強まる反グローバル化、増す暗号資産の役割【コラム】

まったく異なるが、密接に関連する2つのニュースが飛び込んできた。プーチン大統領は、ウクライナの4つの州をロシアが併合すると発表。激しい戦争が続いていることを、改めて痛感させられた。

一方、アメリカのフロリダ州は、ハリケーン「イアン」によって壊滅的な打撃を受けた。ハリケーンの被害を受けやすい同州でも、前例のないほどの被害となっている。

一段と鮮明になる変化の必要性

これら2つの出来事はそれぞれに異なる形で、人間社会の基本的なインフラを、より堅固で、国境を超え、個々に対応した流動的なものへと変えていく必要性を浮かび上がらせている。それには、独裁的な指導者によって断絶されたり、自然災害によって破壊されない金融ネットワークの必要性も含まれる。

これらの点は、2009年にビットコインプロジェクトが立ち上がったときには、今ほどはっきりとはしていなかったかもしれない。ロシアはまだ、欧米スタイルの自由化への道を歩んでいたし、全体としても、民主的政治や市場経済が、世界のスタンダードになるという雰囲気があった。

2006年のハリケーン「カトリーナ」などによってすでに、気候変動の影響に対する警告は十分に与えられていたが、多くの人はまだ、現実から目を背けていた。

特にアメリカ人は、フランシス・フクヤマの言う『歴史の終わり』の資本主義的ユートピアに暮らしているか、トーマス・フリードマンの『フラット化する世界』に暮らしていると考えていたのだ。

プーチン大統領の武力行使の結果がどうなるにしても、ロシアで事業を営む個人は、決済、輸送、移動などの国際物流システムへのアクセスが、はるかに厳しくなるだろう。これらのシステムはここ半世紀で、かなりオープンなものになってきたが、国家レベルではまだまだ、ネックがある。例えば、国境を超えて銀行を結ぶネットワークSWIFTは、少なくとも7つのロシアの銀行を排除した。

気候変動が原因と思われる大規模な自然災害の頻発も、似たような破壊的影響を持つ。フロリダもひどい状況だが、洪水で約1500人が死亡したパキスタンではさらに厳しい事態となっている。

気候変動の影響に脆弱な地域では、最も基本的なインフラさえも、一撃で壊滅させられてしまうのだ。気候変動の影響を受けやすい地域からの難民の流入により、政治的な分断も悪化することが見込まれる。

もちろん、フリードマンが完全に間違っていた訳ではない。私たちは20年前に比べて、はるかに効果的に長距離をまたいでコミュニケーションできるという点では、世界は確かに「フラット化」した。しかし、多くの場合、そのことは次々に起こる悲劇を、より理解しやすくするだけである。

例えば、グローバル化したコミュニケーションによって、ロシアの指導陣と国民の間の断絶は、はるかに目に見えるものなっている。膨大な数のロシア人が、プーチン大統領と彼が象徴するあらゆるものを忌み嫌っているが、自分達ではどうすることもできない力によって、国際コミュニティから消滅させられてしまうリスクにさらされているのだ。

分断を超えて

政治面での不安定さと環境面での不安定さは、ますます認識の高まっている「ディグローバリゼーション(反グローバル化)」というプロセスの2つの側面である。

20世紀が経済統合と、共通の人間性という認識の拡大の世紀だったとしたら、21世紀は、異なる人々が隔たりを超えて互いのTikTokを見ているにも関わらず、差異や国境が再び強調される世紀となろうとしている。基本的な経済学が分かれば、このような分断は、直接影響を受けない人も含めて、私たち皆をより貧しくすることは明白だ。

ブロックチェーンや暗号資産ネットワークは、このような体系的危機の高まりに対する答えだと主張することは、トーマス・フリードマン級の尊大さを露呈することになる。

ブロックチェーンや暗号資産は、SWIFTからの断絶などにも関わらず個人が取引できる方法を提供する。銀行預金が保管されている建物がハリケーンに襲われても覆されない金融記録の形態をもたらしてくれるのは確かだ。しかし、不安定な地域でのインターネットアクセスの脆弱性といった基本的な制約も数多く抱えている。

しかし、ブロックチェーンと暗号資産は少なくとも、システムが反グローバル化の力に抗い、それを超越するための、革新的で刺激的なモデルを提供してくれる。脆弱な政治的信頼に頼ることなく、国境を超えてサービスを提供するための、技術的手段なのだ。

真に検閲耐性を持ち、分散化されたシステムは、単独のポイントを通じて政治的に攻撃を受けることはない。現在抱える深刻な限界にも関わらず、イラン、ケニヤ、アルゼンチンなど、幅広くの場所でこれらのツールの魅力がすでに発揮されている。

世界共通の金融インフラの台頭は、国際情勢がますます分断化されても続いていく。なぜなら、その必要性が増すからだ。

ここ10年の暗号資産投機の盛り上がりによって、陰では犯罪者や無能な新参者が、私腹を肥やすための誤った方向にナラティブを導いてきた。しかし、冒頭の2つのニュースは、ブロックチェーンや暗号資産を正しく活用することが、どれほど大切かを思い知らせてくれる。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Deglobalization Is Happening. Crypto Is Part of the Answer