イギリスがUSDTを法定通貨にすることはない【コラム】

イギリスがUSDTを法定通貨にすることはない【コラム】

最近の暗号資産暴落のニュースに続いて、イギリス政府がステーブルコインを「合法化」するというニュースが届いた。

ツイッターの世界の暗号資産(仮想通貨)支持者たちはこのニュースを、主要のドル連動ステーブルコインであるテザー(USDT)とUSDコイン(USDC)がイギリスで法定通貨になる、という意味で捉えたようだ。

「(暗号資産起業家の)カイル・シャッセ氏: 
速報:イギリスがUSDTとUSDCを法定通貨として認める」

しかし、ステーブルコインは、法定通貨にならなくても支払いに使える。「合法化」される必要すらないのだ。イギリスにいる人がUSDC、USDT、アルゴリズム型ステーブルコインを含むその他のどんなステーブルコインを使うことも合法であり、多くの人が実際に使っている。

現在、ステーブルコインはメインストリームの決済システムではなく、暗号資産取引所のみで使われている。しかし、メインストリーム決済に使うために、法定通貨にする必要はない。

イギリスには、高速で安価、包括的な電子決済システムが存在しており、そこでは銀行が玄関口となっている。イギリスにおける大半の決済がこのシステムを利用しており、ペイパルといった新しいテクノロジーも、多くの個人的支払いで使うことができる。

これらの決済には、法定通貨は関わっていない。デビットカード、クレジットカード、銀行振込、小切手、モバイルマネー、ペイパル。この中に、イギリスにおいて法定通貨であるものはひとつもない。

イギリスと法定通貨

イングランドでは、紙幣と硬貨のみが法定通貨であり、額面の小さなコインは、20ペンス(約32円)までが法定通貨として認められている。スコットランドでは、硬貨のみが法定通貨だ。

業者は法定通貨を受け入れる義務はない。イングランドでは、50ポンド札は法定通貨だが、それでバスの運賃を支払おうとすれば、自転車に乗れとでも言われてしまうだろう。しかし、非接触型のデビットカードでは支払うことができ、こちらは法定通貨ではない。

イングランド銀行が言う通り、法定通貨は「日々の生活には役に立たない」のだ。ある特定の目的のみのために、法定通貨は存在する。法定通貨は、債権者が受け入れるかどうかに関わらず、債務を免除する。イングランド銀行はさらに、「法定通貨で誰かへの債務を完済すると申し出た場合、返済できなかった場合に訴えることができない」とも述べている。

法定通貨に関する法律は、債権者が渡された硬貨が気に入らなかった場合に、債務を返済しなかったとして債務者が投獄されていた時代にまでさかのぼる。

19世紀、ロンドンの悪名高きマーシャルシー刑務所には、資産を持っていた人も含めて、多くの債務不履行の債務者たちが収監されていた。チャールズ・ディケンズの小説『リトル・ドリット』の中で、主人公エイミーの父は、長年マーシャルシーに収監されていた。彼の債務はあまりに多く複雑で、どのように返済すれば良いか誰にも分からなかったからだ。

今では、債務不履行で人々がマーシャルシー刑務所に送られることはない。法定通貨で支払うと申し出るだけで、債権者の追求から逃れられるのだ。しかし、債権者も裁判所も、銀行振込やデビットカードでの支払いの方を好む。法定通貨は面倒なのだ。

キャッシュが末期的に下り坂をたどる中、政治家たちが他の交換手段を法定通貨として認めたがるだろうと思うのではないか?しかし、法定通貨が関わっているかどうかに関わらず、決済はしっかり機能するし、債務の大半は法定通貨抜きで清算されるため、法律を更新することに緊急性はないのだ。

繰り返しになるが、メインストリームの決済で使われるために、法定通貨である必要はない。幅広く受け入れられていれば良いのだ。ステーブルコインを法定通貨にすることは、ステーブルコインへの信頼を高めるかもしれないが、安全とみなされるために規制をすることの方が、はるかに大切だ。

イギリスは電子決済が安全であることを確実にするために、包括的な規制システムを整えている。ステーブルコインをこのような規制のシステムに取り入れれば、広範な利用が促されるだろう。

「合法化」ではなく「規制」

これこそが、イギリス政府がやろうとしていることのようだ。英財務省の情報筋は、テレグラフ紙に対して、「支払いの手段として使われるステーブルコインを規制するための法律」が、先日の女王のスピーチで発表された金融・市場法律に含まれると語ったのだ。

つまり、「合法化」ではなく「規制」という意味だったのだ。規制されたステーブルコインをメイストリームでの支払いで使えば、イギリスの決済システムにおける銀行の支配を打ち破り、金融包摂を向上できるかもしれない。しかし、どのステーブルコインが適役だろうか?

USDTとUSDCはダメだろう。イギリスは米ドルを使わないので、これらのステーブルコインをイギリス国内のメインストリーム決済で使うことは意味をなさない。さらに、これらコインの発行元は現在、英ポンド連動型のステーブルコインを発行してはいない。

イギリスが英ポンド連動型ステーブルコインを受け入れるように、明白に業者に勧告すれば、サークルやテザー社もそのようなコインを発行するかもしれない。

しかし、イギリス市場で利用するための規制を受けたステーブルコインを発行しそうな金融組織が存在する。イギリスの銀行だ。結局のところ彼らは、決済市場におけるコントロールを失いたくはない。

テザーもサークルもイギリスでは外国企業だ。テザー社は香港を拠点にしているが、香港はイギリスの植民地ではない。サークルの方は、マサチューセッツ州ボストンにある。

イギリスの規制当局が、イギリスの銀行が発行するステーブルコインよりもサークルやテザー社が発行するステーブルコインを優遇したら、銀行だけでなく、政治家や「決済をイギリス産のものに保つ」ことに固執する評論家たちから、激しくロビー活動を受けるだろう。

規制を受けた英ポンド連動型ステーブルコインを発行したがり、実際に発行を検討している組織が、もう1つある。イングランド銀行だ。イギリスの上院は先日、その考えを非難し、「問題を探している解決策」と指摘した。しかし、決裁の未来がステーブルコインだとすれば、中央銀行は間違いなく、そこに関わりたいはずだ。

イギリスはUSDCやUSDTを法定通貨にしようと提案しているのではない。イギリスではすでに合法なのだから、「合法化」しようと提案しているのでもない。規制しようと提案しているのだ。それはつまり、イギリスのメインストリーム決済システムで決して使えなくなる、ということを意味するかもしれない。

ステーブルコインファンたちが思ったように、既存のステーブルコインに対して扉が開かれたのではなく、信頼できるイギリスの発行元が手がける、新しい英ポンド連動型ステーブルコインへの条件付きでの歓迎の表明であり、イギリスの銀行やイングランド銀行に発行に取り掛かるよう呼びかける声がけがなされたのだ。

フランシス・コッポラ(Frances Coppola)氏は、銀行、金融、経済をテーマにしている。著書の『The Case for People’s Quantitative Easing』では、現代のお金の創出と量的緩和の機能を説明し、景気回復のための「ヘリコプターマネー」を提唱している。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:No, the UK Is Not Going to Make USDC and USDT Legal Tender

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