なぜ今「デジタル通貨」なのか?──ソラミツ、GMO、ディーカレットの3氏が議論【btokyo membersイベントレポート】

なぜ今「デジタル通貨」なのか?──ソラミツ、GMO、ディーカレットの3氏が議論【btokyo membersイベントレポート】

カンボジアのバコンを手掛けるソラミツ・宮沢和正氏、日本円のステーブルコインGYENを手掛けるGMOインターネットの中村健太郎氏、PayPay立ち上げを経験したディーカレットCTOの白石陽介氏という注目の3氏がデジタル通貨のあり方や課題などについて議論するイベントが7月21日、オンラインで開催された。

この「なぜ今『デジタル通貨』なのか?―決済、CBDC、ステーブルコイン」は最先端DXを伝えるビジネスコミュニティ「btokyo members」によるオンラインイベントで、CoinDesk Japanはメディアパートナーを務めた。

なお本イベントの動画は会員登録の上で同サイトで無料視聴が可能だ。

デジタル通貨と従来のキャッシュレス決済の大きな違い

宮沢氏が冒頭、暗号資産(仮想通貨)とデジタル通貨の違いについて簡単に紹介。宮沢氏の説明では、仮想通貨は裏付け資産がなく価格が乱高下しがちで、主に投機に用いられてきた。一方、デジタル通貨には裏付け資産があり、価格は一定で支払い手段としての利用が主に考えられるという。

既存のキャッシュレス決済との違いを確認すると、既存のキャッシュレス決済は「口座型」、デジタル通貨は「トークン型」の運用となる。

具体的には、口座型では消費者から支払いを受けても、店舗側はすぐにそれを支払いに使うことはできない。1ヵ月ごとに中間事業者からキャッシュレス決済分の振込を受けて初めて、支払に使えるという仕組みだった。

これでは、売り上げがあってもそのお金が仕入に使えるまでにタイムラグが生じてしまう。加えて、複数の中間事業者が間に入ることによって発生する金銭的コストも、店舗側が負担しなければならない。

一方トークン型では、消費者が店舗で支払いをしたら、店舗側は受け取ったお金をすぐに支払いに使うことができる。ブロックチェーン技術に支えられるデジタル通貨は、データ改ざんや二重払いができない。そのため、デジタルデータそのものがお金と等しい価値を持つのだ。

中間業者が一切介在しないことから、時間的・金銭的コストを最小限に抑えられる――これが従来のキャッシュレス決済との大きな違いだ。

カンボジアでバコンが生まれた理由

宮沢氏率いるソラミツが立ち上げたバコンは、カンボジアの中央銀行デジタル通貨で、これによって、国全体の決済を簡素化・低コスト化することに成功した。宮沢氏によると、カンボジアでは現在、バコンを利用した送金・決済の手数料はすべて無料だという。手数料は、一人ひとりの利用者ではなく、中央銀行が一括して負担する。中央銀行としても、紙の紙幣を発行するコストが削減された分、手数料を負担してもこれまでよりコストは下がったという。

カンボジアでこのような取り組みが進んだ背景には、高いスマートフォンの普及率がある。カンボジアでは、1人2台持ちが当たり前で、日本よりも普及率が高い。

そのせいか、5年前にはすでにQRコード決済が流行し、互換性を持たない多くの決済サービスが登場したことで、国全体が混乱に包まれた。さらに決済サービスを提供する事業者が倒産すれば、消費者は保護されないという問題があった。これを受けて、政府がいち早く中央銀行デジタル通貨の発行に踏み切ったという経緯がある。

ソラミツはまた、日本でも会津若松市で地域通貨「白虎」の発行を手掛けている。これは日本初のデジタル地域通貨として注目された。

これについても、手数料を負担するのは自治体で、利用者が送金・決済する時の手数料は無料だ。白虎は地域商品券のような役割を持ち、利用を域内に制限することで、地産地消を促進する効果がある。

