リテールバンキング(個人や中小企業を対象にした銀行)は、極めて強力だ。

そのことを理解するために、難しいレポートや悲惨な逸話を読む必要などない。すべての銀行口座が凍結されてしまったことを想像するだけでよい。

クレジットカードも使えなくなる。どうやって暮らしていくのか?

願わくば、ベッドの下にお金を隠していますように。ビットコイン(BTC)を持っているか、ビットコインエコノミーを推進している場所の近くに住んでいますように。アルゼンチンに住んでいて、法定通貨が1980年代以降ずっと頼りにならないから、テザー(USDT)のようなドル連動型ステーブルコインが通用するということでも良いかもしれない。

そうでなければ、状況は厳しい。

簡単な解決策は、行動を呼びかけることだ。もっと多くの暗号資産エコノミーが必要だと。

エルサルバドルのビットコイン・ビーチのように、既存の銀行システムから完全に切り離されたコミュニティ、郡、州、国を構築しよう。

しかし、こうした暗号資産エコノミーが登場し続けていくなかでも、銀行と暗号資産は密接に結びついている。

シルバーゲート前、シルバーゲート後

シルバーゲートは、銀行との取引関係を維持するのに苦戦する傾向のある多くの暗号資産企業のための銀行だった。

シルバーゲートが暗号資産企業に門戸を開いたことは、暗号資産企業、特に暗号資産取引所にとって極めて大きなポイントになった。FTXの創業者サム・バンクマン-フリード氏は「暗号資産企業の歴史は、シルバーゲート前/シルバーゲート後にわけることができる」と語っていた。

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シルバーゲートが暗号資産取引所にこれほど好まれた理由は、何よりも銀行サービスへのアクセスを提供してくれるからであり、さらに「シルバート・エクスチェンジ・ネットワーク(SEN)」によって、シルバーゲートの顧客間の即時決済が週末や夜間も含めて24時間365日可能だったからだ。

夜中に食べるラーメンやピザの代金を友人とやり取りすることにベンモ(Venmo)やCashAppが使えることと同じようなことだ。

政府が促した取り付け騒ぎ

FTXが破綻し、シルバーゲートの顧客は不安を募らせ、何十億ドルもの預金が引き出された。シルバーゲートは事業を続けるために連邦住宅貸付銀行から融資を受けたが、最終的には任意清算に追い込まれた。

シルバーゲート(そして、その他の暗号資産フレンドリーな銀行)にとって状況は明らかに厳しかったが、エリザベス・ウォーレン米上院議員がシルバーゲートを批判する書簡を送り、ホワイトハウスが暗号資産に関する懸念を記したブログを公開したことで、さらに厳しくなった。

規制当局や政治家たちは、暗号資産取引所やその他の暗号資産企業が銀行サービスを受けるべきではないと言ったわけではない。しかし、業界の先行きに不透明感をもたらしたことは確かだ。

シルバーゲートに関して興味深いことは、同行がビットコインや他の暗号資産を担保として貸付を行っていたわけではないことだ。昔ながらの、取り付け騒ぎのせいで困難な状況に陥った。その取り付け騒ぎは、政府が促した。

銀行システム回避のために銀行が必要?

シルバーゲートの問題によって、暗号資産業界は銀行についての問題を抱えていることが明らかになった。暗号資産に批判的な人は「暗号資産は銀行システムを回避するために作られたはず。暗号資産が銀行を必要としているなんて、おかしな話だ」と言うだろう。

おかしい? 確かにそうかもしれない。しかし笑いごとではない。

まず、銀行と暗号資産は共存することが可能で、将来はそうなるだろうし、そうなるべきだと考えている。ビットコインや他の暗号資産によって、銀行を使わずに済む選択肢があるからといって、すべての人が銀行との付き合いを完全にやるることにはならない。

もちろん、第三者を完全に排除したい生粋の自己主権主義者もいるだろう。しかし、世界には何十億もの人が暮らしている。それだけの人を組織化することは、第三者にある程度頼った方がはるかに簡単だ。

そしてビットコインなどの暗号資産が生み出す世界は、第三者がより誠実な世界だ。顧客のお金を安全に保管し、責任ある人たちに将来の資本(つまり、信用)を提供する誠実な銀行は多いほうがいい。

今、アメリカで起きていること

大風呂敷に聞こえるかもしれないが、実現する可能性はある。

少しややこしい話になるが、「銀行システムを回避」するために生まれた暗号資産/暗号資産企業が銀行を必要としていることは、銀行システムが回避(あるいは少なくとも何らかの形で解体)されるべき理由を明確に示している。

想像してみてほしい。ある国にきわめて重要な業界(例えば、銀行業界)が存在していて、望ましくないと考えられている業界(例えば、暗号資産業界)へのサービス提供に対する規制という単純な脅しだけで、その望ましくないと考えられている業界が屈服させられてしまうようなことを。

だが想像する必要はない。これこそが今、アメリカで起こっていることだ。アメリカの行政府(ホワイトハウス)と立法府(議会)は、暗号資産企業にサービスを提供する銀行が襟を正さなければ、将来、規制を強化するとほのめかしている。

良いやり方とは思えないが、やり過ぎなければ良い政策にもなり得る。暗号資産企業が銀行にアクセスするハードルが高くなることが、エコシステム内の悪質な企業を減らすことにつながる、より徹底的なデューディリジェンスの実施につながれば、究極的には個人投資家はより安全になり、システムは価格下落などの影響を受けにくくなる。

もしかしたら、そうなるかもしれない。今のところ私は、慎重だが楽観的に考えたいと思っている。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto’s Banking Problem Is Not Ironic