【イベントレポート】三菱UFJ、GMO、マイクロソフトが登壇──決済ビジネスはブロックチェーンでどう変わるか?【btokyo ONLINE 2021】

約3,000人が参加した国内最大級のブロックチェーンカンファレンス「btokyo ONLINE 2021」(主催:N.Avenue、メディアパートナー:coindesk JAPAN)が2021年3月1・2日の2日間で開催。

1日目の「決済をアップデートする──『次世代インフラ』から『クロスボーダーペイメント』まで」に、三菱UFJニコス株式会社 常務執行役員CTOの鳴川竜介氏、株式会社カンム代表取締役で一般社団法人Fintech協会理事の八巻渉氏、GMO-Z.com Trust Company CEOの中村健太郎氏が登壇。モデレーターは日本マイクロソフト株式会社エンタープライズ事業本部 業務執行役員の藤井達人氏が務めた。

なお、本セッションを含む同カンファレンスのアーカイブ動画の第二弾が公開中。申し込み登録により視聴は無料となる。

「最大秒速1,000万件のトランザクション処理が可能」

本セッションの前半では登壇者の自己紹介と、モデレーターの日本マイクロソフト藤井氏からのそれぞれへの個別の質問が投げかけられた。最初に自己紹介したのは、三菱UFJニコスの鳴川氏だ。鳴川氏は三菱UFJフィナンシャル・グループと米アカマイ・テクノロジーズが共同設立したGlobal Open Network Japan株式会社のCTOを兼務しており、同社が開発するブロックチェーンを使った高速の決済ネットワーク「GO-NET」を紹介した。

鳴川氏は「ペイメント業界の課題としてクレジットカードの一件づつのトランザクション単価が下がっており、システムにかかるコストと収益のバランスがとれなくなってきている」と指摘。GO-NETはコストが安くて大量の処理ができることを目的として開発され、「1秒間に10万件のトランザクション処理ができる」「さらにサーバーを高性能にすることで最大秒速1,000万件のトランザクション処理が可能となる」「ブロックチェーンでのトランザクションが2秒でできる」「サーバーウォレットを億単位で持てる」と紹介した。

個別の質問では、藤井氏から「GO-NETは実社会でどのように用いられるのか?」という問いに対して、鳴川氏は「決済は多様化してきており、今後はさらに自動車などM2M(Machine-to-Machine)の決済、さらにはCBDC(中央銀行デジタル通貨)などが想定される」「安いコストで大量のトランザクションを処理することが求められる」と回答し、インフラそのものをアップデートする必要性を説いた。

これからブロックチェーン上に乗る資産が増える

次に話したのは、Visaプリペイドカード「バンドルカード」を提供するカンムの八巻氏だ。同社は3年で売上を約4,000%伸ばして急成長するフィンテック・スタートアップ。八巻氏はバンドルカードを「アプリをダウンロードすれば、1分ですぐに使えるプリペイドカード」と説明し、プリペイドカードながら後払いに対応して利便性を上げるなどさまざまな施策で累計300万ダウンロードに達したと紹介した。

個別には、藤井氏から「今後バンドルカードは決済手段としてどのように進化するのか?」と質問があり、「チャージ手段は一通りそろった。今後は非接触型決済への対応が進み、さらには店舗にセンサーが導入されることによって商品を持って店を出たら決済されるような世界がやってくる。そこに少しづつ対応することが必要」と回答。「現在はメインのクレジットカードでも月に4、5万円を使うぐらいだが、もっと生活費でも使えるシーンを増やすこと、スマートで便利だということをどう浸透されるかが課題だと思う」と述べた。

続けて藤井氏が「ビットコインを決済に使う際には、バンドルカードのように1回チャージしてから使うステップが必要だが、これが暗号資産やステーブルコインなどとシームレスにつながることで何が変わると考えているか?」と聞くと、八巻氏は「CBDCなど含めブロックチェーン上に乗っているアセット(資産)が確実にこれから増えていくと思う」「流動性が上がれば預金ではなく投資にお金がまわり、日常はカード決済などで対応するといったシチュエーションが登場するかもしない」と決済の未来について語った。

シームレスな経済圏を整えるためのステーブルコイン

最後に話したのは、GMO-Z.com Trust Companyの中村氏だ。GMOインターネットグループとしてビットコインのマイニング事業に関わり、次に取り組んだのが米国ニューヨークでのステーブルコイン事業の立ち上げだという。2020年12月にGMO-Z.com Trust Companyは「特定目的信託会社」の許認可を取得し、2021年3月より日本円ステーブルコイン「GYEN」と米ドルステーブルコイン「ZUSD」の提供を開始した。

個別には、藤井氏から「ステーブルコイン発行までの社内での検討の経緯は?」と質問があり、中村氏は「GMOインターネットグループとしては暗号資産事業としてマイニング、取引所があり、3つ目の柱としてステーブルコインが立ち上がった」「グループにはGMOペイメントゲートウェイがあり決済事業を展開しているが、暗号資産はボラリティ(価格変動)が大きすぎたため、法定通貨にペグ(固定)されたステーブルコインに需要があると考えた」と立ち上げの経緯を述べた。

また「普及までの戦略」を問われ、「法定通貨と同じようにステーブルコインが使われる世界が来ることを期待している」「ブロックチェーン上のデジタル通貨としてプログラマブルに使えるため、オープンAPIなどを提供してシームレスな経済圏を整えていきたい」「実際には米国から始めたが、日本でも使えるようになったときには銀行・決済・FX(外国為替)などとのシナジーを出していきたい」と述べた。

「シンプルで便利なものがマーケットのシェアを奪っていく」

後半は、モデレーターの藤井氏から登壇者への共通の質問が投げかけられ、それぞれに意見交換がなされた。藤井氏の「法改正や銀行APIなどペイメントを取り巻く環境が変わるなかでエンドユーザーの動きはどう変わるか?」という質問に対して、鳴川氏は「エンドユーザーは基本的には利便性と利得性でしか動かない。便利で得な仕組みができたら大きなムーブメントが起こるのではないか」と回答。

(写真左から)藤井達人氏、中村健太郎氏、八巻渉氏、鳴川竜介氏

鳴川氏は、さまざまなものがデジタル化されるなかでは「結局は利得性よりもシンプルで便利なものがマーケットのシェアを奪っていくのではないか」と意見を述べた。

八巻氏も同じ質問に対して、「昨今の法改正などの変化は、要するにインフラのコストをどう下げるかという話がメインであり、直近はそのインフラが整えている段階だ」と回答し、「大きな変化が出てくるのは整った後であり、たとえば与信、信用能力の数値化によりエンドユーザーの生活の仕方そのものの変化が出てくる」と見通しを語った。

藤井氏は、中村氏に対しては「アメリカでの動きをふまえるとどうか?」と投げかけて、それに中村氏は「アメリカの銀行システムは日本に比べて使いづらく、だからこそPayPal(ペイパル)やVenmo(ベンモ)といったフィンテック・サービスが登場した背景がある」と状況を説明。「やはりアプリでお金を動かせることはエンドユーザーにとっても便利なので、資金決済法などの参入障壁が高かったこともあるが日本でもこうしたフィンテックが普及していくのではないか」と答えた。

なお、本セッションを含む同カンファレンスのアーカイブ動画の第二弾が公開中。申し込み登録により視聴は無料となる。

|文・編集:久保田 大海
|画像:N.Avenue