宮沢氏が指摘する「なぜ今デジタル通貨が注目されるのか」3つの理由

なぜ今、デジタル通貨なのか。その理由を宮沢氏は3つ挙げる。

1つ目は、新型コロナウイルスがもたらした社会のデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)だ。ECや宅配、非接触決済の需要が急速に高まった。また、政府は特別給付金の支給に苦労し、「デジタル通貨なら速やかに支給できたのではないか」という意見も聞かれた。

2つ目は、労働基準法の改正により、デジタル通貨による給与支払いが認められたことだ。これは金融機関による独占の構図が崩れる可能性を示唆している。

3つ目は、カンボジアのバコンや中国のデジタル人民元など、各国が中央銀行によるデジタル通貨の発行に向けて本格的に動いていることだ。日本でも、骨太の方針2020に発行の検討が盛り込まれ、日銀による実証実験がスタートしている。

宮沢氏は、これからの金融業界は、手数料ビジネスから新たなビジネスを創造するステージに移行すると考えている。

手数料は限りなくゼロに近づいていく――それはもはや、世の中の趨勢だ。デジタル通貨の発行によって得られる膨大なデータをもとに、証券や不動産、保険の小口化を進めるなど、新たなビジネスを創っていくことが、今の金融機関に求められる役割だ。

ステーブルコインの強みとGMOが見据える未来

GMOグループは2017年に暗号資産事業に参入した。マイニング・交換・決済という3つの軸を網羅するGMOグループの中で、決済を担うのがGYENのプロジェクトだ。金融事業の決済、店舗での決済、Eコマースでの決済など、すべてを対象としているという。

ステーブルコインとは、価格が法定通貨の価格と連動しており、1コイン(トークン)あたりいくらと固定されている。取引価格が変動しない暗号資産とも言える。暗号資産の課題であった価格が安定しないという点を解消しており、決済手段としての利用が期待されている。

同社がアメリカ・ニューヨークでの事業立ち上げを選んだ理由について、中村氏は、ニューヨークが早い段階から暗号資産領域に注力していたことを挙げた。

ニューヨークは、2015年から独自のライセンスを開始しており、規制当局も暗号資産に詳しく、指摘もなかなかに鋭いというが、中村氏は「保守的でありながらイノベーションを阻まないニューヨークのスタイルは、事業立ち上げという自社のステージに合っている」と語る。

価格の安定性を特徴として持つステーブルコインは、既存の金融インフラとは異なり、手数料が安く決済のスピードが速いことが特徴だ。そのため、決済・国際送金の新たな手段として注目されている。

ビットコインには大きな期待が寄せられ、可能性も大きいが、価格が安定せず、主に投機目的で使用されてきたという事実もある。それなら、1トークンあたりの価格が固定されているほうが決済に使いやすいのではないか?そんな発想がステーブルコインを生んだ。

大手企業グループとしていち早くステーブルコインの事業に取り組んだGMOインターネットは、ステーブルコインの透明性に重きを置いている。外部監査を毎月実施し、監査結果をWebサイト上で誰もが見られるように公開している。

さまざまな規制をクリアした後、GMOペイメントとの連携も検討しているという。日本ではまだ、ステーブルコインの取り扱いについては、十分な議論がなされていないが、中村氏は「ゆくゆくは日本でもサービス提供を開始したい」という構想を明かした。

デジタル通貨のメインバンク、そして経済圏をつなぐプラットフォームへ

白石氏がCTOを務めるディーカレットが目指すのは、デジタル通貨のメインバンクだ。特定の通貨の発行体になるというより、交換するプラットフォーム事業を創りだすことを目的としている。

なぜ今デジタル通貨なのかという本セッションの命題に対して、白石氏は2つの視点から語る。

1つ目はシステムの高度化だ。ビジネスのレイヤーがスマートコントラクトとブロックチェーンに移り変われば、プログラムと直接接続できるマネーへのニーズが高まると白石氏は見ているという。

2つ目は決済の時間的・金銭的コストが少なくて済むことだ。現在のキャッシュレス決済では、店舗側は売上がたってから中間事業者から入金されるまでのタイムラグに苦しんでいる。デジタル通貨は、この悩みをシンプルに解決してくれる存在だ。

