NFT× クリエイターエコノミーの大変動──法的課題は何か?【イベントレポート】

「NFT(Non-Fungible Token=ノンファンジブル・トークン)」は、「クリエイター・エコノミー」の新しい方法として登場したが、NFTを発行するクリエイターにとって所有権がどこにあり、著作権をどう考えるかは重要な問題だ。

2021年7月に金融を専門とする法律家を招いたオンラインイベント「NFT×クリエイターエコノミーの大変動──「知的財産」のイノベーションが始まる」では具体的な事例を提示しながら法律家の見解が語られた。

金融庁と証券会社への出向経験があり、NFTへの理解が深いアンダーソン・毛利・友常法律事務所の外国法共同事業パートナー弁護士の長瀬威志氏と、NFTアートのコレクターであり、NFTの事例に詳しいbitFlyer Blockchain取締役の金光碧氏をスピーカーとして招いた。

モデレーターはN.Avenue株式会社代表取締役の神本侑季氏、イベント主催はブロックチェーンのビジネスコミュニティ「btokyo members」で、coindesk JAPANがメディアパートナーを務めた。

本イベントの動画は、同サイトで無料視聴できる(要・会員登録)。

NFTと法律上のポイントとは

イベントではまず、具体的な事例を紹介する前に長瀬氏がNFTと法律上のポイントについてプレゼンテーションをおこなった。NFTに関する誤解として、NFTの購入が所有権や著作権の取得にはならないことを解説した。

「NFTに紐づいているアートなどの作品の画像自体は誰でもコピー可能である」と述べている。NFTを購入しても法律上では作品のコピーを防ぐことはできないと補足している。

また、NFTには金融規制上の位置づけや、法的性質について未成熟であることを問題点として指摘した。金融規制上の位置づけに関してはNFTは基本的に対象外であると説明した上で、「NFTの仕組みや構築の仕方によっては色々な金融規制の対象になり得る。場合によっては有価証券に当たり、暗号資産扱いになることもあるので、NFTと呼べば金融規制の対象にならないわけではない」(長瀬氏)と補足している。

日本では現行の法律上、デジタル所有権という概念が法定されていない。2015年8月5日の東京地裁の判決ではビットコインは有体性を欠くため、物権である所有権の客体にならないという判例もあり、NFTは所有権の対象にならないと指摘した。

著作権に関してはNFTのアートの部分に関しては著作権が発生すると述べた。しかし、著作権を譲渡するためには当事者間での契約が必要であり、NFTの移転だけでは著作権の譲渡は発生しないという。

NFTアートの法的課題を解決するためには、当時者間で合意を測ることが必要であり、当時者間の利益をバランスよく反映したプラットフォームの構築が重要であると語った。

NFTアートと法律

1つめの事例は420イーサリアム(約6,900万円)で取引されたデジタルアート「Hashmask」だ。Hashmaskの作品を保有しているとネームチェンジ・トークンが貰える仕組みであり、取引所での購入を含めてネームチェンジ・トークンが一定数集まると、作品の命名権が発生する独自の試みがおこなわれていることが語られた。

これに対して長瀬氏は「Hashmaskに関してはNFTなので金融規制の対象ではないが、ネームチェンジ・トークンは暗号資産であるため売買の対象にする場合は規制の対象になる可能性がある」と述べている。

また、Hashmaskを保有しているだけで定期収入が得られる仕組みに関しては、集団投資金持ち分に当たる可能性があり、金融規制の金融商品取引法の対象になる懸念があると指摘した。

次の事例はイギリスの現代美術家であるダミアンハースト氏の2016年に描いたドットの作品をベースに1万枚のアートをNFT化する実験的な取り組みだ。金光氏によると「NFTを買った人が所有しているという実感を構築するプロジェクトは多くあり、フレームやホログラムで映すなどのアプローチが取られている」と語った。

しかし、こちらのプロジェクトは作品の現物がすでにある状態で、現物とNFTによる保有が選択できる。NFTを選ぶと現物が破壊されるので、物理的なモノと紐づくことでNFTが現物であるかのような実感が生まれると金光氏は説明した。

