FRBの30兆円のレポ市場介入が語るビットコインの将来性

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FRB(連邦準備制度理事会)は先週、銀行が流動性ニーズを満たすことができるよう、4日間にわたって、レポ市場に2780億ドル(約30兆円)を供給した。FRBが、銀行が翌日のキャッシュのニーズに対応するために金融資産を担保にするこの重要な銀行間市場に介入したのは、2008年の金融危機以来初めてのことだ。

FRBと銀行は、今回の異例な流動性の破綻を、債券市場と法人税支払いにおける一連の偶発的な要因による一時的なものとして片付けた。だが、これはあまり安心できる説明ではなかった。

現在、経済にはさまざまな警告サインが光っている。例えば、世界中のマイナス利回り債券の残高は17兆ドル(約1800兆円)にのぼり、米中貿易戦争は悪化を続けている。そして製造業景況指数は差し迫る世界的不況を示唆している

予想通り、あるタイプの仮想通貨関係者は、この憂慮すべき事態を好意的に捉えている。仮想通貨を長期的に保有している少なくない数のツイッターユーザーは、レポ取引による資金供給のニュースに2ワードでアドバイスした。

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しかし、実際には、この事態が少なくとも短中期的に仮想通貨市場にとって何を意味するのかを予測することは難しい。

2008年のような金融パニックが起きた場合、ビットコインは相関関係のない新しいタイプの「安全な避難先」として上昇するのだろうか? それとも、投機的なものすべての幅広い「リスクオフ」ダンピングの中で下落していくのだろうか?

先週半ばまでの急落と回復にも関わらず、ビットコインは最近、少なくともその変動しやすい基準からすると、かなり安定していることを証明した。

他の疑問もある。

伝統的な金融市場におけるこれらの脆弱性は、新しいブロックチェーンベースのアイデアの将来性を強調するだろうか? 例えば、セキュリティ・トークンが幅広く利用されることによって、より素早い決済が可能になり、ひいては、カウンターパーティー・リスクが緩和され、市場の信頼性は高まるだろうか?

より根本的には、分散型プロトコルによって固定される担保コールを伴うメーカーダオ(MakerDAO)のオンチェーン分散型金融(DeFi)融資市場は、より信頼できる決済メカニズムを実現するのだろうか?

それともこれらの発展途上のアイデアは単にシステムリスクのための処方箋であり、ハッキングやソフトウエア不具合による担保コールと破産の悪循環を断ち切ることができるだろうか?

こうした未経験のものに、まだ結論は出ていない。

だが少なくとも、伝統的な金融システムにおけるストレスの多くのサインは、世界がどのように変わっていくのか、そして新しい世界を可能にするためにブロックチェーン技術が果たす役割を考えるための価値あるフレームを提供する。

その一部を見てみよう。

マイナス利回り

債権者が債務者にお金を貸すために実質的にお金を払っているという奇妙な現象は「安全な」資産、特に国債への過剰な需要を反映している。これは歴史的に差し迫る不況の強いサインとなってきた。

投資家の間に広がる、リスクを取ることへの極めて大きな消極性を反映しているからだ。

この消極性を理解するためのもう1つの方法は、優れた投資機会が不足していると表現すること。この捉え方は、悪化する経済見通しによって強化できるが、投資可能な企業に新しい機会を提供することを難しくしている参入障壁にも影響されている。

ここでは、ブロックチェーンを基盤とする、ある種の金融アイデアは希望をもたらす。例えば、分散型台帳を使った資産登録には見込みがある。

担保のより優れた記録を可能にし、開発途上国の土地、コモディティ、エネルギー市場おける新興の貸付市場を実現する。

あるいは、国際貿易金融の深刻な構造的制約に立ち向かうために、輸出業者が売掛金をトークン化するアイデアもある。現状では銀行が彼らの書類を信用しないために、中小企業の大半が信用状を出してもらえない。

ブロックチェーン技術の効果的な利用は、資産や抵当権の登録への信用を高め、経済学者エルナンド・デ・ソト(Hernando de Soto)氏が、世界の貧困層が保有すると表現した20兆ドル(約2200兆円)の「眠れる資産」に命を吹き込む可能性がある。

同様に重要なことは、投資家の資本を引き込む、新たな代替資産の世界を開き、利回りの低い債券に資産を留まらせておく理由を減らせることだ。

世界的経済のスローダウン

製造景況指数の驚くべき、同タイミングでの悪化、特に在庫と設備にかける現在と将来の企業支出を測る購買担当者景況指数の悪化は、米中貿易戦争から直接生じている。

アメリカの消費者市場から中国の輸出業者を締め出し、アメリカの輸入業者のコストをアップさせ、また逆に、中国の業者に食料を販売するアメリカの農家のコストをアップさせることで、この貿易戦争はグローバルな経済活動に新たな、巨大な負担を加えた。

