リップル共同創業者の提案に疑問の声:「ビットコインをグリーンに」

大胆さの証とでも呼ぼうか。

苦境に立たされている暗号資産決済企業リップルの共同創業者クリス・ラーセン(Chris Larsen)氏は、個人資産の500万ドルを、ビットコイン(BTC)を環境に優しいものにするためのキャンペーンに捧げた。

ラーセン氏は来月、環境NGOグリーンピースやその他の組織と共同で、ビットコイナーに「Change the Code, not the Climate(気候ではなく、コードを変えよう」と呼びかける一連の広告を展開する。

ブルームバーグの報道によると、ビットコインコミュニティに圧力をかけ、エネルギー消費の大きいプルーフ・オブ・ワーク(PoW)マイニングから、エネルギー消費のはるかに小さいプルーフ・オブ・ステーク(PoS)システムへのシフトを図らせようとするのが目標だ。

ラーセン氏の提案は一見すると、説得力がある。PoWマイニングが環境に与えるダメージは、ビットコインが抱える最も実質的な欠点であり、暗号資産(仮想通貨)全般に対する人々のイメージにも逆風となり続けている。例えば、環境負荷にまつわる議論は、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)に対して、アートの世界において時に見当外れの敵意を生み出すのを助長しているのだ。

しかし、暗号資産業界のリーダーや関係者たちは、ラーセン氏の取り組みに不信と疑いの目を向けている。その一因は、ラーセン氏の目指すところがどれほど心温まるものであったとしても、それが勧めるところは、極めてリスクが高く、完全に非現実的、そしておそらくバカげてさえいるからだ。

さらに重要なことに、ラーセン氏が提案を行なっている動機が、極めて疑わしいのだ。リップルの共同創業者としてラーセン氏は過去10年、ビットコインと競争してきたのだから。

極めて大きなリスク

ラーセン氏の提案が抱える最初の問題は、ビットコインをプルーフ・オブ・ステークへと移行させることには、大きなリスクが伴う点だ。このシフトは非常に根本的なものであり、ネットワークメンバーの一部が、別のネットワークへと分岐する「ハードフォーク」ではおそらく実行できないのだ。

ハードフォークはこれまでにも、ビットコインの別バージョンを作るのに使われており、2017年のビットコインキャッシュの分離がその一例だ。

しかし、ビットコインキャッシュや同様のフォークは、ブロックサイズなど、PoWシステム内ですでに規定されている技術的パラメーターを変えただけだ。PoSシステムは、根本的に異なるセキュリティアーキテクチャ上で運用されるもので、PoSへのシフトには、既存のパラメーターを変えるのではなく、徹底的な再設計が伴うだろう。

単なる「フォーク」というよりは、既存のウォレット残高を「ビットコイン」と名のつく新しいネットワークに移行するような、はるかに複雑な作業が伴うはずだ。

イーサリアムのPoWからPoSへの移行が、参考になる。イーサリアム2.0は、現行のイーサリアムチェーンから直接延長されるものではなく、新システムへの慎重に管理された移行だ。新システムに向けた「ビーコンチェーン」は、イーサリアム1.0と並行して何年も運用されており、イーサリアム関連企業と開発者たちの強力な中核グループが、その2つの統合を慎重に管理している。

ビットコインの場合、そのような移行を管理する、団結して影響力のあるグループが生まれてくる可能性はほとんどない。その理由の1つは、PoSのセキュリティそのものに対する根強い不信感だ。

「プルーフ・オブ・ステークは安全性が劣るだけでなく、まったく無意味で危険だ」と、ビットコインファンのGigiはツイート。「PoW無しでは、どんなシステムも政治的になり、紛争解決を選ばれた集団に任せることになる」と指摘した。

さらにビットコインエコシステム内の多くの人々は、大きなネットワークの変化が検討されると激しくぶつかり合うような利害や思惑を抱えている。例えば、PoWマイニング向けにASICと呼ばれる専用チップに多額の資金を費やしたビットコインマイナーは、PoSへの移行を支持する可能性は非常に低い。

さらに、CoinDeskのノエル・アチェソン元記者が指摘する通り、ビットコインを新しいモデルに移行するには、すべてのマイナーを説得して、PoWチェーンを拡張するのをやめてもらうことが必要だ。そうなると、世界中の取引所を説得して、PoWチェーンからのトークン取引を止めてもらう必要があるが、それはほぼ不可能に近い。

「彼ら(ラーセン氏やグリーンピースなど)は、次のことを理解していないようだ。ビットコインへの変更はフォークを伴うが、それはつまり、元祖ビットコインは存続し、多く(=大半)の人々はプルーフ・オブ・ワークのセキュリティと、変化へのレジリエンスを理由に、元祖ビットコインを選ぶことを意味する。

激しい反発

このような現実を考えると、ラーセン氏の提案が、ビットコイナーからの反対だけでなく、声高でしばしば極めて個人的な拒絶に直面している理由を理解できるかもしれない。

ツイッターやフェイスブック同様、ビットコインはネットワーク効果に大いに依存している。より多くの人が使えば使うほど、より有用性が高まるのだ。ラーセン氏の提案は、すべてのビットコイナーを新しいプルーフ・オブ・ステークシステムに移行するように説得する可能性はゼロかもしれないが、一部の人たちの意見を動かす可能性はあり、ネットワークそのものではなくてもコミュニティ内に「フォーク」を引き起こすかもしれない。

そのような分断は、ビットコインを弱める可能性があり、ラーセン氏の経歴が、今回のキャンペーンの真の意図について、厳しい憶測を呼んだようだ。

リップルはここ10年で、共同創業者たちが生み出したXRPトークンがビットコインよりも優れているとしばしば主張しており、銀行間送金システムを作り出す計画がほとんど成功していないにも関わらず、13億ドル相当以上のXRPトークンが販売された。

このトークン販売をめぐって、リップルは米証券取引所(SEC)と大規模な戦いを続けており、多くのビットコイナーは、ビットコインに対して本質的かつ深く敵対的な姿勢を持つと多くの人が見ているリップル社とラーセン氏に対し、敵意を持ち続けている。

暗号資産データ提供を手がけるメッサーリ(Messari)の創業者ライアン・セルキス(Ryan Selkis)氏は、ラーセン氏のキャンペーンのニュースに対し、「リップル幹部はクズだ」と宣言した。

ベンチャーキャピタル企業キャッスル・アイランド・ベンチャーズ(Castle Island Ventures)のマット・ウォルシュ氏は29日、ラーセン氏が「個人投資家に対して、ハンドスピナーみたいな未登録証券を売りつけて数十億ドルを儲け、その収益を使って、本物の起業家に対して、ビットコイン事業についての説教を垂れている」と示唆した。(リップルのロゴは、人気玩具のハンドスピナーに似ている)

「アメリカ…個人投資家に対して、ハンドスピナーみたいな未登録証券を売りつけて数十億ドルを儲け、その収益を使って、本物の起業家に対して、ビットコイン事業について説教を垂れることのできる世界唯一の国だ」

ラーセン氏はブルームバーグに対して、「競合としてビットコインのことを恐れているとしたら、今のままの道を進み続けさせるのが私にとって最善の策だ。(中略)それは、持続可能ではない道なのだ」と語った。

ビットコインとエネルギー消費をめぐる議論はいまだに白熱したもので、ラーセン氏の警告が、正しいと証明されるかもしれない。しかしラーセン氏は明らかに、その警告を伝えるのに適した使者ではないだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Chris Larsen’s Plan to Greenify Bitcoin: Risky, Impractical and Maybe Nonsensical