ウクライナ戦争で高まる反グローバル化の波、ビットコイン相場はどう動く

ロシア・ウクライナ戦争によって、「ディグローバリゼーション(反グローバル化)」というコンセプトが、経済や地政学に関する議論の中に入り込んできた。暗号資産(仮想通貨)アナリストたちは、このトレンドが究極的には、ビットコイン(BTC)市場にも大きな影響をもたらすかもしれないとみている。

1991年のソビエト崩壊以降に築かれた、相互につながったシステムの崩壊は、貿易ルートやサブライチェーンの断片化への回帰につながる可能性がある。そうなると、特定のコモディティや製品は地域ごとに値段が上がり、アメリカのインフレ率がすでに40年ぶりの高水準となっている時に、さらに物価が上げるかもしれないと、エコノミストらは語っている。

一部の投資家は、ビットコインをインフレヘッジとみており、トレーダーたちはディグローバリゼーションを、ビットコインに投資する新たな理由と考えるかもしれない。

ディグローバリゼーションとは何か?

ここ数十年、グローバリゼーションに向けたトレンドによって、政府や企業は自由貿易や、労働のさらなるオフショア化を推奨してきた。ここで重要な経済原則は「比較優位」というもので、ある国家は、貿易相手国よりも安価にモノやサービスを生産できる可能性がある、という考えだ。

その結果、人々はより安価な輸入品を享受してきた。

しかし、最近ではそのトレンドは逆転したように見え、ディグローバリゼーションの新しい時代の到来を予測する評論家もいる。このトレンドは、米中の貿易戦争が勃発した数年前に始まり、新型コロナウイルスのパンデミックによって加速。そして、ロシア・ウクライナ戦争によって、新たなレベルに達している。

グローバルサプライチェーンは混乱し、輸出が妨げられているケースもある。そして現在、経済制裁によって、ロシアは米ドルが支配するグローバル決済システムから分断されている。

「ロシアの侵攻によって、ウクライナとロシアからの輸出、とりわけエネルギー、食料、肥料をはじめとするコモディティの輸出が縮小するため、グローバル経済に直接的影響が生じる」と、イエレン米財務長官は13日に発言。「ロシアがウクライナへの侵攻を決定した時、グローバル金融システムからの退出が運命づけられたのだ。ロシアの指導者たちは、私たちが厳しい制裁を課すことは分かっていたはずだ」

ディグローバリゼーションの経済的影響

モノやコモディティの国際的取引がさらに妨げられるに伴って、最終生産物の価格が上昇し、インフレが加速するかもしれない。

「ロシアによるウクライナ侵攻は、石油、天然ガス、小麦、ニッケル、ネオン、その他あらゆるモノの不足を引き起こしている」と、元ニューヨーク連邦準備銀行リサーチャーで、現在はコーネル大学でシニア経済アドバイザーを務めるエリカ・グロシェン(Erica Groshen)氏は指摘する。

「そのような不足は、値上がりにつながるが、同時に私たちはパンデミックに起因する供給の問題も抱えている」と続けた。

ディグローバリゼーションはまた、不透明感も生み出し、それが経済活動を抑圧する効果を持つと、グロシェン氏は述べる。

利上げと、バランスシートの縮小も視野に入れてインフレに対処するという、米連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派の姿勢にも関わらず、物価の上昇がすぐに収まることはないだろう。

「長期的なインフレの力が増大している」と、ウォール・ストリート・ジャーナル誌のコラムニスト、ジェームズ・マッキントッシュ(James Mackintosh)氏は、昨年の5月に指摘していた。

断片化の高まりによって、グローバルコマースにおける米ドルの支配的立場も揺らぐ可能性がある。

「そのような状況でも、米ドルは主要グローバル通貨の地位を維持するが、より小さなレベルでの断片化は、間違いなくあり得ることだ」と、IMF(国際通貨基金)のギタ・ゴピナス(Gita Gopinath)氏は言う。「すでに、貿易で受け取る通貨を再交渉する国も出てきている」

ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、キャサリン・タイ米通商代表は3月30日、アメリカは国内製造産業の再建と、「非友好的な」経済圏との結びつきの縮小へと、重点をシフトしなければならないと語った。そのようなコストは、短期的には国内で高くつくものとなるはずだ。

「(パンデミックの)2年間とロシアによるウクライナ侵攻を経て、現在私たちが直面している問題は、私たちが今生きているグローバリゼーションのバージョンは、私たちがより安全に感じられる場所へと連れてきてはくれなかった、ということだ」とタイ氏は話す。

「サプライチェーンや、依存することを快く感じられないようなパートナーへの依存という点で、私たちはますます不安を感じているのだ」(タイ氏)

世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)の創業者ラリー・フィンク(Larry Fink)氏は、投資家に向けた書簡の中で、次のように述べている。「ロシアのエネルギーへの依存が注目されているが、企業や政府は、他の国への依存をより広範に見つめ直しているのだ」

「そうなると企業は、事業をオンショア化、あるいはニアショア化し、一部の国家からの撤退がさらに加速するかもしれない」とフィンク氏は指摘し、「大規模なサプライチェーンの方向転換は、本質的にインフレを誘発するものだ」と続けた。

ビットコイン価格への影響

多くのアナリストは、ビットコインが金(ゴールド)のようにインフレヘッジとして機能することができると語る。そうなると、現在のインフレ経済環境は、ビットコインにとって試験場となる。

物価の上昇、逆に言えば、ドルの購買力の低下は、ビットコインの魅力を高める可能性がある。ビットコインの供給には上限が設定されているからだ。FRBはいつでも紙幣を増刷できるため、ビットコインはドルよりも「一段とハード」な通貨だと主張する投資家もいる。

一方で、FRBは金融引き締め政策によってインフレを抑え込もうとする可能性もあり、そうなると経済成長が妨げられ、株価にも下方圧力がかかるもしれない。ビットコインは最近、いつになく株式と並行した値動きを見せているのだ。

アメリカで、今と同じくらい高いインフレが最後に見られたのは、1980年代前半。ボルカー議長率いる当時のFRBは、政策金利を20%にまで引き上げた。

「インフレ環境でビットコインがどのように値動きするのかは、まだ試されたことがない」と、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのブロックチェーンテクノロジーリサーチャー、ガリック・ハイルマン(Garrick Hileman)氏は指摘し、次のように続けた。

「ゴールドのように、振り返って参照できる何千年もの歴史はビットコインにはない。ビットコインが、このような広範なインフレサイクルを経験するのは、今回が初めてなのだ」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What Would Deglobalization Mean for Bitcoin’s Price?