イーサリアムPoWはイーサリアムの競合ではない【コラム】

イーサリアムPoWはイーサリアムの競合ではない【コラム】

世界でも最もアクティブな暗号資産(仮想通貨)ネットワークのイーサリアムが、マイナーを全員解雇した。

マイナーの行方

待望のアップグレード「Merge(マージ)」によってイーサリアムの開発者たちは、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)と呼ばれる、ブロックチェーンの安全を確保するエネルギー消費量の多いプロセスとお別れするために、「動いている車のエンジンを取り替える」ような離れ業を完了させたのだ。

それはつまり、マイニングに使う大量のASICと呼ばれる専用のチップの所有者(個人、企業、マイニングプール)が利益を出し続けたければ、どこか別のところでASICを活用しなければならないということでもある。推定50億ドル相当のEtHash ASICを転用できるほどに、イーサリアムに類似したハッシュ関数を使っているブロックチェーンは数少ない。

「正統なチェーン」から2016年にフォークしたイーサリアムクラシックがすでに、勝者となっているようだ。データサイト「2miners」によると、イーサリアムクラシックのネットワークハッシュパワーは14日夜から15日にかけて約300%増加し、1秒間当たり300テラハッシュ(TH/s)近くになった。

ハッシュパワーとは、PoWネットワークの安全を確保するために使われる演算エネルギーの量を示す指標である。

レイブンコイン(Ravencoin)やエルゴ(Ergo)など、小規模で重要度の低いチェーンでも、ハッシュパワーとネイティブトークンの価格が著しく上昇した。これらのトークンでできることが限られていることを考えると、これが持続可能な値上がりなのか、これらのブロックチェーンで開発をするべき理由となるのかは、まだわからない。

暗号資産の市場価格と、それらのトークンを獲得するために人々が費やすしても構わないと考えるエネルギー量のバランスを取る動きが最もわかりやすいのは、イーサリアムPoW(ETHPoW)と名付けられたイーサリアムからフォークしたPoWブロックチェーンだ。

熟練イーサリアムマイナーで、イーサリアムクラシックの中心的立案者でもあるチャンドラー・グオ(Chandler Guo)氏が「設計」した最新のイーサリアムフォークであるETHPOWは、Mergeから恩恵を受けるために作られた。

イーサ(ETH)保有者に無料でトークンを提供するエアドロップを約束したことと、自らのカリスマ性によって、グオ氏は少なくとも19の元イーサリアムマイニングプールに、自分の新しいチェーンでマイニングを続けるよう説得した。

ネイティブトークンのETHWは、Merge後まもなく行われたネットワークのローンチから数時間で35ドルから60ドルまで値上がり。その後、約20ドルまで値下がりした。ETHPoWは最初から失敗するだろうと考えていた多くの人にとっては、驚くことでもない。

ソラナやカルダノなど、主要スマートコントラクトブロックチェーンがすべて何らかのバージョンのPoSを使っていることを考慮すれば、マイニングを利用するスマートコントラクトブロックチェーンが、Merge後に市場で適所を見付けることはできるかもしれないが、多くの人は、ETHPoWは利益儲けのための粗悪品のようなものと考えている。

トレーディングへの関心、あるいは少なくともエアドロップへの関心は高いようだが、ETHWを上場している取引所はほとんどない。

ETHPoWはローンチ前にウォレットやブロックエクスプローラーなどの基本的なブロックチェーンインフラを構築できていないと、批判的な人たちは指摘。

イーサリアムクラシックの元開発者イゴール・アルタモノフ(Igor Artamonov)氏は、ETHPoWのブランディングに疑問を呈した。実証済みのPoWの安全性といった、全体にとって大切な要素よりも、チェーンを失った哀れなマイナーたちを救うという考えで売り込んでいるように見えるからだ。

しかし、ETHPoWが軌道に乗るのに苦戦するであろう本当の理由は、イーサリアムが抱える非常に価値の高い分散型金融(DeFi)エコノミーの大半が、ETHPoWについていかないと思われるからである。

それは、積極的な選択である場合もあるが、多くのDeFiプロトコルにとっては、オラクルの故障などが原因で不可避なものであるようだ。

本当の競合は?

イーサリアム支持者の多くは、資本や開発者人材の流出を恐れて、始まる前からETHPoWの終焉を支持していたようだが、ETHPoWがイーサリアムの競合と言うのは、そもそも正確ではないのだろう。

ETHPoWはむしろ、イーサリアムクラシックの競合だ。ハッシュパワーやハードウェアを競い合う相手となる。そして、ポロニエックス(Poloniex)やGate.ioなどいくつかの取引所で上場され、バイナンスとFTXでも先物取引が行われているETHWトークンは、関心や資本を競い合う相手となる。

イーサリアムクラシックの方は、イーサリアムの王位に挑戦するようなことは決してなかった。ネットワークを支持する人がほとんどいないために、トークン価格は低迷し、セキュリティに資金を捻出するのに苦戦していたことから、51%攻撃に襲われたことが複数回ある。

Merge後のイーサリアムクラシックは今、ネットワークマイナーを過剰なほどに抱えている。しかし、移行してきたASICのすべてが収益を上げられるほどに、トークン価格が高まるかは不透明だ。

Merge前にはイーサリアムのハッシュパワーはイーサリアムクラシックの15倍と推定されていた。ETHPoWやその他のPoWチェーンと分け合ったとしても、吸収するにはかなりの演算能力である。

PoWネットワークには、マイニングする価値があるほど十分に価格の高いトークンが必要だが、同時に開発者とユーザーも必要だ。遂に、暗号資産の「ニワトリが先か、卵が先か」的問題に答えが出るかもしれない。価値の高いトークンと価値ある大切なユーザー、どちらが先なのだろう?

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Ethereum PoW Is Not an Ethereum Competitor

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