現在、大手保険会社、メーカー企業、電力会社など多くの大手企業がディーカレットに関心を寄せているという。

デジタル通貨と相性がいいものの例──売電プラットフォーム

白石氏は一例として、売電プラットフォームとデジタル通貨の相性のよさについて語る。従来、電気は電力会社が提供するものだった。規制緩和で新しい電力会社が生まれているが、それでも一般の消費者にとって電気は供給を受けるもの、企業から買うものだ。

しかし売電プラットフォームが実現すれば、電気を売りたい人と買いたい人がそれぞれに取引を行えるようになる。

ただ問題もある。それは売買の履歴をどうやって証明するかだ。電気は目に見えないからこそ、確かに送った・受け取ったという証拠を残しておく必要がある。

こういった膨大なデータを正確に記録するのは、ブロックチェーン技術の得意とするところだ。ブロックチェーン技術を活用すれば、いつ誰が誰に対して電気を送ったか、受け取った側がきちんと決済したか、すべてを記録し証明することができる。こういったプラットフォームとデジタル通貨は非常に相性がいいといえるのだ。

白石氏は、多くのプラットフォームが登場するに従い、経済圏同士をつなぐ交換プラットフォームのニーズが高まると予測する。こういった異なるプラットフォームをつなぎ、相互に交換できるようにすることが、ディーカレットの目指すところだ。

デジタル通貨の2つの目的――利便性向上と地域還元という視点

ソラミツ宮沢氏はまた、デジタル通貨の利用には2つの目的があると指摘した。1つ目は、広く決済手段として普及させ、利便性向上をはかること。2つ目は、地域の消費を活性化し、還流させることだという。

さまざまなデジタル通貨が流通してもよいが、お互いに連携されていないとユーザーの使い勝手は良くないはずだ。

白石氏も宮沢氏の意見に賛同する。

消費者は、CBDC(中央銀行発行デジタル通貨)が1種類あれば、それでいいのでは?と考えるかもしれないが、現実的に、日銀が日本中にデジタル通貨をデリバリーしたり、デジタル通貨を管理するアプリを開発したりするのは困難だ。

それなら、デリバリーやアプリの開発は各ペイメント事業者が担いつつ、ペイメントを支えるインフラは共通化されているという状況が目指すべき地点なのではないだろうか。デジタル通貨は、その共通インフラを支え、仕組みをシンプルにする役割が期待されている。

デジタル通貨が支える共通インフラのうえで、サービスというレイヤーで各ペイメント事業者が自由競争をすればいい。それが消費者にとってもペイメント事業者にとっても、政府にとっても望ましいあり方ではないだろうか。白石氏は、第一線で活躍しながら、そんな未来の構想を描いているのだ。

日本のキャッシュレス行政の課題

宮沢氏は日本のキャッシュレス行政の課題として、協調領域と競争領域の切り分けができていなかったことを挙げた。たしかに共通インフラとなる協調領域を整備することが、より便利で暮らしやすい社会の実現には不可欠だ。

宮沢氏はまた、転々流通が可能なデジタル通貨は、地域に大きな経済効果をもたらすと語る。地産地消ニーズの高まりとともにデジタル通貨への注目度も高まってきている。白石氏も、デジタル通貨を使えば、「域内加盟店で使えば何%アップ」といったコントロールが比較的簡単にできると語る。

白石氏が指摘したステーブルコインとデジタル通貨の役割の違い

さらに白石氏は、ステーブルコインとデジタル通貨は異なるニーズに支えられていると話した。

ステーブルコインは、クロスボーダー取引で特に強みを発揮する一方、CBDC(中央銀行発行デジタル通貨)や地域通貨は、どちらも国や自治体に限定されるドミナントな世界。デジタル通貨とステーブルコインは、新たな時代にそれぞれの役割を果たす存在として期待されているのだ。

GMOの中村氏は、世界における円の需要について語った。FXでいえば、ドル/円は世界で2番目の取引量を誇るなど、意外と円の注目度は高い。不安定な為替相場にあっても比較的安全とされている円は、避難通貨(セーフヘイブン通貨)としても注目されている。

GMOインターネットが追求するのは、圧倒的な技術力だという。世界の仕組みが変わる時、それを実現するための技術を提供する。そのための足がかりが、GYENプロジェクトなのだ。

