DeFiのアーベとカーブが独自ステーブルコイン発行を狙う理由

トレンドとなるには、3つの例が必要だという古い格言がある。今、新しいステーブルコインを設計しているイーサリアム基盤の主要プラットフォームが、少なくとも2つある。

ステーブルコインの重要性と、暗号資産(仮想通貨)業界内で競争が促進する革新の大切さを証明するような状況だ。少なくとも、一時的な流行以上のものと言っていいだろう。

分散型レンディングプラットフォーム、アーベ(Aave)のコミュニティメンバーは7月31日、ネイティブステーブルコイン「GHO」の開発を圧倒的多数で可決した。その約1週間前には、オープンアクセスプロトコル、カーブ(Curve)の創設者マイケル・エゴロフ(Michael Egorov)氏が、独自の法定通貨連動型コインに取り組んでいると事実上認めたばかりである。

ステーブルコインとは、様々な方法を使って、米ドルやユーロなどの法定通貨とのパリティ(等価)を維持するブロックチェーン基盤のトークンだ。一般的に、アーベやカーブなどの分散型金融(DeFi)の世界では、ステーブルコインは超過担保に当たる暗号資産で裏づけられている。つまり、ステーブルコインの価値以上の暗号資産が、プロトコルに確保されるのだ。

ステーブルコインは、暗号資産の世界でも最も大切なイノベーションの1つであり、歴史的にも最も急速に成長したサブエコノミーの1つである。データ提供を手がけるコインゲッコー(CoinGecko)によれば、現在流通するステーブルコインは1500億ドル(約19.6兆円)に相当する。

競合する中央集権型企業が手がける2つのドル連動型ステーブルコイン、テザー(USDT)とUSDコイン(USDC)が、市場の3分の2を占めている。

DeFiの世界にもすでに多数のステーブルコインが存在しており、非許可型エコノミーの不可欠な一部となっている。価格変動から資産を守ったり、レンディングを通じて利回りを獲得するための方法として、トレーディングペアの中で使われているのだ。メイカーダオ(MakerDAO)のダイ(DAI)は、最も古くからあり、時価総額も最大の「DeFiネイティブ」ステーブルコインである。

ブロックチェーンベースのステーブルコインはすべて、仲介者なしでの取引を可能とするが、正式な企業ではなくアルゴリズムが運営する真に分散型のステーブルコインが、プログラム可能な金融包摂という暗号資産の精神により沿ったものとなっている。対照的に、テザーや、USDCを手がけるサークル(Circle)は時に、取引をブロックしたり、アドレスをブラックリストに掲載することがある。

ビジネスとして意味を成す

しかし、アーベやカーブがステーブルコインの世界に参入するのは、純粋にビジネス的な意味合いからのようだ。どちらのステーブルコインもまだ開発されていないが、収益を上げ、プラットフォームにユーザーを惹きつける可能性が高い。

アーベはGHOでの借入に利子を課す計画で、その利子はプラットフォームの自律分散型組織(DAO)へと流れることになる。借り手はトークン発行のために差し出す担保に対して、利子を獲得することもできる。

アーベプロトコル改善のための方法として提案されたステーブルコインに対して、投票者の99.9%が賛成票を投じ、50万のAAVEトークンを差し出した。一方、いわゆる「ステーブルコイン戦争」の場となっているカーブのユーザーも、おおむねネイティブステーブルコインを支持しているが、正式な投票はまだ実施されていない。

DeFiトレーディングに特化したメディア「The Defiant」は、次の通り指摘している。

「カーブステーブルコインの基本的メカニズムとしては、流動性プロバイダー(LP)ポジションに対して発行するものになるというのが、理にかなっている。これは、メイカーダオの担保型債権ポジションモデルに似ている。

担保としてLPポジションを使うことで、理論的には、カーブでの流動性は一段としっかりとしたものになるはずだ。LPポジションに対する未払いのローンの場合、ユーザーが担保を取り返す前に、ローンを支払うことが必要になるからだ。

結局のところ、人々がメイカーダオを使う理由の1つは、手持ちのイーサ(ETH)を売却しなくて良いからだ。カーブの場合、手数料を生む担保を手放すことなく、流動性にアクセスするために、LPポジションに対して借り入れができるのだ」

より早い時期にステーブルコイン提案の行われたアーベコミュニティでは、カーブの開発者チームがステーブルコイン計画について公に語るようになったことを受けて、GHOを投票にかけることにしたようだ。

ステーブルコイン戦争とは結局のところ、どのトークンが最も多くのユーザーを惹きつけ、価格の安定性を確保するために最も高い流動性を維持できるかをめぐる、DeFiの中での戦いだ。

それでも、アーベは過去に、ソーシャルメディアなど、幅広い無関係な市場に拡大していったことで批判されてきた。ステーブルコインは利益を推進し、ユーザーにディスカウントを提供する可能性がある一方、ブランドを薄めることにもなる。「アーベは次は何をするんだ?」と疑問に思われる可能性があるのだ。

まだトレンドとはなっていないが、現在の状況は、ほぼあらゆるプロトコルがガバナンストークンをローンチしていた、2020年のDeFiの夏を少し彷彿とさせる。より多くのプロトコルが参入し、とりわけ資本やユーザーが盛り上がった場合、担保不足のステーブルコイン市場に何が起こるのかを見るのは興味深いだろう。

あの夏が時に、どれほど荒れ模様なものとなったのかを思い起こすことも大切だろう。インセンティブを提供して競合からユーザーを奪うヴァンパイア攻撃や、魅力的なトークン給付などを通じて、他のプロコトルからユーザーを吸い上げるためにプロトコルがローンチされていたのだ。

メイカーダオがこれほど傑出した存在でなければ、あらゆる分散型取引所がネイティブステーブルコインを持っていれば、ユーザーやDeFi全体にとっては良いことなのか、私が意見することではない。

しかし、DeFiが約束するのは、リスクは高まったとしても、開かれた市場がイノベーションを促進するということのはずだ。どちらにしても、スシスワップ(SushiSwap)が独自ステーブルコイン発行を決断するまで、市場が飽和状態にあると呼ぶには、おそらく時期尚早だろう。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why DeFi Giants Aave, Curve May Want Their Own Stablecoins