しかし、貿易戦争の始まりに目を向けてみよう。

始まりは、中国の重商主義についてのアメリカ企業のほぼ妥当な不満にある。中国企業をサポートする中央集権的なアプローチで、国民と企業に対する監視とコントロールのシステムによって、あらゆることが可能になっている。ここに、仮想通貨の切り口がある。

仮想通貨と他の分散型技術は、このような介入主義的な方法で自国の経済をコントロールすることのできる中国政府の能力と対抗する可能性がある。

例えば、中国企業や何億人もの中国国民が国家による資本のコントロールを回避するためにビットコインを利用すれば、絶えず存在する資本逃避(キャピタルフライト)のリスクは圧力弁として働き、競争力を保つためにより開放的な経済モデルを追求することを中国政府に強いることになる。

それにより、トランプ大統領のような反自由貿易主義者は、中国政府に対する保護貿易主義者的な攻撃を高めていくための口実を持てなくなる。

レポ市場への介入

イノベーターの中には、現在、レポ市場に現れているような、マネー市場を定期的に混乱させるバックオフィス的な構造問題にブロックチェーン技術を適用しようと考えている人もいる。彼らは分散型台帳を組織間信用市場の基盤となっている借用証書や担保された証券を追跡するためのより優れたメカニズムと捉えている。

その1人が、JPモルガンの元クレジット市場の専門家、ブライス・マスターズ(Blythe Masters)氏。同氏はオンチェーン決済と普遍的に監査可能な台帳は、不透明で複雑な国際金融の透明性を改善することができるというアイデアに基づいて2014年にデジタル・アセット・ホールディング(Digital Asset Holdings:DAH)を創業した。同氏は、金融危機を煽った不信とカウンターパーティー・リスクを緩和することができると述べた。

DAHモデルや他のモデルは、まだ実を結んでいない。

これは少なくとも一部には、現状の金融機関と規制当局がブロックチェーンが不要としてしまう既存の機能に終止符を打つことを避けていることが原因。彼らはその代わりに、既得権を維持するがコストがかさみ、共同で実行することが難しい、面倒なハイブリッド分散型台帳モデルを設計した。

いずれにしても、伝統的金融のためのバックオフィス・ブロックチェーン・ソリューションはすぐには実現しない ── 内部抗争あるいは技術的限界のどちらかが原因だとしても。

より重要な疑問とは?

より重要な疑問は、バックエンド市場の問題に極めて脆弱なシステムを我々はなぜ、そこまで容認しているのかということ。中央銀行が銀行間信用市場をサポートするために介入する唯一の理由は、社会の支払い手段が現金不足を回避し、部分準備銀行制度への信頼を維持することに依存しているからだ。

仮に、銀行が短期的な債権者の要求に応えるための十分な現金を保有していなければ、銀行は預金の取り付け騒ぎに苦しみ、企業は給与を支払うことができず、貸借人は賃料を滞納し、ATMの紙幣が足りなくなるなどの問題が生じる。

経済は動かなくなる。

最悪なことは、この常に存在する脅威のために、銀行が我々の政治システムを人質にすること。銀行はいつでも救済措置に頼ることができると知っている。つまり「大きすぎて潰せない」という問題だ。

しかし、もし銀行が長期融資に専念したらどうなるだろうか? 決済用の当座預金口座やデビットカード、クレジットカードが存在せず、自分自身で保有する現金やデジタル通貨を使って、お互いに価値交換するだけだとしたら?

もし人々が、本質的に脆弱な部分準備銀行システムによる借用証書の代わりに、ビットコイン、法定通貨と連動したステーブルコイン、あるいは中央銀行デジタル通貨を価値交換のために利用すれば、組織的な現金不足はそれほど問題とはならないだろう。

銀行の最大の債権者たちは、リスク調整されたポジションに対する損害を被り、株価は下落するかもしれない。だが、FRBを含めたそれ以外の我々は問題を無視できる。

ジャーナリストでコメンテーターのハイディ・ムーア(Heidi Moore)氏が先週の一連のツイートで鋭く指摘した通り、レポ市場の混乱がこれほどまでに心配な理由は、銀行システムの信用の核心的な問題をダイレクトに明らかにしているから。

少なくともここは、金融システムの現在のストレスを評価するために、ブロックチェーン技術が価値あるレンズを提供できる場。信用の問題がいかにして脆弱性、力の不均衡、システムリスクを生み出すのかを考え、問題をより良く解決できるシステムをいかに設計するかを考えることに役に立つ。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Federal Reserve image via Shutterstock
原文:What Billions in Fed Repo Injections Reveal About the Promise of Bitcoin