Cash Appの犯罪利用に関するレポートから考える「決済の自由」の行方【コラム】

投資リサーチ企業のヒンデンブルグ・リサーチ(Hindenburg Research)は3月23日、ジャック・ドーシー(Jack Dorsey)氏の率いるブロック(Block、旧スクエア)の決済ツール「Cash App」は犯罪者に悪用されており、同社は十分な予防措置を取っていないとする長文レポートを発表した。

ヒンデンブルグはまだ新しいリサーチ企業だが、新興EVメーカーとして話題を集めたニコラ(Nikola)などの不正を暴き、幅広い信頼を集めている。市場関係者は現状、レポートに対するブロックの反論は説得力に欠けていると考えている。

レポートの指摘はブロックやフィンテック業界にとって深刻なもので、暗号資産業界も注目すべきものだ。Cash Appはビットコイン(BTC)の購入手段として重要な存在であり、直接的な影響もあり得る。

しかしより深い意味では、Cash Appが違法取引やID詐欺の手段として使われていたという(意外ではない)発見は、暗号資産に以前から寄せられている批判をより繊細に検証することに役立つ。

暗号資産だけの問題ではない

最も表層的なレベルで言うと、強力だがあまり程度の高くない「ホワットアバウト論法(Whataboutism:そっちはどうなんだと批判の矛先をそらす論法)」となる。

つまり、アンチ暗号資産軍団を結集しようとしているエリザベス・ウォーレン上院議員は、従来の金融サービスを利用した詐欺や犯罪も同じくらい心配しているだろうか。

クレディ・スイスが経営危機に陥ったのは、リスクを好む経営のせいのみならず、「拷問、麻薬密売、マネーロンダリング、汚職、その他の深刻な犯罪」を手助けしていたからだとされる。

このような指摘をするのは楽しいだろう。しかし、ワットアバウト論法は、暗号資産支持者にとっては幼稚な批判に過ぎない。別の分野で違法行為が行われているからといって、自分たちもやっていいことにはならない。

大銀行で無くならない汚職と同じように、ブロックにまつわる疑惑も、お金、コントロール、利益の関係をより深く考えるきっかけとするべきだ。暗号資産は、そのジレンマを解決できるはずだ。

利益と重大な責任

Cash Appは、決済処理から利益を得ることと引き換えに、顧客を取り締まる重大な責任を引き受けている。

ヒンデンブルグの指摘は、この力関係に内在する深い葛藤を痛感させる。意図的であったかどうかにかかわらず、Cash Appが違法取引に使われたことはブロックに利益をもたらした。

寛容的に見れば、最も高潔な決済企業でさえ、すべての犯罪行為をブロックすることはできないとなるだろう。何百万人もの顧客を相手にしており、管理システムを回避しようとする犯罪者たちは常に抜け道を見つける。

ブロックはヒンデンブルグからの批判をかわすために、Cash App上のアクティビティのわずか3%が非認証済み、つまり実世界での身元がはっきりしないユーザーによるものだと主張した。

そもそも犯罪行為の指標とは言えないが、この割合はパブリックブロックチェーン上の犯罪行為は1%未満というチェイナリシス(Chainalysis)のデータと比べるとはるかに高い。

ブロックチェーンの強み

もちろん、どちらも良いことではない。しかしブロックチェーンは少なくとも、違法行為取り締まりの議論において大きな強みがある。

最も重要な点は透明性だ。パブリックブロックチェーンのほとんどがすべての取引の記録を保管しており、ほとんどの場合、犯罪者の足跡をたどることができる。

銀行も、Cash Appのような決済企業も、ブロックチェーンに比べると比較的透明性が低い。取引の記録は警察や国家権力が後ろ盾となった規制当局しかアクセスできない。そのため取り締まりがモグラ叩きゲームのようになる可能性がきわめて大きく、政治が影響を与える可能性もある。

暗号資産は金融インフラから選択的な検閲と利益という両方の動機を排除できる枠組みを提供し、政治化という難問を解決できる。

ビットコインマイナーはネットワーク上で支払いをブロックする個人的な権限を持たない。人々が自分の資産で何をするかをコントロールする力は、本来通り警察の手に委ねられる。

決済の自由

より成熟した社会なら、資本主義とデジタル時代においては、デジタル決済への開かれたアクセスは「言論の自由」に並ぶ大切な権利であることを認めるだろう。しかし現状はそうとは言えない。こうした議論は、すでにリッチでパワーを持った人たちにメリットがある場合のみ注目を集めている。

私たちの文明は、言論の自由という考え方が印刷機とともに登場してきた頃から、それを中心に据え、苦難を乗り越えながら文明を進化させてきた。だが、そのおかげで私たちがより力強く、幸福になっていることはほぼ間違いない。時間とともに「決済の自由」も、私たちに同じくらい力を与えてくれると証明されるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Tada Images / Shutterstock.com
|原文:What Hindenburg Research’s Takedown of Block Says About Money and Crime