ビットコイン急落の理由──欧米での売却、アジアのレバレッジ取引、バイデン新政権

ビットコインは21日午前中に再び値を下げ、ヨーロッパとアメリカの取引時間中に3万1000ドル付近まで下落。投資家は短期的な利益確定に走った。

日本時間22日11時40分時点では3万600ドル付近、24時間で約11%、値を下げた。

欧米での大規模な売り

韓国のデータサイト「クリプトクワント(CryptoQuant)」によると、アメリカとヨーロッパにおける売りの深刻さを示す1つの指標は、コインベース(Coinbase)のビットコイン/米ドル(BTC/USD)ペアと、バイナンス(Binance)のビットコイン/テザー(BTC/USDT)ペアの差、いわゆる「コインベース・プレミアム」だ。

コインベース・プレミアムは21日4時17分(米東部時間=協定世界時9時17分)に、マイナス212.79ドルまで下落した。

コインベース・プレミアム
出典:CryptoQuant

「テザーとの小幅な価格差から、コインベースでは自ずと20ベーシスポイント(1ベーシスポイント:1万分の1)ほどバイナンスよりも高く取引されるはず。つまり、より低い価格で取引されている場合は、本当にきわめて弱気な状態を意味する」と、クリプトクワントのキ・ヨン・ジュ(Ki Young Ju)CEOはCoinDeskの取材で答えた。

テザー(USDT)は、暗号資産(仮想通貨)業界で最大のステーブルコイン。裏づけとなっている米ドルと完全に同額ではないが、近い価格で取引されるテザーは、バイナンスやアジアの取引所の顧客にとって、ビットコインを取引するための人気の手段となっている。

アジアとアメリカの取引

コインベース・プレミアムは21日、アジアの取引時間中に大幅なマイナスとなったが、これはアメリカのトレーダーが今回の反落に関係していないという意味ではない。

「アメリカのトレーダーは、アジアでの安値を見込んで取引しようとしている」と、暗号資産分析企業トレードブロック(TradeBlock)のジョン・トダロ(John Todaro)氏は話す。「プレミアムが下落した時間によっては、アメリカのトレーダーはそれを見越して売却したことを示す可能性がある」

アナリストやトレーダーによると、今回のビットコイン下落の要因は複数あるという。つまり、特にアジアにおけるレバレッジの巻き戻し、市場に参入する買い手が枯渇しているという懸念、新しいバイデン政権の暗号資産政策についての不透明感などだ。

「機関投資家の売却もある程度はあったが、大規模なものではなかった」と、スイス・ジュネーブに拠点を置くスイスクオート銀行(Swissquote bank)のクリス・トーマス(Chris Thomas)氏はコメントした。「引き金は、アジアの取引時間の遅い時間帯でのレバレッジされたポジション。レバレッジされているため、市場を大きく動かす」

主要デリバティブ取引所でのレバレッジ
出典:coinalyze

テクニカル分析

テクニカル分析では、市場は12月11日からの上昇トレンドを崩し、2万9000ドル〜3万ドルの範囲で新しい支持線を探しているとトレーダーは語った。

12月1日〜1月21日の価格推移
出典 : CoinDesk 20

「さらにその下の支持線は、61.8%フィボナッチリトレースメントの2万6700ドル」と、投資会社テルリアン(Tellurian)のパートナー、ジーン-マルク・ボネファス(Jean-Marc Bonnefous)氏は説明する。

「ただし、待ち望まれた下落局面で買うと期待されていた新しい投資家の資金が入ってこなかった場合の話だ」

フィボナッチリトレースメント:中世イタリアの数学者フィボナッチが考案したフィボナッチ数列を応用したテクニカル分析手法の一つ。ある期間の最高値・最安値の価格差から、支持線や抵抗線を割り出す。

ボネファス氏によると、ビットコイン市場に参入する伝統的な投資家やトレーダーの数がこの数カ月で増加したことにより、値動きはよりテクニカル主導になっている。それ以前は、主にビットコインの需要と供給に影響されていたと同氏は指摘した。

ビットコイン価格は、時間足チャートで10時間移動平均と50時間移動平均を下回り、短期的な弱気サインを示している。

ビットスタンプ(Bitstamp)での価格推移
出典:TradingView

バイデン新政権と市場の不透明感

ヘッジファンドをはじめとする複数の機関投資家は、市場の不透明感を利益確定の口実として使っている可能性があるとトダロ氏は言う。アメリカやヨーロッパの伝統的金融プレイヤーの多くは、ビットコインが急激に上昇する前に市場に参入しており、現在の価格を考慮すると、高い利益を得られる水準にあるだろう。

だが一部の潜在的投資家は、バイデン政権がビットコインや暗号資産について、どのような政策を展開するのかがわからず、不安を感じているのかもしれない。

「売りのタイミングと、(その売りが)コインベースなどのアメリカの取引所で孤立して起きたことを考えると、バイデン政権の成立に伴う地政学的側面も示している可能性がある」とトダロ氏は指摘した。

「バイデン大統領が次期財務長官にジャネット・イエレン(Janet Yellen)氏を指名したことは、『含み益に対する課税』の提案の可能性を浮上させた。これは暗号資産投資家と、あらゆる資産の投資家に影響を与えるもので、売りにつながったのかもしれない」

|翻訳:山口晶子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:バイデン米大統領(Shutterstock)
|原文:Bitcoin Slumps to $31K on Sell-Off in US and Europe