なぜカンボジア中銀はデジタル通貨を発行するのか?──「3つの理由」を開発企業が語る【ソラミツ】

なぜカンボジア中銀はデジタル通貨を発行するのか?──「3つの理由」を開発企業が語る【ソラミツ】

カンボジアの中央銀行デジタル通貨「バコン(Bakong)」を開発するソラミツの宮沢和正氏(特別顧問)が1月20日、都内のイベント「デジタル通貨と規制セミナー」に登壇。2020年から導入される予定のブロックチェーンを基盤とした「バコン」を紹介し、「なぜカンボジアが中銀デジタル通貨を発行するのか?」について「金融包摂」「自国通貨の強化」「国家全体の決済アーキテクチャを簡素化する」という3つの理由を指摘した。

すべての取引が無料で提供される

少額のリテール決済から高額の銀行間取引までできるバコンは、2019年7月から実用化のテスト運用を行っている段階だ。カンボジア最大の銀行アクレダを含む9つの銀行などと接続して、実際のお金の価値を使って数千人のユーザーが送金や店舗での支払いを行っている。正式なシステムの稼働は2020年内を目指す。

開発を進めるのは日本のブロックチェーン企業ソラミツ。特別顧問の宮沢氏は、過去に電子マネー「Edy(エディ)」(現・楽天Edy)立ち上げの中心的や役割を果たした人物であり、今回もプロジェクトリーダーとして構想から仕様書を作成し、推進してきた。

デジタル通貨「バコン」は、カンボジア国立銀行が各銀行にバコンを発行し、各銀行が利用者に展開する「間接発行」方式を採用。「直接発行」方式と比較して、中央銀行が本人確認や口座管理を行う必要がないため負荷が減り、各銀行の役割は現在と同じものを維持できるという。

宮沢氏の発表資料より「デジタル通貨の直接発行と間接発行」

最大の特徴は、加盟店手数料や送金手数料など、金融機関など民間へのすべての取引が無料で提供される点だ。手数料をとるかの判断は、それぞれの事業者に委ねられる。また「少額のリテール決済」から、日本でいえば日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)や全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)にあたる「高額の銀行間取引」まで、一貫してブロックチェーン化している。

宮沢氏の発表資料より「カンボジア中銀デジタル通貨バコンの特徴」

バコンの利用者は、送金先の銀行口座番号を知らなくても、相手の携帯電話番号宛てに直接送金したり、QRコードをスキャンして決済や送金ができる。無料で現地通貨のリエルや米ドルの決済・送金ができる仕組みになっている。

3つの理由──なぜカンボジアが中銀デジタル通貨を発行するのか?

カンボジア国立銀行が中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)を導入する目的は3つ。

第一に、金融包摂(Financial Inclusion)だ。カンボジアの15歳以上の国民のうち78%が銀行口座を開設していない(世界銀行統計、2017年)。一方でスマートフォンの普及率は150%であり、農村地域など銀行店舗がない地域において、オンラインで銀行口座が開設できるなどのメリットを享受できる。またカンボジアではネットでの買い物をする人が増えているが、クレジットカードが普及していないため、電子商取引での活用が見込まれる。

第二に、自国通貨の強化だ。世界最大のモバイルとオンライン決済プラットフォーム「アリペイ(Alipay)」のほか、2019年6月にフェイスブック(Facebook)がデジタル通貨「リブラ(Libra)」構想を発表、それに対抗するかのように中国人民銀行が「デジタル人民元」を発行する計画を進める。カンボジアがCBDCの普及を急ぐ背景には、こうしたグローバルの通貨を巡るうねりがある。

宮沢氏の発表資料より「主要なデジタル通貨との比較」

第三に、国家全体の決済アーキテクチャを簡素化するためだ。カンボジアでは、2017年に全銀行の銀行API義務化を実施し、CBDCを受け入れる下地をつくってきた。決済は「競争」ではなく「協調」の領域であるという考えのもと、国家として決済手段をバコンに統一し、他の決済手段を禁止する方針をとる。それにより大幅なコスト低減が見込まれる。

キャッシュレス決済とデジタル通貨の違い

では、PayPay、LINE Payなど◯◯ペイのバーコード決済や、Suicaなど交通系ICカードに代表される「キャッシュレス決済」と「デジタル通貨」の相違点は何か?

最も重要なのは、「デジタル通貨」は転々流通が可能なトークン型のデジタル決済であり、データ自体が現金と同等の価値を持ち、ファイナリティー(finality)がある点だ。ファイナリティは「それによって期待どおりの金額が確実に手に入るような決済」(日本銀行Webサイトより)を指す。つまり、加盟店はデジタル通貨をいつでも即座に現金と交換することができる。

一方、「キャッシュレス決済」は口座型であり、たとえば加盟店が月ごとに金額をまとめ、現金化を依頼し、送金処理が行われたあとも着金の確認をしなければいけないなど手間が多い。また売上金が振り込まれるまで次の仕入れなどに売上金を使うことができないため、資金の流動性が低いことも問題だった。さらに決済システムのアーキテクチャも複雑であり、高コストになりやすい。

宮沢氏の発表資料より「日本のキャッシュレス決済との相違点」

ブロックチェーン基盤のトークン型のデジタル通貨には、スマートコントラクトによる税金や利用料の自動支払、会計処理の簡素化、一回の処理でデジタル資産の所有権移転と決済処理を完了する(DVP:Delivery Versus Payment)など、様々な用途での利用が期待されている。

フィンテックの可能性を考える

宮沢氏の講演が行われた「デジタル通貨と規制セミナー」は、フィンテックの可能性を考えることを目的に開催。主催であるKPMGコンサルティングの東海林正賢フィンテック・イノベーション ディレクターは、フィンテックの活用及びデジタル化への中期計画やロードマップを策定していない企業が65.3%いるという、上場企業170社のアンケートを紹介しながら「フィンテックを活用するため、ロードマップを作成すべき」とその重要性を述べた。

左から、KPMGコンサルティング フィンテック・イノベーション ディレクターの東海林正賢氏、One Asia Lawyersパートナーの森和孝氏、ソラミツ特別顧問の宮沢和正氏、テコテック代表取締役の釣崎宏氏、有限責任 あずさ監査法人 金融事業部パートナーの関口智和氏。

セミナーでは宮沢氏ほか、One Asia Lawyersパートナーの森和孝氏の「シンガポールにおけるデジタル通貨の現状」レポート、あずさ監査法人の金融事業部パートナーである関口智和氏による「デジタル通貨やトークンセールに関する規制の最新動向と会計論点」講演、KPMGコンサルティングの本橋由祐フィンテック・イノベーション マネジャーによる「リブラ(Libra)が与える影響」講演、及び講演者にテコテック代表取締役の釣崎宏氏を加えたパネルディスカッションなどが行われた。

文・写真:久保田大海
編集:濱田 優

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