仮想通貨取引所の危機対応、4つのポイント──バイナンスCEOが告白するハッキング“事件”の一部始終

5月上旬、ハッキングにより約7,000ビットコイン(約61億円:5月21日現在)が喪失する事態に見舞われた仮想通貨取引所のバイナンス。通称「CZ」で知られる同社CEO(最高経営責任者)のジャオ・チャンポン(Zhao Changpeng)氏は、その一部始終を告白。仮想通貨を取りまく市場を進化させる上で、CZは取引所の運営者が知るべき4つのレッスンを共有した。

世界中で頻発する仮想通貨取引所をターゲットにしたハッカー集団による不正行為は、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ支援国家への資金流入に発展する可能性があり、国際機関や各国の規制・捜査当局が問題視している。CZが5月20日にブログで公開した告白内容は、取引所を運営する企業が今後、事業を続けていく上でのヒントになるかもしれない。

最初のリアクションは「F***!」

「僕の最初のリアクションは『なんて事だ!(F***!)』」だったと、CZはハッキング被害を確認した瞬間をブログで告白。「これから何をすればいい?多くの人が僕を待っている。手順を待つ人たち、情報を待つ人たち、保障を待つ人たち……。さあ、とりかかろう」と当時の状況を説明した。

CZがバイナンスのメンバーと被害状況などの確認を行う前に、メンバーたちはすでに取引所を守るための追加セキュリティー対策を講じたり、あらゆる対策の可能性の議論を始めたという。

「以前にも見たことがある戦争モードだった。幸運にも僕たちのチームは、強いプレッシャーの中で対応することに慣れている」とCZは言う。

7,000BTC。被害額を暗算すると同時に、CZはバイナンスがその額を上回る規模の資産プールを保有していることを再認識する。バイナンスはハッキングの被害で喪失した全額を、「SAFUファンド」と呼ばれる資金プールを利用して補てんすることを即時決定した。

差し伸べられた支援

今回のハッキング被害が明らかになると、仮想通貨を取りまくコミュニティーの多くの参加者らがバイナンスに対する支援を行なったと、CZは話す。直面する問題を対処するために解かなければいけない難問が存在した。

「多くの支援者たちは、フェイスブック(Facebook)、ツイッター(Twitter)、テレグラム(Telegram)を通じて、懸命に僕たちを助けようとしてくれた」

バイナンスを支援した関係者の中には、他の仮想通貨取引所やウォレットサービス企業の従事者もいた。競合企業を含めたコミュニティー全体が団結してくれたことに感動したと、CZは述べている。

一方、支援者を装う営業目的の電話も多くあったという。バイナンスのシステムの一部がダウンしている中、「(バイナンスの)サーバーにフルアクセスさせてくれれば、(今回のハッキングに関する)分析の手助けをするという提案も頂いたが、もちろん僕たちは丁重にお断りした」とCZ。

CZがまとめた4つのレッスン

長期的に見ると、今回のハッキングはバイナンスに多くの利点ももたらしたと、CZは語る。

「セキュリティーは終わりのない仕事であり、完全はなく、常に向上させるもの。バイナンスは数週間で多くの安全強化策を講じた。そして、将来的に他の多くの策を講じ、セキュリティーの向上を続けていく」

CZはブログの中で今回の事態から学んだいくつかのことをつづった。

  • 学び1:危機のとき、最重要なのは透明なコミュニケーションをコンスタントに行うこと!
  • 学び2:危機のとき、ライブビデオのストリーミングを使え!何が起きたかだけだなく、ユーザーは企業が危機対応のために何をしているかを知る必要がある。企業側の心理状態をユーザーに判断してもらうことを含めて、ユーザーに伝えるべきだ。
  • 学び3:透明性を保て!透明性は他者の支援を導きやすくする。
  • 学び4:お金は後で稼げばよい!まずは正しいことをしよう。

文・佐藤茂
編集:浦上早苗
写真:Shutterstock