ビットコインの価格は半減期でも上昇しない?──次回は2020年5月頃

仮想通貨で数少ない確かなことの1つは、次のビットコイン「半減期」をめぐる議論が今後6カ月間で白熱するということ。

なぜか? 過去の半減期は価格上昇を引き起こしたから。価格上昇を好まない人はいない。

多くの人は、次の半減期も市場に同様の効果をもたらすと確信しており、「歴史は繰り返す」は単なる信念ではない──そのセオリーを裏付けるモデルが登場してきていた。

しかし価格上昇が期待されるなら、なぜすでに起こっていないのだろうか? なぜ価格はすでに折り込まれていないのだろうか?

なぜなら半減期は単なるイベント以上のものだから──物語でもあり、さらに不確実なものだ。

半減期とは何か? なぜ起こるのか?

まず、半減期とは何か、なぜ起こるのかを復習しよう。

インフレをコントロールするために、ビットコイン・プロトコルには2100万枚という発行上限数が事前にプログラムされており、新しいビットコインはネットワーク処理者(つまり「マイナー」)のためのインセンティブとして段階的かつ管理されたペースでシステムに投入される。

ビットコインが発行されるスピードは4年ごとに半減する。ゴールドの採掘の難しさが増すことを表面的に真似たものだ。

2012年11月28日、50ビットコインという初期の報酬は25に半減、そして2016年7月9日以降、マイナーは1ブロックの生成に成功するたびに、12.5ビットコインを受け取っている。

ブロックごとのネットワーク・インセンティブが「6.25」となる次の半減期は2020年5月と予想されている。

出典:デジタル・アセット・リサーチ(Digital Asset Research)。統計モデルであり、価格予測ではない。

上記の表は価格(ライトブルーの線)が、過去の半減期に先立って上昇を始め、その後もしばらく上昇したことを示している。しかしデータは限定的なものだ──市場は半減期を2回しか経験しておらず、このパターンがまた繰り返されると考えることは拡大解釈となるかもしれない。

そこで需要/供給のファンダメンタル分析の出番だ。

供給ショック

ビットコイン投資家でアナリストのトゥール・デメスター(Tuur Demeester)氏は先日、ビットコインが次の半減期まで8000ドル以上の価格を維持するためには、新しいビットコインがシステムに投入されることによるデフレ効果を相殺するために、市場に29億ドル(約3150億円)の投資の流入が必要と指摘した

投資の拡大がコンスタントに続くと仮定しても、市場に投入される新しいコインが少なくなる半減期後の売り圧力の減少は、価格の高騰につながる。

プランB(Plan B)と名乗っているトレーダーは、さらに踏み込み、ストック・フロー比率(現在の量を年間の生産量で割ったもの)を使って、過去にさかのぼってビットコイン価格の過去の変動を高い正確性で予測するモデルを生みだした。その際、ゴールドとシルバーをベンチマークに使った。

このモデルでは、次の半減期以降のビットコイン価格は約6万ドル(約650万円)となると予測されている。

このモデルを批判する人たちもいるが、厳しい検証を受けており、結果は正しいようだ。直感的にも納得がいく。つまり、他の要素がすべて同じなら、供給の減少は価値を高めるはず。それではなぜ、価格はすでに高いレベルへと向かっていないのだろうか?

ここに物語が関係してくる。

技術的には、従来的な投資用語での「バリュー・ドライバー」ではないという点で、半減期は「ファンダメンタル」なイベントではない。資産分析における「ファンダメンタル」とは、利益、市場規模、貸借対照表といった評価額を押し上げることができる、変動するが定量化可能なものを意味する。この意味で、事前にプログラムされた希少性はファンダメンタルではなく、ファクチュアル(事実に基づくもの)だ。

事実そのものには解釈の余地がないと考えることはできる。だが、それがもたらすインパクトには常に解釈の余地がある。半減期が起こることを疑う人はいない──だが、その影響をめぐる物語ははっきりしない。

その理由を見ていこう。

懐疑的である理由

まず、半減期はすでに価格に折り込み済みと主張する人たちがいる。2019年の3300ドルからから1万2000ドルへの価格上昇? まさにそれだ。

市場は情報の流通において比較的効率的であり、賢明な投資家たちは供給調整を自身のモデルに組み込み、それに応じたポジションを取ったという主張だ。

次に、現在のビットコイン・エコシステムはほぼ間違いなく、これまでの半減期と大きく異なっている。

つまり4年前、仮想通貨デリバティブ市場は生まれたばかりであり、機関投資家の関与は薄く、評価の枠組みは事実上存在していなかった。投資家にとって「今回は違う」と考えることは不合理なことではない。

業界内部の一部の人物は、半減期はマイナーの採算性を減らし、多くの小規模なマイナーを市場から追い出すことになるなら、半減期はネガティブなものになり得ると示唆している

確かにそれは、価格の上昇によって相殺できるが、仮に相応の結果にならなければ、ネットワークの中央集権化の高まりはセキュリティに関する懸念を引き起こす可能性がある。

さらに従来型の市場では、価格が供給の作用であることは稀だ。むしろ需要に影響されるが、ストック・フロー比率モデルは需要を考慮していない。

確立され、広く使われているファンダメンタルなユースケースが(今のところ)欠落している状況では、仮想通貨市場における需要は物語主導型となる。

価格は上昇するか?

需要は半減期の物語に影響を受ける可能性がある。半減期が価格に影響を与えるという多くの人の期待は、投資資産としてのビットコインの需要を刺激する可能性があり、それが価格に影響を与えることになる。特に、供給モデルと過去の相関関係によって引きつけられた新しい投資家が市場に参入することの影響を受ける。

さらに我々は、物語が価格に影響を与え、価格が物語に影響を与えるという、頭が混乱するようなサイクルに陥る可能性もある。

そうだとしても、この先の数カ月、仮想通貨市場における頭が混乱するようなことはこれだけではない。ビットコインの半減期をめぐる騒ぎは、その独特なエコノミクスを浮き彫りにし、それが次のさらなる投資家の関心を呼び覚ますだろう。

もしこれがビットコインの新規供給が減少する時に、投資のさらなる流入につながれば、半減期後の価格上昇を予測した表は、結局正しかったことになる。

それでもまだ、物語は気まぐれで、それが続くと想定できる投資家は勇敢だ。また物語が単独でうまくいくことは稀──ビットコイン価格に同じくらい大きな影響を与えることができる数多くの事態が進行中という現実を直視しよう。

どちらにしても、予測モデルの登場は、マーケットのダイナミクスと、より広範な金融市場におけるビットコインの役割を理解する助けになるというポジティブなステップであるということを否定することは難しい。

経験豊富な投資家は、これらを歓迎し、かつ、基盤となっている仮定をかなりの懐疑心を持って扱うことは間違いない。


ノエル・アチソン(Noelle Acheson)は、企業分析を専門とするCoinDeskリサーチチームのディレクター。この記事で示された見解は筆者自身のものです。

注:著者はビットコインとイーサを少量保有している。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Halved persimmon fruit image by Rodrigo Argenton via Wikimedia Commons
原文:Why Bitcoin’s Next ‘Halving’ May Not Pump the Price Like Last Time