若きビリオネアのバンクマン-フリード氏が熱中すること:最も影響力のある人物【2021】

今となってはビリオネアだが、サミュエル・バンクマン・フリード(Samuel Bankman-Fried)氏はいまだに、相変わらずのモサモサとした髪型をしている。

「ベッドから起き上がったばかり」と言わんばかりの髪型なのだ。あるいは、ベッドではなくクッション型ソファか。「ベッドで寝るという点では、その頻度は5割にまで上がっている」と、バンクマン-フリード氏は語る。

わずか1年での飛躍

5割というのは、すごい数字なのだ。バンクマン-フリード氏にとって、ベッドはかつて手の届かない贅沢品であった。わずか1年前には、元トレーダーの彼は香港で、当時は無名の投資会社の立ち上げを行いながら、ほぼ毎日、デスクの下で眠っていた。(一度は香港時間午前3時30分に電話をかけたこともあるが、彼はオフィスにいて、喜んで電話を受けてくれた)

大半のアメリカ人は、FTXなんて聞いたことがなかった。ビットコイナーの間でさえも、当時はデリバティブのようなプロ向けの投資プロダクトに重点を置いていた取引所FTXのことを、知る人はあまり多くはいなかった。

それから1年。

NBA(全米プロバスケットボール)チーム、マイアミ・ヒートの本拠地はいまや、FTXアリーナと呼ばれるようになった。FTXのCMには、NFLプレイヤーのトム・ブレイディや、モデルのジゼル・ブンチェンが出演。

MLBの優勝決定戦ワールドシリーズの期間中は、ホームベースの後ろのFTXのサイン、数え切れないほどのFTXのCM、審判のユニフォームのFTXのロゴなど、FTXが至る所で目に入った。FTXは、「MLBの公式暗号資産(仮想通貨)取引所」となったのだ。

10月に4億2000万ドルの資金調達ラウンドを完了させたFTXの時価総額は現在、推定250億ドル(約2.8兆円)。まだ30歳に満たないバンクマン-フリード氏は、世界で最もリッチでパワフルな人物の1人となった。

そのことは、彼を変えてしまってはいないようだ。彼はいまだに「その日その日でちょうど良いと思える時間」に食事をとっており、それは時には午後3時、時には午前3時を意味する。

(「動物の福祉がすべて」と言って)動物愛護の理由からヴィーガンを貫き、「自然界が与えてくれた驚きのヴィーガン食品の1つ」と彼が呼ぶところの、大好物のオレオにいまだに手を伸ばしている。

規制対応に全力投球

そして彼は、規制に対して、エネルギーを集中投下している。バンクマン-フリード氏は今年、規制関連の問題に自ら対処するのに、1日に5時間も費やす時期もあった。2022年にも、規制が暗い影を落とすと見込んでいる。

「面倒な分野だ。しかも、195もの国があるのだ」とバンクマン-フリード氏は語り、「それぞれの国が別々に、自国の規制枠組みを検討している。そのすべての先を行こうとしているんだ」と説明した。

FTXがその本拠地を香港からバハマへと移したのも、規制が理由だ。バンクマン-フリード氏は、バハマは「暗号資産に対して包括的な規制枠組みを持っており、そのような国はほとんどない」と説明した。

バンクマン-フリード氏は、過度の規制がビットコイン(BTC)に対する最大のリスクと考えている。「完全禁止」の可能性は低いと考えているが、「緩やかな禁止」のリスクは認めているのだ。

「アメリカとEUにおいて、暗号資産プロジェクトへのアクセスを制限する組織的な動きがあれば、市場には著しい悪影響を与えるかもしれない」と、バンクマン-フリード氏は指摘する。

2022年の規制に関してバンクマン-フリード氏は、何らかのステーブルコイン規制があるのは「ほぼ間違いない」と見込んでいる。ステーブルコインの裏づけとなっている資産の定期的監査など、「ステーブルコインをめぐって色々と騒がしくなっており、その規制を目指す意志が大いに見える」からだ。

そこにはメリットもあるかもしれない。ウィンクルボス兄弟と同じように、バンクマン-フリード氏は、アメリカにおける規制は不可避で、むしろ有用なものと考えており、米ニュース専門テレビ局CNNに対しては、「暗号資産業界の最強バージョンは、規制による監視を受けたものだ」と語っている。

ビットコインに対するリスクの中には、すでにそれほど懸念すべきものではなくなっているものもあると、バンクマン-フリード氏は指摘する。例えば、機関投資家が市場から逃げ出すリスクだ。2021年末現在のビットコインをめぐる現状と、2017年末時点でのビットコインをめぐる状況を比較すると分かりやすいと、彼は考えている。

