クラウドクレジット:ゼロ金利日本でハイリスク・ハイリターンの機会を──クラウドファンディング業界で存在感

国内のクラウドファンディング業界で、高いリターンでその存在感を強めるスタートアップがある。2014年に創業したクラウドクレジット(CROWD CREDIT)だ。

同社のホームページに行くと、「世界に貢献する投資」のキャッチコピーと、「投資家の資産形成と世界の成長をつなぐプラットフォーム」という文字が飛び込んでくる。

メキシコ省エネ事業支援ファンドの表面利回りは5.4%、ブルガリアの中小企業向けローンファンドは7.4%……。日本銀行がゼロ金利政策を導入して20年が経つが、その高い利回りには目を見張るものがある。

東京・茅場町にあるクラウドクレジットのオフィスで、CEO(最高経営責任者)の杉山智行氏にその仕組みを聞いた。

20代〜40代の個人投資家が7割

リーマンショックから10年が過ぎたが、ゼロ金利政策で日本には依然として企業と個人の莫大な金融資産が眠っていると話す杉山氏。

クラウドクレジットの個人顧客の数は現在約20000人。20代から40代が7割を占め、顧客の8割以上が投資経験のある投資家で、同社の預かり資産は約130億円超。運用するファンドの利回りは平均で年率5.55%(2019年7月時点)だという。

東欧、中南米、アフリカを中心に、発電、省エネ、金融事業者支援、中小企業支援などの事業に、国内の個人投資家がファンドを通じて投資する。当然、事業が頓挫するリスクはあるが、高い金利を稼ぐ機会は得られる。

クラウドファンディングには、寄付型や、株式による出資で配当を受け取る株式型、物品やサービスを受け取る購入型などがあるが、クラウドクレジットは、資金提供者が融資を行い、元本と利子を得るファンド投資を行う融資型のカテゴリーに入る。

新興国の発展と日本の余剰資産をつなぐ

「世界に貢献する投資」のキャッチコピーと、「投資家の資産形成と世界の成長をつなぐプラットフォーム」と説明するクラウドクレジットのHP。

杉山氏が起業を考えるようになったのは2012年4月頃。大和証券で為替や金利デリバティブのジュニア・トレーダーを経て、世界金融危機が起きた2008年に入社した英ロイズ銀行(ロイズ・バンキング・グループ)で資金運用の仕事をしていた。日本と南米や東欧などの新興国の資金供給の大きなギャップを埋める方法を模索する。

日本には膨大な資金が行き場を失うほどに存在する一方で、南米や東欧の多くの企業やプロジェクトに対する資金供給(銀行)が恒常的に不足している。リーマンショックから10年が過ぎたが、ゼロ金利政策で、日本には依然として企業と個人の莫大な金融資産が眠っていると、杉山氏は言う。

貧しい人たちに小口の融資を行い、彼らの零細事業の運営をサポートするマイクロファイナンスについて独学で学び、クラウドクレジット創業のアイデアを得る。2013年、自己資金とエンジェル投資家からの資金をあわせて1000万円の資本で起業した。

東欧の発達段階の金融システム

ブルガリアの首都・ソフィアの中心部。(写真:Shutterstock)

成長機会が豊富にあり、資金に乏しい国をリストアップして、それぞれの国の法制度、金利が取れる環境、外資規制などを調べた。リストには、ペルーやコロンビアの南米の国や、ソビエトの崩壊で資本経済型・金融システムが未だ発達段階の東欧諸国の名前が並んだ。

杉山氏はリストアップした国に飛び、知り合いのつてを頼りに現地の金融界の関係者たちから多くを学んだ。

「南米や東欧諸国には、海外からの投資で国の発展を期待する多くの国民がいることを実感した」と杉山氏は当時を語る。

起業当初は南米を中心に貸し出し先を開拓していたが、領域を東欧やアフリカにも広げた。資本主義経済に移行してからまだ数十年の東欧には、西側諸国で確立されたような金融市場が成熟していない。

「ソーシャルレンディング」、「P2Pレンディング」

(写真:Shutterstock)

2015年頃から欧米を中心に、「ソーシャルレンディング」や「P2P(ピアトゥピア)レンディング」というものが注目されるようになる。クラウドクレジットの事業もその頃から安定期に入ったと、杉山氏は言う。

クラウドクレジットは今後2、3年で、融資する海外事業の審査に際して、現在行なっているデューデリジェンス(Due Diligence=事業の価値やリスクなどの調査)に加えて、スコアリングやシミュレーション・プロセスを活用していく。また、通貨リスクの測定にはAI(人工知能)を導入していく方針だ。

「投資担当者はこれからも配置していくが、なるべく人の判断の割合を減らしていきたい。融資の世界では『Don’t fall in love!』という言葉がよく使われるが、投資・融資先に対しては冷静に判断することを心がけていきたい」

クラウドクレジットが運用するファンドのほとんどはハイリスク・ハイリターン。個人投資家が資産運用を行う時、あくまで伝統的な資産運用会社が販売する投資商品がメインであれば、クラウドクレジットのファンドはサブ的な、サテライト的な存在だと杉山氏は言う。

国内ベンチャーキャピタルが注目

「我々がやりたいのは、お金を世界の新興国の『市中の人々』の成長に投下して、その成長のリターンを日本の投資家に戻すこと」(杉山氏)

その一方で、「社会的観点から見ると、(AIが運用する)ロボットアドバイザーなどの資産運用サービスを使えば、お金は主に上場企業の株式へと向かう。我々がやりたいのは、お金を世界の新興国の『市中の人々』の成長に投下して、その成長のリターンを日本の投資家に戻すこと」と杉山氏は加えた。

クラウドクレジットには、伊藤忠商事やマネックスベンチャーズが2015年に出資。2018年には、第一生命や三菱UFJキャピタル、LINEベンチャーズ、YJキャピタル、ソニーフィナンシャルベンチャーズ、グローバル・ブレイン、SBIインベストメントなどから資金を調達している。

2019年、公的年金以外の老後資金として2000万円が必要だとする金融庁の報告書が、多くの世代の不安を仰いだ。一方、国内外のネット証券会社が手数料をゼロにする動きが広まる中、貯蓄から投資へのシフトがさらに促される。個人は、資産運用に対する知識(リテラシー)がより求められるようになるだろう。

インタビュー・文:佐藤茂
写真:多田圭佑