安全な逃避デジタル資産「金」でヘッジを──なぜ今?:元UBS幹部

安全な逃避デジタル資産「金」でヘッジを──なぜ今?:元UBS幹部

オルガ・フェルドマイアー(Olga Feldmeier)氏は、UBSとバークレイズ(Barclays)の元幹部であり、現在は、取引、ステーキング、発行のためのヨーロッパのデジタル資産プラットフォーム、スマート・バロー(SMART VALOR)の共同創業者兼CEOを務める。

米ドルもビットコインも先行き不透明

コロナウイルスの急拡大は、金融業界をはじめ、我々の不意をつくものであった。

大半の者にとって、金融資産を見直す時期が来ている。安全な逃避先として、多くの者が米ドルに集まった。しかし、量的緩和や資金供給の増加策の発表によって、ドルの安全性には疑問がもたれるようになっている。

世界最大の資産管理銀行、UBSのウェルス・マネジメント部門でセールス責任者として荒波をくぐり抜けた経験を持つ私は、危機時に顧客ポートフォリオを調整するスピードが、長期の運用成績に非常に重要な影響をもたらすことを学んだ。

鍵となるのは、どのような転換をするかという点だ。すべてが混乱に陥っている際には、何が自分の資産を救ってくれるのかを見極めるのは難しい。皆が、市場全体と負の相関関係を持つ安全な避難先資産を探している。我々の多くは、それが仮想通貨であることを望んでいた。「デジタルゴールド」のビットコイン(BTC)が、一般的な市場とは常に反対に動くことを願っていた。しかし、ビットコインも他の資産と同様に急落することを、我々は目の当たりにすることとなった。2020年3月12日、ビットコインは他の金融資産と並んで、50%値下がりした。

ここ10日間のビットコインの価格変動を見ると、ボラティリティの高さは維持されるように私には思われる。さらなる紙幣の供給、銀行システムの破綻、5月の半減期に支えられて、ビットコインは2万ドル(約217万円)以上へと再び高騰するだろうか。それとも、ボラティリティの高まりを伴って、先月のように下落を続けるだろうか。

金価格の推移(データ:MacroTrends)

今は仮想通貨を持ち過ぎず、金でヘッジの時

誰にも確かなことは分からない。しかし、1つはっきりとしていることがある。有事の際には、仮想通貨を保有し過ぎることは賢明ではない。完全なビットコイン過激主義者で、資産の大半を仮想通貨で保有する私でさえも、こう言わざるを得ない。「今はヘッジする時だ。」

しかしこのヘッジはどのようなものになるだろうか。米ドルや不動産ではないとしたら、私たちには他に何が残されているのだろう。当然、答えは金である。

金と株式市場の過去の相関関係を見てみよう。危機時には、負の相関関係となる傾向がある。つまり株価が下落するのに伴い、金の価格は上昇するのだ。戦争や、1930年代の世界恐慌を含めた最悪の不況を通じて、金の価格の大幅な上昇を我々は見てきた。2000年と2008年の2度の不況では、他の資産とはまったく異なり、金が投資家のポートフォリオを守った。2008年の世界的な金融危機では、金の価格は200%以上高騰している。これが、金が一般的に、安全な避難先資産、あるいはカオス・ヘッジと呼ばれる理由だ。

なぜ「今」なのか

S&P 500が2月下旬のピークから約30%下落した株式市場の暴落は、それに対応する金価格の上昇によってまだ埋め合わされてはいない。今のところ、金価格はここ2週間で10%上昇した。なぜ、まだなのだろうか。その理由は、株式市場暴落の最初期では、市場参加者はレバレッジされたポジションを切り離し、他の資産の中でも、金のポジションを清算する必要がある点に求められる。当記事執筆時点では、金の価格は年初と比べて変わらず、1オンス約1500ドル(約16万円)付近を推移している。

金保有量の総計という別の指標を見てみると、投資家が経済サイクルの転換にしばらくの間備えてきたことを示している、ブルームバーグ(Bloomberg)によれば、金塊に裏付けられた上場投資信託(ETF)による保有合計は、ここ4年間で1450トンから2700トンへと2倍になり、過去最高の水準である。

最後に、米ドルの価値と金の間にはかなり逆行した関係が見られる。米ドルはここ100年で、その価値を93%失った。そしてこの旅路はまだまだ終わってはいない。アメリカの大規模な23兆ドル(約2495兆円)の負債と、FRB(連邦準備制度理事会)による最近の通貨政策をめぐる決定を見ると、近い将来米ドルの価値がさらに低下することが見込まれる。事実、FRBは指標金利を0.25%から0%へと切り下げることを先週決定し、量的緩和政策や、2兆ドル(約220兆円)規模の経済刺激策を再び打ち出した。

ブロックチェーンの役割と分散型金融

現在、金に投資する一般的な方法は、物理的な金に裏付けられた上場投資信託(ETF)を通じたものである。ETFに投資するには、こうした商品を提供する銀行に口座を持つか、金のETFを提供する取引プラットフォームに口座を開設する必要がある。しかし、これは古い世界の話だ。分散型金融であれば、これらの障害を取り除いてくれる。

物理的なゴールドETFもトークン化された金も、どこか安全な金庫に保管されている実際の金に対する所有権を示すものだ。さらに、どちらも取引所で取引が可能で、比較的流動性のある資産である。トークン化された金がETFと異なるのは、トレーダーが、ブロックチェーン・アドレスを持つあらゆる場所のあらゆる人に対して、数分で、ピアツーピアで、国際的にトークンを送ることができる点だ。銀行口座は必要ない。

トークン化された金は、価値の保管手段としてだけではなく、支払いの手段としても利用することが可能である一方で、銀行システムから完全に外れて移動ができる。ブレトン・ウッズ協定によって金・ドル本位制となる前に使っていた種類のお金である。国家が破綻し、銀行の取り付け騒ぎが当たり前になれば、世界が再び頼ることのできるお金となる。

政府が法定通貨をトークン化する方法を検討し、フェイスブックのような企業がデジタル企業通貨に取り組んでいるが、これらはすべて手遅れとなる可能性もある。危機にある世界では、すべての者が信頼する安定したお金のための、高速で信頼できる移動メカニズムが必要となる。このようにして、世界的な金融危機が、トークン化された金のようなブロックチェーンベースのデジタル資産を、一気に大衆に普及させる触媒となるかもしれない。

トークン化されたデジタル資産が普及する3条件

これが起こるためには、3つのことが必要となる。トークンの発行者、取引所、そして信頼だ。トークン発行者の役割は、発行される各トークンを、適切な量の金で裏付けることだ。取引所は取引を可能にし、流動性を提供する(パクソス(Paxos)は先駆的な存在で、金に裏付けられたPAXGトークンを発行したが、現在ではこのトークンは、正式に認可された金塊と交換できる、完全に規制を受けた唯一の金トークンである)。

3つ目の構成要素である信頼は、達成するのが最も困難だ。従来型の投資家の目には、仮想通貨取引所は信頼できる場とは映らない。このことは、先週多くのヨーロッパの都市で、金(ゴールド)を販売する店の前に列をなす人々で通りが埋め尽くされたことから垣間見れた。明らかに、彼らは銀行が自分たちのためにゴールドETFを保有することを信頼していないのだ。しかし仮想通貨分野にいる我々の多くは、トークン化された、あるいはデジタル化された金の所有権を信頼するかもしれない。我々は分散型ネットワークを信頼し、我々はその技術を信頼し、我々は初期の利用者(アーリーアダプター)となる準備はできている。

翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
原文:Looking for a Safe Haven Digital Asset? Try Gold

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