「世界中の機関投資家が、ビットコインに関わるかどうかを、積極的に決断しようとする」のに伴って、「2018年を控えた時期には、かなりの興奮が渦巻いていた」と、バンクマン-フリード氏は語る。そこに、大暴落が起こった。暗号資産に興味を示していた機関投資家は、辛うじて大惨事を免れたと感じ、そのまま様子見するにとどまった。そしてビットコイン価格は、勢いを失ったのだ。

「そのような機関投資家の多くが、ビットコインに投資するまでには、そこから2、3年かかった」とバンクマン-フリード氏。暴落が2020年の夏に起こっていたら、大手機関投資家は暗号資産投資に足を踏み入れなかっただろうと、彼は考えている、

しかし現在、機関投資家はすでに投資しているのだ。もう後戻りはできない。「今となっては、多くの機関投資家が、昔よりコミットしていると思う」とバンクマン-フリード氏は語り、2022年にはさらに多くが投資に加わってくると見込んでいる。「この勢いを止めるには、はるかに多くのマイナスの影響が必要となるはずだ」と、彼は指摘した。

ビットコイン価格が急落したら?

その大規模な事業拡大を考えると、FTX自体にとって、「マイナスの影響」とはどんなものか、私は興味を持った。外部の人間からすると、FTXは宣伝に対して湯水のようにお金を使ったように見える。しかもそれは、爆発的な強気相場の最中に起こったのだ。

ビットコイン価格が急落したら、FTXはどうなるのだろうか?

バンクマン-フリード氏はそのことを思い悩んで、眠れない夜を過ごしたりはしていない。まず、驚くことに、FTXの宣伝やパートナーシップの予算は2021年の収益の10%未満に過ぎず、「その点では大きな痛手にはならない」と話した。

ビットコイン価格が2万ドルまで暴落した場合、長期的収益(「あるいは少なくとも中期的収益」)は低迷するだろうが、「利益を出せないほどまで下がるとしたら、大いなる衝撃だ」とバンクマン-フリード氏は語る。

ビットコインが弱気相場に転じたとしても、新たに調達した4億2000万ドルのおかげで、FTXは「かなりしっかりとした資金の防護壁」を持っている。しかもその防護壁は、さらに「しっかり」としたものになるかもしれない。FTXが15億ドルの資金を調達して、評価額は320億ドルとなる可能性があると、最近報じられているのだ。

「効果的利他主義」

スタンフォード大学ロースクールの教授を両親に持つバンクマン-フリード氏は、「効果的利他主義」を長年信奉している。つまり、その影響を最適化できるような形で寄付を行えるよう、可能な限りお金を儲けようとする、ということだ。

彼は2020年、大まかに計算を行い、自らの資金は、1つのシンプルな働きをさせることで、最大限の善を成し遂げられると決断した。トランプ大統領を大統領の座から引きずり下ろすことだ。バイデン陣営への500万ドルの寄付(最大規模の寄付者の1人であった)は、リバタリアンの多い暗号資産の世界では、珍しいことであった。

「共和党議員にも、民主党議員にも寄付したことがある」とバンクマン-フリード氏は語ったが、すぐに「今では、民主党議員への寄付の方が多い」と述べた。

しかし彼は、特定の党への忠誠よりも、政策の方を重要視している。例えば、ビリオネアに対する民主党の課税提案には愕然としているようで、ニューヨーク・タイムズの中でも、金融関連ニュースを扱うプラットフォーム「DealBook」に対して、「大きなマイナスの副作用を及ぼす可能性があり、イノベーションの数、そしてそもそも課税できる基盤を減らしてしまうことになると考えている」と語った。

2024年の大統領選はどうだろうか?「誰が候補者となるかが分からない状態で、しっかりと予測するのは難しい」と彼は語ったが、知ってか知らずか、バイデン大統領に対して、笑ってしまえるほど痛烈なコメントとなっている。

そもそも、暗号資産の基準からすれば、2024年なんてはるか先の未来だ。その頃には、マンハッタンのFTXタイムズスクエアで新年を祝うようになっているかもしれないし、FTXのキャッシュアプリを使ってクリスマスプレゼントを買い、小さな子供たちは、FTX北極からサンタがプレゼントを運んでくれるよう願うようになっているかもしれない。

それは冗談だが、バンクマン-フリード氏はその頃になっても、髪の毛を梳(と)かしていないということだけは、間違いないだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:CoinDesk
|原文:Most Influential 2021: Sam Bankman-Fried