バイナンス、仮想通貨“冬の時代”の過ごし方

マルタに拠点を置く仮想通貨取引所のバイナンス(Binance)は2019年、同社で働く400名の従業員のために野心的な使命を掲げる。

取引プラットフォームとしての存在を超えるバイナンスのブランドを多様化するため、業界内での提携を深め、「仮想通貨・冬の時代(Crypto Winter)」と呼ばれる厳しい時期を乗り越えようとしているのだ。

その一環として、バイナンスが2018年夏に買収したトラストウォレット(Trust Wallet)が、FIO(The Foundation for Interwallet Operability)連合に加わったことが、CoinDeskの取材で分かった。同連合には、取引所のシェイプシフト(ShapeShift)やウォレット開発のベンチャー企業のBRDやマイクリプト(MyCrypto)などが加盟している。

米デンバーに本拠地を置くDapixが主導するFIOは、複数の仮想通貨をまたいだウォレットの標準化を進めるためのプロトコルを作り出す計画だ。

このプロトコルはフィンテックのエコシステムに新たな役割をもたらすと、同計画の支援者たちは話す。例えば、eコマースのプラットフォームでは、仮想通貨による購入の払い戻しを直接、個人のウォレットに送ることが可能になる。また、アメリカの若い世代で広く使われているアプリのVenmoのように、ユーザーはリクエストされた支払いを電子メールを利用して行うことができるという。

FIO創設者のデビッド・ゴールド(David Gold)氏は、多くのウォレットや取引所が今後、FIOに積極的に参加するだろうと楽観的な考えを示す。ゴールド氏は、「取引所などが参加する利点は明確だ」としながら、「ネットワーク上でブロックを形成するノードになることで、収益を得られるのだから」と話した。

仮想通貨市場の下落トレンドが続く中、バイナンスの経営幹部でチーフ・グロース・オフィサー(Chief Growth Officer)の肩書きを持つテッド・リン(Ted Lin)氏は、収益成長の鈍化を指摘する。取引所は一定の利益を確保しているが、軍資金を積極的にベンチャーキャピタルから調達するようなことはしないと話す。

「バイナンスがFIOの基盤を通じて相当の収益を上げるには、まだ数年はかかるだろう。厳しい市場環境での戦略は、長期的な利益を生み出すプロジェクトにフォーカスすることにある」(リン氏)。

「最終的には大きなインパクトをもたらすことになる。ほかにこの試練を乗り越えるための方法はあるだろうか?」とリン氏は話し、他社との提携戦略の重要さを強調した。

そして、このウォレットの新たなインフラは、バイナンスが2019年後半にスタートさせる分散型取引所「DEX」へとつながる。トラストウォレットは、DEXとアップデートされたトークンとの一体化を補うための、初のモバイル仮想通貨ウォレットになる。

リン氏は言う。「エコシステム全体が機能するテクノロジーを生み出すのに5年かかるのなら、その開発にいま着手するべきだ」

ウォレットの使いやすさ

アドレスとメッセージングソフトの標準化は、仮想通貨の送受信におけるヒューマンエラーのリスクを軽減させる。これはバイナンスのフィロソフィーに通じるものがある。

同社の成長戦略の一つは、わずかな技術知識しか持ち合わせていない仮想通貨のビギナーや、未来の仮想通貨ユーザーの候補者たちにどうアクセスするかを考え抜くことである。

例えば、2018年12月には、学習ポータルのバイナンス・アカデミー(Binance Academy)を設立。入門タイプの動画や記事などを15の言語に翻訳して掲載した。

ゴールド氏によると、バイナンスは世界最多のユーザー数を誇り、取引所口座数は1000万を超え、トラストウォレットのダウンロード数は15万回に達している。FIOが世界的なその広がりを進める上で、バイナンスは重要な役割を担うことになる。「ユーザー体験(UX)を向上させるためには、ウォレットと取引所を分けて考えることべきではない」とゴールド氏。

バイナンスは、外部開発者たちがあらゆる仮想通貨に対応するサポートを加えられるよう、ウォレットのコードをオープンにする取り組みを強化している。現在、トラスト ウォレットがサポートするのは15種類のトークンだが、FIOはこのバイナンスの取り組みを後押しできると、トラストウォレット・創業者のViktor Radchenko氏は話す。

FIOのプロトコルのようなツールでソフトウエアを標準化すれば、ニッチな資産を求めるユーザーでも、トラストウォレットを使うことで、安全性と使いやすさを確保できる。

「昨年、我々はイーサリアムにフォーカスしていた。しかし、仮想通貨に対する理解は人によって異なり、使い方も様々で、多くのブロックチェーンが世界に存在することを改めて認識した」とRadchenko氏。

さらなる提携・買収・投資

トラストウォレットの買収に加え、バイナンスはベンチャー企業への投資を通じて業界内の提携戦略を加速させている。例えば、2018年には、航空チケットの支払いを手がけるスタートアップのTravelbyBitに250万ドル(約2億7400万円)を投資した。これによって、バイナンスの通貨BNBのユーザーたちは、より多くの同通貨の使い道を手に入れた。

また、インパクト投資のベンチャー企業モエダ(Moeda)は、BNBによる貸出プログラムを可能にしている。この貸出プログラムは、世界中の投資家が途上国の零細企業に対して仮想通貨の短期貸出を行うというもの。

Moeda創業者のIsa Yu氏によれば、およそ15人の投資家がBNBやモエダのICOトークンMDAなどを用いた貸出プログラムに参加し、投資リターンは1件あたり約800ドルに上ったという。

仮想通貨・冬の時代に、バイナンスはショッピングや投資などにおける仮想通貨の利用方法を増やすことに注力する一方、バイナンス・アカデミーを通じて新たな市場参加者を開拓し、冬の時代の終わりに向けた準備を進めている。

翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:佐藤茂、浦上早苗
写真:Binance CEO Changpeng Zhao image via CoinDesk archives
原文:Binance’s Crypto Winter Strategy: Build and Beef Up Partnerships