長瀬氏はプロジェクトに対して「法律の建付けではNFTに所有権が生まれるわけではない、(法的な枠組みにおける)仕組み上はなにも変わらない」と指摘した。「NFTアートにおいて所有権は誰にあるのか?」の問いに対して、「そもそもないので誰にも譲渡しようがない」と回答した。

NFTオークションによる独占販売

イベントの中盤からは米国のアーティストであるザ・ウィークエンドがNifty Gatewayというプラットフォームで24時間限定のNFTオークションを行った事例が提示された。オークションではザ・ウィークエンドの新曲と世界に一つだけのアート作品を出品し5,400万円の値がついたという。

長瀬氏はNFTと音楽を組み合わせた独占販売に対して理解を示しつつも「NFTを販売する際の契約が重要であることと、配信後に音楽をダビングする行為に対してどのように対応するのか、プラットフォームとの利用規約が重要になる」とプロジェクトについて指摘した。

また、長瀬氏はNFTとして高額で販売する場合、権利関係が整っていない状態では大きなトラブルに発展する可能性について懸念している。

NFTとゲーム

ベトナムで開発された育成ゲームのアクシー・インフィニティのトークンが大きな値上がりを見せている。

新型コロナウイルスの影響で働き口を失ったフィリピン経済を助けているようだ。NFTゲームに関して長瀬氏はゲームで問題になるのはガチャの仕組みや、賭博、リアルマネートレードに当たるかどうかであると語っている。

しかし、ゲームにおけるリアルマネートレードは法律上では規制されておらず、自主的にゲーム業界が規制している状況であるという。

金光氏によると「アクシー・インフィニティの凄いところはスカラー制度であり、ゲーム内のキャラクターを貸し出し、稼いだ額の75%を貰える仕組みがある」と語っている。

長瀬氏もNFTゲームのキャラクターを貸し出す行為は、NFT自体が金融規制の対象ではないので、現状では日本の法律に引っ掛かることはないであろうとアクシー・インフィニティのスカラー制度を肯定した。

また、長瀬氏は「ゲーム内のキャラクターだけではなく、アイテムや装備などの貸し出しも可能となり、卒業式や、成人式に晴着を貸し出す業者がいるようにゲーム内のアイテムを貸し出す業者も出てくるのではないか」と今後のNFTゲームの展望を語った。

長瀬氏は、ゲーム内のキャラクターはNFTであるため金融規制の対象にならないが、大手の取引所で売買されているゲーム内仮想通貨は日本の法律では暗号資産扱いになる可能性が高いと指摘した。

ゲーム内のアイテムの売買が賭博罪に当てはまることはあるのか――Q&A

最後に長瀬氏に対してオーディエンスからの質問を複数募った。その一つには「ゲーム内のアイテムの売買が賭博罪に当てはまることがあるのか」という質問があった。

NFTゲームのアクシー・インフィニティは日本からでも遊べるが、長瀬氏は「賭博の要件は偶然の事象に基づいて勝敗を決し財産の特損が生じることなので、NFTを買っているだけでは賭博罪には該当しない」と回答した。

しかし、売買している対象のNFTが「競馬の馬」のように、その有無により勝率を左右するものの場合は、賭博を助長する内容に見られることがある。

質問への回答が終了すると最後にイベント参加者の感想を持って幕を閉じた。スピーカーの金光氏と長瀬氏の感想は次の通りであった。

「NFTは便利で面白いがビジネスに落とし込むこむなら考えることが多いので、考えながら楽しんでいきたい」(金光氏)

「NFTの仕組みは非常に革新的で、デジタルコンテンツはコピーが容易であるから価値が薄いということが既存概念であったが、それを大きく覆す技術が出来上がっている。プログラムを組み込むことで二次流通の利益をクリエイターに還元する仕組みもできるので可能性が非常に大きい。法的なハードルがネックになっているので、できる限りそこを埋める手伝いをしていきたい」(長瀬氏)

|文・編集:coindesk JAPAN
|トップ画像:左上から時計回りに:長瀬氏、金光氏、神本氏/撮影:coindesk JAPAN