中村氏の構想では、いつでも瞬時にどんな通貨でも交換できる、そんなアプリケーションの存在。それが1つあれば、解決できることは多いだろう。だが実際には、デジタル通貨やブロックチェーンの扱い方が難しかったり、法整備や規制が追い付いていなかったりと課題も多い。

Facebookの「リブラ」構想は社会に何をもたらしたか

2019年、Facebookが「リブラ」構想を発表し、世界に大きな議論を巻き起こしたことは記憶に新しい。リブラ構想は、社会にどんな影響を与えたのだろうか。このテーマについても議論が交わされた。

(写真右上から時計回りに)中村、白石、宮沢、久保田の4氏

宮沢氏は、リブラが「ドルでもユーロでもない新しい通貨を作る」という当初の構想を捨ててしまったことを、残念に感じているという。Facebookは各国の当局と折り合いをつけながら、法律に合わせた通貨を作ろうとしているが、その時点で、ある意味CBDCと同じになってしまったと宮沢氏が見ている。

白石氏が問題の背景にあると考えるのは、リブラ構想以前から国家は国境を越えて活動するGAFAのような巨大企業への危機感を募らせていたことだ。国家が基本とするのは、法律に守られた範囲内での域内活動だ。それをやすやすと横断し、全世界にユーザーを持つFacebookが、国家を飛び越えて新しい通貨を作ると発表した。これに多くの国家が反発し、世界中でCBDCの議論が起きた。

そして中村氏は、CBDCに関する世界的な議論を巻き起こしたことがある意味Facebookの功績だと語る。国境を越えて影響力を持つ巨大企業だからこそ、一石を投じることができたといえるだろう。

白石氏はここで、国家は通貨を発行するだけでなく、市場のコントロールをしてきたことを指摘。各国に市場のコントロールは委ねた状態で、通貨の発行だけをFacebookが担うというのでは、反感を買って当然だ。もし、当初のリブラの構想を引き継ぐなら、既存の金融システムがなくても成り立つ仕組みを中長期的に確立しなければならないだろう。

デジタル通貨のB2Bニーズに着目すべき理由

デジタル通貨のB2Bニーズについても話し合われた。宮沢氏は、デジタル通貨は企業間決済で大きな役割を果たすと期待しているという。

従来のキャッシュレス決済は、店舗での支払いや個人間での送金というテーマで語られることが多かったが、これからは、世の中のすべての経済活動をデジタル通貨が置き換えていくと予想している。

たとえばB2Bでいうと、経費精算や給与支払いをデジタル通貨が担うことで、業務の効率化が実現する。宮沢氏はまた、デジタル通貨は価値情報の移転手段以上の可能性を秘めていると語る。デジタル通貨に金融EDIやXMLなど広範な情報を埋め込めば、情報を各社間で受け渡す媒体としても活用できるというのだ。

さらに、トランザクションの実績をかんがみて、融資審査を簡略化するといった実務面での効率化も考えられるだろう。

デジタル通貨では、ユーザーのデータを分析し、新たな事業を創造するという側面が注目されがちだ。しかしそれだけでなく、事業者間のデータを分析することで、業務効率化や融資の簡略化など、多くのメリットが社会全体にもたらされる可能性があると言えよう。

「デジタル通貨のクリエイティブな活用という視点が大事」

白石氏は、「デジタル通貨にかかわる人間が、デジタル通貨をどうやってクリエイティブに活用していくかという視点を社会に提供し続けることが大事だ」と語る。そこに価値を感じる人間が増えれば、自然と投資の価値が生まれ、進歩の速度は加速してゆくだろう。

デジタル通貨がもたらす社会の変革は、まだ始まったばかりだ。想像もつかないような便利な社会が実現するかもしれないし、逆に予想しえなかった弊害が生じるかもしれない。柔軟な発想で新しい技術とサービスの行く末を注視したいものだ。

本イベントの動画はbtokyo members会員登録の上で同サイトで無料視聴できる。

文:木崎 涼
編集:濱田 優
画像:btokyo members

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