資産運用のフィデリティ・インターナショナルは、インターネットで投資診断やアドバイスを行ったり、運用代行を行ったりするロボットアドバイザーなどの日本における導入の検討を開始した。若い世代の投資家が、“デジタル”に資産運用サービスを受けられる仕組みを整えていく方針だ。
フィデリティ投信とフィデリティ証券で、情報システム部長を務める浅野恵造氏が、CoinDesk Japanの取材で明らかにした。国内経済の低成長が恒常化し、ゼロ金利は続いている。将来の蓄えに対する懸念を膨らませる20代や30代が、より積極的に投資信託やETF(上場投資信託)などの金融商品に投資する機会は増えていくだろうと、浅野氏は言う。
デイトレーダーよりも若い世代の長期投資家
「フィデリティの資産運用サービスを受けるお客さまは、デイトレーダーよりはむしろ、長期投資を通じて資産形成をしようとするロングタームの投資家。日本の若い世代にリーチするには、スマートフォンが入口となるサービスを考える必要があるだろう」と浅野氏。
フィデリティは、国内では運用残高のランキングで上位に入る投資信託(ファンド)を運用する。フィデリティが日本市場に参入してから2019年で50年になる。日本のフィデリティ投信はフィデリティ証券と共に、米国を除く各国で33兆円を超える資産を運用するフィデリティ・インターナショナル(Fidelity International)のグループ企業だ。
フィデリティ・インターナショナルは、1946年に米国ボストンで創業したフィデリティ・インベスメンツ(Fidelity Investments)の国際投資部門として、1969年に独立。同社は、中国の大連と、インドのデリーにテクノロジー拠点を持っている。この2カ所には、2000人を超えるエンジニアやデータサイエンティスト、データアナリストなどの人材が、各国で展開するグループ企業のテクノロジー戦略を後押ししている。
中国、インドのテクノロジー拠点をフル活用
また、米フィデリティ・インベスメンツは、暗号資産などのデジタル資産を扱うフィデリティ・デジタル・アセット・サービス(Fidelity Digital Assets Services=FDAS)を子会社に持つ。FDASは、アメリカと欧州の機関投資家を対象に、デジタル資産のカストディ(保管)サービスを開発している。
SBI証券でシステム部門管掌の取締役を務めた浅野氏は、8月に情報システム部長としてフィデリティ投信に転職。これまでに、米ステート・ストリート信託銀行や仏ソシエテ・ジェネラル証券などで、金融サービスにテクノロジーを導入するプロジェクトに参画してきた。
浅野氏は今後、大連とデリーのテクノロジー拠点のリソースをフルに活用しながら、日本におけるデジタル戦略を練り上げていく。その中で、シンプルなデザインや使い方が重要な鍵になると指摘する。
投資に対するハードルをどう下げるか
「市場には多くの投資信託がある。どれが自分に適しているのか分からない人は多くいる。コールセンターを設けて顧客の質問に答える体制を敷き、ウェブサイトに投資についての学習できるコンテンツも制作しているが、ロボアドという機能をスマートフォン上で提供できる仕組みも必要になってくるだろう」(浅野氏)
フィデリティ・インターナショナルは、既にドイツではロボアドを導入している。
2019年、老後には2000万円の資金が必要だとする金融庁の報告書が、若い世代を中心に将来の不安を煽った。同時に、自らが長期投資を行い、未来の資金を形成しようとするきっかけにもつながった。
LINEは、野村ホールディングスと共同でLINE証券を立ち上げて、スマホアプリから株を購入できるサービスを開始。楽天は、買い物で取得できるポイントを利用できる投資サービスを展開している。
日本の若い世代の資産運用に対するニーズに応えるため、資産運用やネット証券各社は、シンプルに金融商品を理解できて、投資に対するハードルを下げる取り組みを強めていくだろう。
フィデリティは、米国と世界各国で培ってきた経験とデジタル戦略を生かして、どう日本のミレニアル世代の投資家たちを引き寄せていくのだろうか。
インタビュー・文:佐藤茂
写真:多田圭佑