EU暗号資産の規制案公表、リブラには苦境か──デジタルユーロ構想にも重要な変化

EU暗号資産の規制案公表、リブラには苦境か──デジタルユーロ構想にも重要な変化

欧州連合(EU)が公表したデジタル通貨の包括的な規制案は、暗号資産を電子マネートークン、資産参照トークン、ユーティリティートークンに分類。Libra (リブラ)も含まれる「電子マネートークン」には厳しい条件が課されるなど、労力とコストの負担が懸念されている。ただその一方で、暗号資産市場の安定性の向上や技術革新の推進といったメリットへの期待も高まっている。

暗号資産発行体に規制当局の承認取得などを義務付けた「MiCA」

EUの執行機関である欧州委員会が9月末に発表した包括的規制案「暗号資産市場に関する規制(MiCA, Regulation on Markets in Crypto Assets)」は、EU圏のデジタル金融システムを構造化するための規制案「Digital Finance Package」の一環だ。この「Digital Finance Package」は、具体的にはデジタル金融戦略や暗号資産を対象にした包括的フレームワークを通し、消費者・投資家の保護や金融市場の安定などを目的としている。

そこに含まれる「MiCA」は、暗号資産の発行事業体とサービスプロバイダーに明確な規制を示すことで、これまでグレーゾーンだった暗号市場の管理体制を強化するというものだ。全168ページにおよぶ提案書には、EU圏の暗号資産取引に関する法的規制事項が事細かに記載されている。

たとえばすべての暗号資産発行事業体に、事業に関する詳細やトークン、または取引プラットフォームに関する情報を詳述したホワイトペーパーの提出 と、EUの規制当局による承認の取得を義務づけている。

他にも資本要件(事業継続にあたり、一定水準以上の資本保有を要求する規則)や資産のカストディ(管理・保管)、問題が生じた際に投資家が強制的に苦情申請を行える権利、発行者に対する投資家の権利に関する項目など、消費者保護を重視する規制案を含んでいる。

MiCAが暗号資産の発行体に求める主な内容

・発行前の当局からの承認
・EU内に拠点
・事業詳細、トークン、プラットフォームに関して説明したホワイトペーパーの提出
・一定水準以上の資本保有
・資産管理体制の遵守
・投資家に苦情申請が行えるようにすること
ほか

暗号資産を3つのに分類

規制案では「基準」を明確にするために、既存の暗号資産を次の3つに分類。リスク度によって、異なる規制レベルを設けている。

1 電子マネートークン(Electronic Money Token)──法定通貨とペッグされ通貨の代用として使用

主に通貨の代用として使用される。法定通貨に裏付けされたステーブルコインのように、法定通貨の価値とペッグすることで、安定した価値を維持することを目的とする。(例:Tether・USD Coin・Libra)

2 資産参照トークン(Asset-Referenced Token)──複数の法定通貨などにペッグされたステーブルコイン

複数の法定通貨、あるいは単体・複数のコモディティや暗号資産の価値で裏付けされたステーブルコイン。これらの資産を組み合わせてペッグする場合もある。例:DAI・Money on Chain

3 ユーティリティー・トークン(Utility Token)──サービス利用のためのトークン

商品またはサービスへのデジタルアクセスを提供することが目的。分散型台帳技術(DLT)技術を用いたシステム上で発行・管理され、そのトークンの発行者によってのみ受け入れられる。例:Golem・OKECOIN (OKE)

Libraには逆境? 電子マネートークンが最も厳しく規制される理由

国際的に知名度の高いステーブルコインの発行者は、より厳しい条件(資本、投資家の権利、監督など)の対象となる。最も厳格な規制が課せられるのは、従来の電子マネーやマイナーな電子マネートークンより、“財務の安定性に大きなリスクをもたらす可能性がある ”電子マネートークン だ。

9月に草案を入手した欧州のメディアEURACTIVは、Libraの発行元であるLibra Association(リブラ・アソシエーション)など「市場に大きな影響をあたえる電子マネートークン」の発行事業体には、クレジット機関または電子マネー機関のライセンス取得義務が生じるほか、欧州銀行監督局(EBA)と本拠地の金融当局の両方の厳格な監視下に置かれると指摘している。

違反行為に対する罰金は資産参照トークンのほうが厳しく、資産参照トークンの発行事業体には年間売上高の最大15%、電子マネートークン の発行事業体には最大5%、あるいは両者ともに違反行為から得られた・損失を免れた金額の2倍相当の罰金が課せられる。

ドイツのシンクタンクFrankfurt School Blockchain Centerの責任者フィリップ・サンドナー氏は規制のハードルの高さを考慮し、「特にステーブルコイン関連のスタートアップにとって、厳しい時期になる」との見解を示している(フォーブスの報道による)。

EUP、暗号資産犯罪の補償基金案を却下

「MiCA」はおおむねポジティブな進歩として受けとめられているが、すべての領域をカバーできているわけではない。

一例を挙げると、ポンジースキームやハッキングといった暗号資産犯罪に対する補償基金の設立を求める嘆願書を、EUの行政執行機関である欧州連合議会(EUP)が却下した件がある。

Bitcoin.comが10月21日に報じたところでは、嘆願書は被害者らで構成されるコンソーシアムが提出したもの。EU圏内の暗号資産取引に1ユーロにつき0.0001ドルを徴収することで、基金設立に充てるとの提案がなされたという。

ところが欧州委員会は、「暗号資産犯罪は国内の法執行機関や既存のルートを通して追及されるべき」であり、「意図的な暴力犯罪にはEUの補償規制が適用される可能性がある」との理由で嘆願書を却下した。

欧州委員会は「本格的な規制の導入が市場の健全性につながる」と考えているのだろうが、現時点では暗号資産は保険や補償の対象外であるため、補償基金は消費者や投資家にとっての救済策にもなり得るのではないか。この件は議論が続きそうだ。

「現金の補助的な役割を果たす」(ラガルドECB総裁)デジタルユーロ構想は実現するか

EUが規制強化に本腰を入れている背景に、「デジタルユーロ構想」があることは間違いない。

最新の動向として、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行をめぐる世論調査の実施が挙げられる。実現すると既存の金融・決済システムからビジネス、消費者の生活まで広範囲な影響が想定されるため、専用のオンラインサイトでユーロ圏の消費者の声を募っている。クリスティーヌ・ラガルドECB総裁も「(デジタルユーロは)現金の補助的役割を果たす」と述べている。

欧州では、新型コロナが拡大した2月からロックダウンが緩和された6月にわたり、eコマースの取引量と売上高が約25%増えた。これを受けてラガルド総裁は「デジタル決済への信頼ははるかに高まっており、大きな変化が起こっている」との見解を示した。

政府による暗号資産市場への介入やデジタル通貨の発行に否定的な見方もある。だが、推進派とて、暗号資産の広範囲な普及に規制環境の整備が欠かせないことは理解している。

今回公表された包括的な規制を、ドイツのシンクタンクFrankfurt School Blockchain Centerの責任者フィリップ・サンドナー氏のように、「暗号資産を既存の金融商品と同じレベル押し上げるチャンス」とポジティブに受けとめるべきかもしれない。

文:アレン琴子
編集:濱田 優
画像:symbiot, Alexandros Michailidis, Andreas Prott / Shutterstock.com

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