Web3業界が学ぶべきオンラインサロンの教訓──箕輪厚介氏、家入一真氏、金光碧氏らが激論イベント

次世代の組織運営のあり方として注目を集めるDAO。法制化の議論が進む一方で、その運用・リワード設計については世界中で試行錯誤が続いている。DAOをコミュニティとして捉えた場合、オンライン・サロンやクラウドファンディングなど、異なる文脈で生まれてきたコミュニティの運営にも学ぶべき教訓が多々あるのではないか──。

そうした切り口で議論するイベント「Web3が拓くコミュニティの可能性──注目を集めるDAO vs 衰退するオンラインサロン」が3月22日に開催された。幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏、CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏、bitFlyer Blockchain取締役の金光碧氏が登壇し、Web3コミュニティの抱える課題と持続可能な発展のための視座について多角的に議論した。

N.Avenue/btokyomembersが主催。オンライン・オフラインのハイブリッド形式で開催され、オフライン会場はWeb3業界の若手起業家らが集まる東京・渋谷のコワーキングスペース「CryptoBase @ NIB SHIBUYA」だった。モデレーターはシンガポール拠点のWeb3ファンド「Emoote(エムート)」共同創業者でリサーチャーのcomugi氏が務めた。

コミュニティの熱量をどう保つのか?

DAOが学ぶべき先例として、イベントで真っ先に言及されたのが、箕輪氏主催のオンラインサロン「箕輪編集室」だ。「箕輪編集室」は2017年に始まり、2024年2月にその幕を閉じた。箕輪氏によると、発足当初から才能ある若手が集い、メンバーとの共同作業で書籍制作やプロモーションを行いヒットを量産していたという。「僕が再現性の高い形でヒットを出せたのは、オンラインサロンが活発に動いていたおかげ」と箕輪氏は振り返る。

最盛期には「寝る間も惜しんで」活動に取り組むメンバーが続出し、外部からは「やりがい搾取」と批判されるほどの熱気があったという。しかし、コアメンバーが成長して多忙になったことや、新規メンバーとのスキル差・温度差が広がってきたことなどから、コミュニティ全体としての熱量は低下。コロナ禍も重なってアクティブ率は下がっていった。箕輪氏は一度コロナ後に立て直そうと試みたが「とろ火になった火が、もう一度わきあがることはなかった」と話した。

コミュニティ内の熱量をどう保つかは、多くの組織の共通課題だ。

さまざまなDAOの仕組みに詳しい金光氏は、世界的に著名なDAOであっても、何らかのきっかけで活動が停滞してしまうことは珍しくないと話す。日本におけるクラウドファンディング事業を牽引し、さまざまなコミュニティの栄枯盛衰を見てきたCAMPFIREの家入氏は、コミュニティの発足当初は簡単な単純作業でも承認が得られがちだが、コミュニティが発展してくるとそれに伴い活動難易度が上がるとして、「自分たちが頑張ればコミュニティの価値が上がるのは頭ではわかっていても、すべきことが複雑で手間がかかると、それだけをやってるわけにはいかなくなる」と継続の難しさを強調した。

リワード設計をどうするか?

活動継続のためのインセンティブとして、DAOではコミュニティへの貢献に応じて、報酬トークンが分配される仕組みがある。金光氏はコミュニティ内での活動に「経済的なインセンティブが明示的に与えられやすくなったのはWeb3のメリットではないか」と話した。これに対し箕輪氏は「箕輪編集室も、たとえば初期メンバーにトークンを付与して、メンバーに儲けが出ていたらもう少し持続可能だったかもしれない」と振り返った。

ただ、このリワードの仕組みをどう設計するかも難しい課題である。

箕輪氏は「10年もすれば、コミュニティの中に独自通貨ができる時代が来るだろう」と予想しつつも、リワード分配については「この人は頑張ったから、5トークンあげようといった単純な仕組みで機能するとは思えない」として、国家を作るような複雑な設計が必要となってきそうだと語った。金光氏が世界で成功しているDAOの評議員制度などを紹介すると、箕輪氏は「(DAOの報酬設計は)ゲームプロデューサーが得意な領域かもしれない。オンラインサロンのインフルエンサーとは違う才能が必要だ」「RobloxやFortniteのようなゲームで世界を創造しているような世代が、将来のトークンコミュニティを仕切るようになるのでは」と想像をめぐらせた。

リワード・インセンティブの設計は、クラウドファンディングでも重要な要素となっている。

家入氏は「CAMPFIREを立ち上げた13年前から『支え合う経済』を実現したいという思いがあった。資本主義というレイヤーの上に、個人や小さなチームによる小さな経済圏がたくさん生まれて、それが重なり合うような世界を作りたいという考えが根っこにある」と話し、そうした社会を実現する一つの手段としてDAOに注目していると述べた。また、「DAOの構成要素が圧倒的なミッションと行動指針、インセンティブ設計、ガバナンスだとすると、それはもはや小さな国家だ。それが自分たちの手元にある、おもしろい時代になってきたと思う」と期待感を示し、クラウドファンディング事業で培ったノウハウ活用など「僕らだからできることはめちゃめちゃある。プロダクトを絶賛開発中だ」とDAOへの取り組みを語っていた。

こうした議論を受けて、金光氏はDAOやWeb3のサービス展開について「わたしたちは技術を基点に考えがちだが、そこから一歩引いた観点でもサービスを考えていかないといけない」と振り返っていた。

イベントでは他にも地域DAOの可能性や、富の再分配、富の再分配をどう考えるべきかといった、幅広い話題が出ていた。

当日の様子はこちらのYouTubeチャンネルで公開されている。

|テキスト・編集:渡辺一樹
|写真:N.Avennue