バイナンスとFTX、買収合意に至るまで──SBF帝国の光と影

バイナンスとFTX、買収合意に至るまで──SBF帝国の光と影

サム・バンクマン-フリード(Sam Bankman-Fried=SBF)氏が築いてきた暗号資産帝国がどれほど崩壊に近づいていたのか?崩壊した場合、どれほどのダメージを業界にもたらしていたのか?

私たちは決して知ることはないかもしれないが、存在していた主なリスクは分かっている。そして悲しいことにそれは、ビットコインが10年前に作られた時に、解決しようと目指していたことと同じ問題だ。

「金融の自己取引」、「人間の傲慢さ」、そして「透明性に欠ける市場」というものだ。

取引高で世界最大の暗号資産取引所バイナンスは、競合のFTXの買収に合意。バイナンスのCEOチャンポン・ジャオ氏(Changpeng Zhao=CZ)氏は買収合意をツイッターで認め、2つの取引所が拘束力のない趣意書に署名したと語った。

これからデューデリジェンスのプロセスを経る必要がある、未完成の合意書は、FTXを破綻から救うための一時しのぎの方策だ。バンクマン-フリード氏とジャオ氏という暗号資産界きっての大物2人の間の亀裂で動揺していた市場を、ある程度落ち着かせることができるだろう。

劇的な転落劇

バンクマン-フリード氏にとっては、急速な凋落である。スポーツスタジアムにFTXの名前を貼り出し、おしゃれな雑誌の見開きを飾り、ブロックファイ(BlockFi)などの破綻したブロックチェーン関連の企業を支える取り組みで暗号資産界の「J.P.モルガン」とまで呼ばれていた、暗号資産界で愛されるシンボルのような存在だったのだ。

「一周して元の場所に帰ってきた。FTX.comの最初と最後の投資家は同じになる。FTX.comのために、バイナンスと戦略的取引を行う合意に至った(デューデリジェンスなどはこれから)」と、バンクマン-フリード氏は8日にツイートした。

バンクマン-フリード氏は常に、ブロックチェーンを目的のための手段として見てきた。できる限りの影響力を集めるために、できる限りの利益を上げることが目標と公言して、米投資会社ジェーン・ストリート(Jane Street)で数年間トレーダーを務めた後、暗号資産業界に進出した。そのような考え方は、バンクマン-フリード氏が自らをリッチにしたツールやプロトコルにお金を使っていれば、問題はなかっただろう。

しかし、前回のアメリカの選挙戦で5000万ドルを寄付したバンクマン-フリード氏は、自らの影響力を、顧客や競合を怒らせるような規制を求めるのに使った。分散型金融(DeFi)向けにブローカレッジのようなライセンスシステムを生み出すDCCPA法案を声高に支持し、金融のプライバシーに反対していた。

それらは、バンクマン-フリード氏が公に行なっていたことだ。ジャオ氏にとっては、より大きな懸念事項は陰でバンクマン-フリード氏が言っていたことだ。

「陰で他の業界関係者に敵対するロビー活動を行うような人たちを支援しない」と、ジャオ氏は先週末にツイート。これは「透明性を保つ」ための試みだと、バイナンスが前日に行った5億ドル相当以上のFTTトークンの大口取引を説明して、ジャオ氏は述べた。

バイナンスはFTTトークンを公開市場で売却するとジャオ氏は発表。バイナンスが早々に支援し、その後取り付け騒ぎを受けて破綻したもう1つのプロジェクトLUNAとの類似が懸念を呼んだ。

アラメダ・リサーチ(Alameda Research)の財務状況がCoinDeskに報じられて生じた、市場の不透明感に引き起こされたチャンスを、ジャン氏は掴もうとしていたのだ。

FTXとその姉妹会社でヘッジファンドのアラメダの関係はこれまでも、どちらもバンクマン-フリード氏が立ち上げたという以外、はっきりしていなかった。

CoinDeskが入手した財務書類によれば、アラメダの資産の大半は流動性がないか、あるいはロックアップされたアルトコインであり、FTT、SOL、SRM(バンクマン-フリード氏が共同創業した分散型取引所Serumのトークン)を含め、その多くはバンクマン-フリード氏と関係があるものだった。

