中国政府、間接的に参加──注目を集めるSTOとは?

中国政府は間接的にSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)に参加している。

ネルボス・ネットワーク(Nervos Network)のSTOは10月16日(現地時間)にスタート、コインリスト(CoinList)を通じて、金額は明らかにされていないが2週間以内の調達を目指している。現時点でポリチェーン・キャピタル(Polychain Capital)は、これまでの投資に加えて、570万ドル(約6億円)を投資することをCoinDeskに認めた。

ネルボスの共同創業者ケビン・ワン(Kevin Wang)氏は、香港を拠点とするチャイナ・マーチャンツ・バンク・インターナショナル(China Merchants Bank International:CMBI)──チャイナ・マーチャンツ・バンク(招商銀行、China Merchants Bank:CMB)の完全子会社──も同STOに出資することをCoinDeskに認めた。なお金額は明らかにしていない。

ちなみに、CMBIは中国銀行(Bank of China)のように政府が直接所有しているわけではない。その代わり、CMBIのトップ10の株主には、国が一部または全部を所有する企業が少なくとも7社含まれている。

同行の政治的背景に関して、ウォール・ストリート・ジャーナルは、制裁違反をめぐる外交上の緊張から、既に制裁を受けたイランの銀行のように、中国の銀行は将来、ドル経済から締め出される可能性があると伝えた。おそらくこれが、中国メディアのChain Newsが、CMBIは「オープン」プラットフォームと「新しい投資銀行」を構築するためにネルボスに投資していると伝えた理由の一部だ。

CMBIにコメントを求めたが返信はまだない。コメントが届き次第、本記事を更新する。

ワン氏は銀行の計画を具体的に示すことはできなかったが、CoinDeskに次のように語った。

「CMBIは、財務計画の面でも、ブロックチェーンで利用したいと考える他の種類のアプリケーションの面でも、戦略的パートナー。(中略)我々は、彼らがインフラを活用できることを明確にしたい」

CMBIがネルボス・トークンに投資するのは、今回のSTOが初めてではない。ワン氏は、CMBIやセコイア・チャイナ(Sequoia China)を含む2018年のトークン・プロジェクトによる2800万ドルの資金調達は、実際には2019年後半に14%のイニシャル・トークン・ディストリビューションを保証する契約を伴うプライベートセールだったと述べた。

この投資についてのネルボスチームの記者会見では、これを「分散型アプリケーション」の構築を目的とした「パートナーシップ」と述べた。

一方、仮想通貨取引所大手のフォビ(Huobi)は、ネルボス財団(Nervos Foundation)と提携し、仮想通貨間の資金移動を容易にする分散型金融(DeFi)プラットフォームの構築を目指している。

ワン氏によると、ネルボス・プラットフォームは「より規制に準拠した他のブロックチェーン」をサポートする中立的な「公有の」インフラになる。2019年第4四半期のメインネットのローンチ後に導入が予定されている同プラットフォームについて、ワン氏は次のように付け加えた。

「これらは基本的に、実世界の資産が流れ込むことのできるゲートウェイ。その後、ネルボスのより大きなエコシステムの上で動くことになるだろう。これにより、資産はインフラの非許可側にも流れることができ、DeFiサービスのようにより広いサービスのエコシステムを享受できる

注目を集めるSTO

たとえ、これらのパートナーが資金移動のためのシステムを構築したとしても、分散化は良くても野心的な目標でしかない。ネルボスのチームは依然として、多様化を通してシステムを検閲に耐えられるようにするために、マイナーとノード・オペレーターを十分に確保する必要がある。

同財団のロードマップによると、イニシャル・トークン・サプライの23.5%が、オープンソースへの貢献とビジネス・パートナーシップを促進するために指定されている。

ポリチェーン・キャピタル(Polychain Capital)のジョセフ・イーガン(Joseph Eagan)社長は、同氏のヘッジファンドがネルボス・プロジェクトのためにノードを実行するのか、あるいは仮想通貨をマイニングするのかを決めることは時期尚早とCoinDeskに語った。しかし、これはファンドにとって最も利益の上がる投資の1つになる可能性があると付け加えた。

「これは、我々が最も高い確信を持つプロジェクトの1つ、アジアだけではなく世界的にも」とイーガン氏は述べた。

いかにしてネルボスがビットコインの複数の階層化スケーリング・アプローチをイーサリアムの順応性のあるスマート・コントラクトに組み合わせているかを説明しながら、同紙は次のように付け加えた。

「イーサリアムに似たスマート・コントラクトを構築する能力は非常に魅力的だと思う。(中略)技術的な観点から見ると、ネルボスとその基礎となるトークンは、真にユニークなものを提供している」

実際、このSTOに注目しているのは機関投資家だけではない。少なくとも4つの定評ある仮想通貨マイニング・プールが、STOの前の最新のテストネット・コンペティションに参加した。イーサリアム・コミュニティで最大級の2つのマイニング・プールであるF2PoolSparkpoolだ。ワン氏は、これは将来のノード・オペレーターのモチベーションになるはずと語った。

対照的に、ビットコイン・ネットワークは数年をかけてゆっくり静かに拡大し、その後、利益の上がる投機を呼びこんだ。数百人の初期のネットワーク参加者でさえ、国家関係者からの捕捉に対抗することに苦労するだろう。このことは、プロジェクトの「パブリック」な側面に疑問を投げかけている。

一方、CMBIの他にも、仮想通貨エコシステムへの参入を目指している銀行は存在する。ドイツのWEG Bank AGは、同社の株主が分散型仮想通貨取引所(decentralized exchanges:DEX)のスタートアップを経営しているか、あるいはその一部を所有していることから、DEXとの直接的な関係を模索している。仮想通貨取引所大手バイナンス(Binance)は自社のDEXでの取り組みに加えて、マルタにまもなく登場するFounders Bankの株主でもある。

だがイーガン氏は、伝統的な機関投資家がネルボス・プラットフォームの代表的ユーザーになると考えるのは時期尚早と述べた。

「開発者が実際にこうしたプロトコルを使い始めるのは、多くの場合1、2年後」とイーガン氏。

「私はまだ、誰が主要ユーザーになるかは『様子見』モードにあると考えている」

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸
写真:Team image via Nervos
原文:China Merchants Bank’s Latest Crypto Partnership Includes STO Investment