「シャンハイ」はイーサリアム価格に乱高下をもたらすかもしれない

暗号資産(仮想通貨)市場の次の大きなイベントは、3月に予定されているイーサリアムの「シャンハイ」アップグレードで、ブロックチェーンにステーキングされた1650万以上のイーサリアム(ETH)の引き出しが可能になる。

このアップグレードは、イーサリアムのブロックチェーンが「Merge(マージ)」と呼ばれる技術的な大改革を行い、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)方式からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)方式のコンセンサスメカニズムに切り替えた数カ月後に予定されているものだ。

トレーダーは、市場価値が2番目に大きい仮想通貨であるETHが、昨年9月15日にMergeが行われた後、あまり変動がなかったことを思い出し、今度のアップグレードも「イベントではない」と考えているかもしれない。

しかし、暗号資産オプションの流動性プロバイダーであるOrBit Marketsによれば、そのような結論は早計かもしれないという。

「今回は違うかもしれない」。OrBit Marketの共同創業者で、ドイツ銀行のアジア太平洋地域デリバティブ部門の責任者だったヤン・チミン(Yang Zhiming)氏は、米CoinDeskに「Mergeは純粋な技術的変化で直接的には経済に影響はなかったが、シャンハイ・アップグレードは短期的にも長期的にもETHの需要と供給に変化をもたらす。したがって、ETHの価格に大きな影響を与えるだろう」と語っている。

Mergeでは、その名が示すように、それまでのPoWのブロックチェーンとPoSのビーコンチェーン(Beacon Chain)を結合した。この極めて重要なアップグレードにより、イーサリアムはより環境に優しくなり、デフレ通貨への道を歩み始めたが、暗号資産の需給に直ちに影響を与えることはなかった。

ETHの価格は当日に10%下落して1472ドルになったが、ボラティリティはすぐに低下し、その後の4週間は1300ドルから1400ドルの狭いレンジで取引された。暗号資産データプロバイダーのアンバーデータ(Amberdata)によると、ETHの30日間の実現ボラティリティは、Merge後の4週間で年率85%から60%近くまで低下した。実現ボラティリティは、過去の特定期間に観測された価格変動の度合いを測定する指標だ。

今回の「シャンハイ」アップグレードは、すぐにでもイーサリアムの需給バランスに影響を与え、Merge後よりも不安定な状態にする可能性がある。

「約250億ドル相当のETHを引き出し、売却できるようになる。アップグレードに伴い、ステーキングの利回りが低下することが予想されるため、これまでステーキングしていた投資家はそれを解除し、より良い利回りを提供する他の資産に移動する可能性がある。そうなれば、ETH価格に大きな売り圧力がかかるだろう」とチミン氏は述べた。

Saxo Bankによると、1650万ETH以上のステーキング残高全体をアップグレード当日に引き出すことはできないが、2年以上のステーキング報酬の約100万ETHは即座に引き出すことができるという。

Saxo Bankのマッズ・エバーハルト(Mads Eberhardt)氏が先月述べたように、これらのETHは市場で清算され、価格変動をもたらす可能性がある。

その上、アップグレード後の価格乱高下の懸念を市場が是認している証として、イベントまでの数日間、ETHが乱高下する可能性もある。

イーサリアム・ボラティリティ・スワップ

OrBit Marketsは最近、顧客に対して、3月に予想されるボラティリティの上昇から利益を得るためにイーサリアム・ボラティリティ・スワップを推奨した。

ボラティリティ・スワップは、資産の将来の実現ボラティリティに関する先渡取引で、トレーダーは価格の方向性ではなく、価格の動きの程度に賭ける。

従来の金融では、ボラティリティ・ストライクと呼ばれる事前に決定された固定ボラティリティと当該期間中に観測された実現ボラティリティとの差に基づいて、スワップは主に現金で決済される。

「3月のボラティリティ・スワップ(最初のフィキシングが3月1日、最後のフィキシングが3月31日)では、ボラティリティ(vols)70%でスワップを購入し、上限が170%、下限が45%になる」とチミン氏は述べた。「つまり、最大利益は100vols、最大損失は25volsに制限されている」

この場合のボラティリティ・ストライクは70%だ。スワップが利益になるか損失になるかは、3月末に判明する実現ボラティリティによって決まる。OrBitのボラティリティ・スワップは、サークル(Circle)のドルペッグ型ステーブルコインのUSDCで構成されており、利益、損失、担保はすべてUSDC建てだ。

「ボラティリティ・スワップは株式や外国為替では非常に一般的で人気のある商品で、ヘッジファンドや資産運用会社で広く利用されている」とチミン氏は米CoinDeskに語った。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:井上俊彦
|画像:Shutterstock
|原文:Unlike Merge, Ethereum’s Shanghai Upgrade Could Bring Ether Price Volatility