紛失すると仮想通貨を失う「秘密鍵」──なくした時の合鍵を「友人」にする新手法

秘密鍵を失くすことが心配? だったら、友人を頼ってみてほしい。あるスタートアップはそう提案している。

新しい合鍵

Vault12──ウィンクルボス・キャピタル(Winklevoss Capital)、トゥルー・ベンチャース(True Ventures)、ナバル・ラビカント(Naval Ravikant)氏、データ・コレクティブ(Data Collective)が支援している──は2019年10月30日(現地時間)、デジタル資産を守るための新たなパスキー(合鍵)システムの提供を開始した。

このアプリは「シャミアの秘密分散」 (Shamir’s Secret Sharing)と呼ばれる、イスラエルの伝説的な暗号研究者、アディ・シャミア(Adi Shamir)氏が開発した暗号化技術を使う。

まず、ユーザーは「ガーディアンズ」と呼ばれるグループを選択する。そして、カーディアンズの1人1人はユーザーのシードフレーズ(資産にアクセスするために仮想通貨ウォレットが要求する複数単語のパスワード)の一部分をそれぞれ保有する。

万一、仮想通貨資産にアクセスできなくなった場合、ユーザーは自分が選んだガーディアンを呼び出し、鍵を結合して資産を回復できる。ユーザーは鍵の一部を保護してもらうために、ガーディアンにイーサリアムで報酬を支払う。

Vault12のチーフクリプトオフィサー、ワシム・アハマッド(Wasim Ahmad)氏は、Vault12はユーザーのシードフレーズにも資産にもアクセスできないとCoinDeskに語った。 いわばアプリは「分散型」だ。

「すべては1人1人のスマートフォンにあり、いかなるサーバーも通過しない。当社はそれらを決して見ることはできない。外部リスクの観点からすると、極めて重要なことだ」

共同創業者兼CEOのマックス・スキビンキ(Max Skibinksy)氏は、このソーシャルリカバリーのアイディアはパスワード管理における大きな変化と述べた。

「どんなハードウエアやモバイルウォレットも最終的なセキュリティのステップをある程度ユーザーに任せる」とスキビンスキ氏。

「彼らは『ウォレットを操作するための極めて安全な方法がある。しかし、このリカバリーフレーズや暗号鍵などは自分で保管してください』と言う──リカバリーフレーズや暗号鍵を安全に保管するのは結局、ユーザーの責任になっている」

一方、Vault12ではリカバリー機能は友人グループにある。

このコンセプトは新しいものではない。スマートフォンメーカー「HTC」は同社のエクソダス(Exodus)シリーズに同様のソーシャル・キーリカバリー・メカニズムを搭載した。だがユーザーはパスフレーズを保護するために他のユーザーに報酬を支払うことはできない。

Vault12はまだベータ版だが、WindowsとMacOSをサポートする予定だ。

費用を決めるのは?

スキビンスキ氏によると、費用はガーディアンが決める。例えば、月10ドルでガーディアンになる人もいれば、もっと高い価格を設定して、より多くの専用サービスを提供する人もいるだろう。

「我々はアプリにメカニズムを組み込んだ。つまり、オーナーはイーサリアムを自分のVaultに追加する。イーサリアムはガーディアン自身が定めた価格を毎月ガーディアンに支払うというスマートコントラクトを通して支払われる。価格はVaultをセットアップしたときに、両者に可視化される」

この製品は個人を対象としているが、将来のバージョンでは法律事務所や雇用主などプロフェッショナル・ユーザーを対象にするとスキビンスキ氏は語った。また同氏は仮想通貨資産を保有する経験が浅い人々を安心させることができると述べた。

アハマッド氏によると、ガーディアンはいつでも変更可能。

「もしガーディアンの1人がスマートフォンを紛失したら、アプリが『この人物はオフラインになっている』とあなたに通知する。あなたは『別の人に変えたほうがいいかもしれない』とガーディアンを変えることができる」とアハマッド氏は語った。

「このアプリはこうしたあらゆるシナリオに対応する。あなたのガーディアンの状態やあなたの資産の状態を通知する」

ガーディアンが互いに地理的に離れているよう設定したり、ガーディアンにアクセスできないという不測の事態や自然災害などに備えて、複数のバックアップデバイスをガーディアンの代わりに設定することもできる。

翻訳:下和田 里咲
編集:増田隆幸
写真:Vault12 team image courtesy Vault12
原文:Pay Your Friends to Protect Your Keys: One Startup’s New Take on Crypto Custody