「アラメダは大半のFTTを清算して、債務を返済することはできない」と、テラ/LUNAの崩壊を早期に嗅ぎつけたダーティー・ダブル・メディア(Dirty Bubble Media)のマーケットアナリスト、マイク・バーガーズバーグ(Mike Burgersburg)氏は語った。

逃げ出した投資家たち

取り付け騒ぎは、自己達成的な予言になることがある。FTXやアラメダがマージンコールを受ける可能性は低いと、複数のアナリストが指摘していたが、セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)やボイジャー・デジタル(Voyager Digital)のように、破産手続きで自らの資産に手をつけられなくなることを懸念した投資家たちは、資産を引き上げ始めた。

バンクマン-フリード氏とアラメダのCEOキャロリン・エリソン(Caroline Ellison)氏は、投資家たちを安心させるためにできることは行った。ジャオ氏にFTTトークン1つにつき22ドルを出すと提案することで、FTTの急落を抑えようとしたのだ。

エリソン氏は、流出した財務書類にはアラメダが保有する100億ドルが含まれていないと主張。バンクマン-フリード氏は、顧客の資産は「安全」で、他の暗号資産取引で再担保として使われたことは決してないと語った。

オンチェーンデータの分析からは、より心配な実態が伝わってくる。ステーブルコインや他の資産がFTXから流出していったのだ。Coinglassによると、バイナンスの買収が発表されるまでに、トレーダーたちはFTXにあったすべてのビットコイン(BTC)を引き出した。

アラメダはイーサ(ETH)をFTXに送るために様々なDeFiプラットフォームから資産を引き出し、高額な引き出し手数料のことはあまり気にしていなかったようだ。

その後、FTXユーザーたちが、プラットフォームからの引き出しの遅延についてツイートを開始。BitDAOはアラメダに昨年11月に獲得した1億ものBITトークンをまだ保有していることを証明するよう要求し、その取引でBitDAOが獲得した336万のFTTトークンを売却するべきか投票を開始した。

このような流れの中、業界のコメンテーターたちはバンクマン-フリード氏を、透明性が欠如していると非難。FTXとアラメダの準備資産の証拠を見せるよう要求した。

「暗号資産業界におけるさらなる規制と、より良いガバナンスの必要性についてバンクマン-フリード氏がスタンドプレーをしていたことを考慮すれば、無理なお願いでもないと、批評家たちは指摘していた」とフォーチュン誌は報じた。

8日には、急落を最小限に抑えるためにFTTを相対取引(OTC)で買い取るというバンクマン-フリード氏の提案をバイナンスが拒否することが明らかとなった。8日には横ばいで取引されていたBTCやETHなどの主要暗号資産は、夜中の取引で下落を始めた。

帝国の崩壊

バンクマン-フリード氏の帝国が崩壊すれば、そこから波及する影響が深刻なものになるのは明らかだった。暗号資産は複雑にもつれ合っており、ひとたびほころびが生じれば、ヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)の破綻後のように、エコシステム全体が崩壊してしまう可能性もある。

主にFTTを裏付けとしていたマジック・インターネット・マネー(MIM)と呼ばれるステーブルコインは、ドルとのペッグを失った。

MIMのような開かれた金融システムの場合、少なくとも投資家は、清算がどの価格で行われるかを知ることができる。一方のFTXはブラックボックスで、バンクマン-フリード氏が公開すると決めた情報しか、私たちの手には入らない。

FTXに資産を残したユーザーにエアドロップをするという未確認の情報をバンクマン-フリード氏がリツイートしたことを、多くの人は死に物狂いになっているサインと読むようになっていった。

暗号資産ヘッジファンド、アルカ(Arca)の最高投資責任者ジェフ・ドーマン(Jeff Dorman)氏は、「どのような結末を迎えたとしても、自発的な透明性の欠如を理由に、業界(そして金融機関全般)に対する新たなダメージとなる」とした上で、「ブロックチェーンデータを発見、解読、解釈する訓練を受けた熟達したリサーチャーやブロックチェーンデータの透明性に関しては、大きなマル印がつくこととなる」と述べた。

そして私たちは、また振り出しに戻った。バンクマン-フリード氏とジャオ氏が折り合いを付けられたことは、別に慰めにはならないだろう。単なる舞台裏での取引に過ぎないのだから。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:CoinDesk
|原文:The Story of Sam Bankman-Fried’s Backroom Deal With Binance’s CZ

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