そうではないものだ。全員が本物のドルに交換できるほどに前者は存在しておらず、後者を本物のドルに交換できる保証はない。つまり暗号資産業界全体は、部分的にしか裏づけられていないのだ。

いまだに存在しているわずかな真のドルと暗号資産を交換しようとする競争が始まっている。規制を受けていない市場の常だが、ここにもジャングルの法則が当てはまる。最も大きな歯を持ったものが、ドルを手にするのだ。大口保有者を「クジラ」と呼ぶのは間違っているかもしれない。クロコダイル、と呼んだ方が良いだろう。

皆が暗号資産をますます希少となるドルと交換しようとすると、皆が換金できるのに十分なドルがシステムに存在する水準まで暗号資産価格は下がる。デリバティブや、原資産とオプションを組み合わせた合成オプションの場合、それはおそらくゼロとなるはずだ。

原資産の価格が急速に下落している場合、誰がデリバティブを欲しがるというのだろう?そして合成オプションは、名前の通り、リアルなものではない。現実への逃避があるときに、リアルでないものは価値を持たないのだ。

昔には戻れない

多くの人が予測する通り、金融引き締めが長引く場合、ドルの希少性が継続するため、暗号資産は以前のように値上がりを繰り返すことはできなくなる。むしろ、新しいパラダイムに順応しなければならないだろう。

ルーツに回帰し、ドルを避けて、暗号資産そのもので価値を示すことができるかもしれない。ビットコイン至上主義者たちが言う通り、「1BTC = 1BTC」という風に。

もしくは、現実には実現できないようなドル建ての価値を吊り上げるためにネットワーク効果に依存するのではなく、実世界でのユースケースを開発することで、より多くの真のドルを惹きつけることもできる。しかしこれでは、過去に見られたドル建ての高い価格を生み出せる可能性は低い。

FRBが金融引き締め政策を実施し、FRBや連邦預金保険公社(FPIC)が暗号資産の預け入れを保証しない状態では、高レバレッジで部分的にしか裏づけられていない暗号資産システムへの回帰はあり得ないのだ。そのようなシステムで生まれた幻想の富は今、真の損失に取って代わられている。

フランシス・コッポラ(Frances Coppola)氏は、銀行、金融、経済をテーマにしている。著書の『The Case for People’s Quantitative Easing』では、現代のお金の創出と量的緩和の機能を説明し、景気回復のための「ヘリコプターマネー」を提唱している。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why This Crypto Crash Is Different

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