ビットコイン・マイニング難易度の上昇鈍化──新型肺炎によるマシン納品遅延が影響

ビットコインマイナー間の競争を示す指標は、1月に堅実な伸びを見せた後、コロナウイルス(新型肺炎)が中国の経済活動を停滞させたことで、ここ2週間、上昇が鈍化している。

新型マシンの購入を進めるマイナー

いわゆる「マイニング難易度」の上昇の鈍化は仮想通貨マイナーがマシンのアップグレードを中断しなければならなかったことを意味している。ウイルスの流行によって中国当局が検疫を課し、主なマイニングマシンメーカーが生産と出荷を遅らせたためだ。

マイニング難易度──新しく生成されるビットコインを獲得するための演算に必要な能力を示す指標──はデータによると2020年2月11日(現地時間)、14日前よりも0.52%高い水準に調整された。この数字は、1月28日と14日にそれぞれ調整された増加率4.67%、7.08%と比べると著しい減少となった。

ビットコインは、ネットワークに接続された演算能力の規模に応じて、約2週間ごとにマイニング難易度が調整されるように設計されている。新しく生成されるビットコインを獲得する競争により多くのマイナーが参加すると、マイニング難易度は上がる。マイナーが撤退すると、マイニング難易度は下がる。

今回の停滞の前には、マイナーは新しい現実に備えていた。マイニング業界は根本的に、より採算性の低いものになろうとしていたからだ。

5月、マイニング報酬は半減し、1ブロックごと、すなわち約10分ごとに6.25ビットコイン(現在の価格で6万4000ドル、約700万円)となる見込み。これはビットコインの歴史の中で3度目のいわゆる「半減期」で、マイナーにとっては運用コストが収益を上回る結果になる可能性がある。

「半減期が近付くにつれ、多くのマイナーは旧式のマイニングマシンを取り払い、新しい、より強力なマシンを購入している」と仮想通貨レンディングスタートアップ、ディファイナー(DeFiner)の共同創業者兼CEO、ジェイソン・ウー(Jason Wu)氏は述べた。マイナーは2019年下半期以降、例えばビットメイン(Bitmain)のアントマイナー(AntMiner)S7やS9といった旧式のマシンをリプレースし始めている。

「コロナウイルスの流行は移行を遅らせ、マイニング難易度の上昇の鈍化をもたらした可能性がある」とウー氏は指摘した。

旧式マシンが稼働

ウー氏によるとマイナーは今、新しいマシンの納品を待ちながら、残った旧式マシンを稼働させている。高値が続くビットコイン価格によって、そうした運用でも採算が取れているためだ。

新しいマシンの納品状況とは別に、コロナウイルスは一部のマイナーに直接的な影響を与えている。

「大半のマイニングファームは春節の間も稼働を続けていたが、ウイルスの流行のために地元政府によって閉鎖されたマイニングファームもあった」と仮想通貨取引所ビボックス(Bibox)の共同創業者兼CEO、アリエス・ワン(Aries Wang)氏は語った。

マイニングプールBTC.topのCEO、Zhuoer Jiang氏が所有するマイニングファームは地元政府によって閉鎖された(地域名は明らかにされていない)と、Jiang氏は2月4日、ウェイボー(Weibo)に投稿した。

ワン氏によると、中国生まれの仮想通貨取引所としては最大級のビボックス(現在はエストニアに拠点を置く)は、マイニング業界に数百万ドルを投資している。

「仮想通貨ファンドや取引所といった多くの投資家は、半減期によってビットコイン価格が上がることを見込んでおり、マイニングに資金を注いでいる」とワン氏は述べた。

「こうした投資家は、新しい装置に加え、マイニングファームから設置場所やメンテナンスサービスも購入し、マシンを運用する」

中断した拡張競争

今回の事態はマイナーに、激化を続ける競争からの小休止を与えた。

「マイニング難易度の上昇の鈍化はマイナーにとって良い知らせ」と深セン市に拠点を置くメーカー兼マイニングファーム運用企業パンダマイナー(PandaMiner)のCOO(最高執行責任者)エイブ・ヤン(Abe Yang)氏は述べた。

「マイニングは軍拡競争のようなもので、マイニング難易度の上昇の鈍化はマイナーがマイニングへの投資からより高い利益を得る可能性を意味する」

ほぼすべてのマイニングマシンメーカーがコロナウイルスの流行によって生産を一時中断するなか、在庫の減少によって新しいマシンは希少なものになるとヤン氏は指摘した。

「春節前にビットコイン価格が低迷していなければ、より多くの生産が可能だった。さらに(春節の)休暇中、マシンを生産しなかった」

ビットコイン価格は春節の後に上がり始めたが、市場価格の動きとマシンの注文の間には遅れがあるとヤン氏は付け加えた。

ウイルスの流行はすでに物流を停滞させており、また多くのマイニングファームは孤立した遠隔地に位置しているため、マシンの配送はさらに難しくなっている。

複雑な方程式

確かにマイニングは複雑なビジネスで、数多くのさまざまな要因が決定に影響を与える。

「各マイナーはマイニング難易度以外の要素を含む独自の方程式を持っている」と仮想通貨ヘッジファンド、トレード・ターミナル(Trade Terminal)のCOO、リンシャオ・ヤン(Lingxiao Yang)氏は述べた。

「マイニング難易度の上昇の鈍化は、マイナーがより多くのマイニングマシンを稼働させ、より速いペースで演算能力を高めることに必ずしもつながるわけではない」

高い演算能力を持つ新しいマイニングマシンの納品が遅れているなか、マイニング能力を高める選択肢の1つは、旧式のマシンを再度稼働させることとヤン氏は指摘した。だが、一部のマイナーにとっては得策ではないかもしれない。

「ハッシュパワーをより高速化するかどうかの決断は、マイナーが利益を出せるかどうかにかかっている。運用コストなどの要素を考慮すると、一部のマイナーは古いマシンを稼働させることで得るものはあまりないかもしれない」

多くのマイニングファームは、より高性能でエネルギー効率の良い新しいマシンを購入しつつ、旧式のマシンを取り払うため、新しいマシンと古いマシンの両方を所有することになるとヤン氏は述べた。

マシンの運用コストはその時点での電力料金やマシンがマイニングできるコインの数などに左右される。四川省の多くのマイニングファームは、季節ごとに発電量が変化する水力発電に依存しており、時期によって電力料金は異なっている。

水力発電による電力が入手困難な時は、一部のファームは石炭火力発電所のある新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区に移動することもある。同じ地域でも、交渉は個別に行われるため、マイニングファームごとに地元政府と異なる電力料金で合意している可能性がある。

マイナーが考慮するもう1つの要素は将来のビットコイン価格の見込み。

「マイナーはマイニングしたビットコインを売ることで収益を得る。価格が1万ドル以上であれば利益が出るが、それ以下だと損をする」とヤン氏は述べた。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Bitcoin miners image via CoinDesk archives
原文:Bitcoin’s Mining Difficulty Stagnates as Coronavirus Outbreak Delays New Equipment